(ちょっと短い話)「聖地巡礼」のスカウト。「ド✕ゴ✕ク✕ス✕ダ✕の大冒険」で。

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 アニメ好きなら、こんなスカウトも、当たり前?

 「聖地巡礼」

 彼、クリカニワタリ君のようなアニメ好きなら、その言葉を知っていて、当然だったろう。

 「アニメファンは、アニメの舞台、題材になった土地のことを、聖地と呼ぶんだよ」

 「ほう」

 「で、実際に、その土地に訪れたりするもんだ」

 「クリカニワタリは、良く、知っているのな」

 「まあな」

 高校のクラスメイトと、一緒に並んで、登校している途中だった。

 そういうときほど、事件が起こる。

 「あの、高校生の方々、ですよね?」

 「はい」

 「はい」

 ほら、きた。

 この日本でなら、多くの人が、わかっている。

 「ちょっと、そこで、話を聞かせてください」

 スーツを着た女性に、路地裏に連れ込まれる、男子 2人。男子が、女性に、カツアゲでもされるっていうのか?

 いや、違う。

 「あ!」

 「どうした、クリカニワタリ?」

 「この人、メガネっ娘じゃないか!」

 「…そういう言い方は、やめろって」

 「…何か?」

 「いえ、何でも」

 「何でも、ありません」

 女性に聞かれることは、わかっていた。

 「うちの会社に、入ってくれませんか?」

 ほら。

 やっぱり。

 「人材不足な日本」では、高校生の段階から就職先が決まることも、多くなった。

 日本は、変わった。

 努力して大学にいき、そこでも努力したって、ほぼほぼ、無意味。

 「俺たち、救われないよなあ」

 大人は、将来に悩む高校生たちのことを、良く、わかっていた。だからこそ、たくさんのエサをまいて、彼らの興味を引く。

 「救われたいのでしょう?」

 「我が社に、きませんか?」

 「我が社では、毎日が、パーティです」

 「良い子、そろっていますよ?」

 日本の会社は、本当に、変わった。

 「テーマパーク、いきたいでしょう?」

 「お父さんとお母さんも、一緒にどうぞ」

 新卒と呼ばれる過保護世代に合わせてしまうと、こういうスカウトになる。

 人材不足な日本の、リアル。

 努力をしてもつぶされた世代の子たちの涙は、半端ない。

 こんなスカウトだが、「会社名を、明かさないこと」を条件に、今の日本では、合法になっていた。

 彼女の攻撃が、続く。

 「うちの会社に、こない?楽しく、気持ち良くなるかもよ?」

 彼女が、後ろで束ねていた長い髪を、ふわっと、ほどいた。

 「あ、ツインテール!」

 「ふふふ…」

  2人の高校生男子は、すぐに、彼女に連れていかれてしまった。

 連れていかれた先は、ややさびれた、ひびの入ったビル。

  3階建てほどの、高さか。

 いくつかの会社が、入っていたんだろう。ビルの入口には、いろいろなのぼりが、立てられていた。

 屋上からは、垂れ幕まで下げられていたようだ。

 「あ!」

 「いやらしいな!」

 のぼりや垂れ幕に書かれていた文字が、刺激的。

 「何だ?」

 「何、これ?」

 「最高の聖地巡礼を目指そうとか、書かれているじゃないか」

 「あ…」

 「どうした」

 「アニメキャラを使ったのぼりも、ある」

 そのとき、クリカニワタリのほうには、ある言葉が浮かんで離れそうになかった。

 「アニメで、町おこし」

 最近のアニメは、実際の土地や企業をテーマにしているものも多くなったと、聞いていた。

 テーマに使われる土地や企業では、その、モチーフとなったアニメと結んでファンを呼び、町おこしをしたりするようになってきていた。

 …まさに、これなのか?

 「ビルの中へ、どうぞ」

 女性に言われ、 2人の足が、ふんわかと動き出す。

 「…あ!」

 「…あ!」

 見てはいけないものを見てしまったっていう、感じ。





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