第2話「あなたはもう"ライム依存症"、私のライムは切れ味抜群、"アイム日本刀"」

「はーい、"ただいま"、"ジャマイカー"、"じゃないか"っ」


「あ、ジャマイカというのは韻を踏んだのもありますが、コーヒーの豆がジャマイカなんです」


「そっ、こだわってるって言ったでしょー」


「お砂糖とミルクも持ってきたけど……使います?」


「まあ、私的には使わないで欲しーかなーって」


「まずはブラックで」


「ほら、どうぞどうぞっ」


「あ、熱いから気を付けてね」


「…………」


「……どお? 美味しい? 私の入れたコーヒー美味しい?」


「……ふふっ、良かったっ」


「練習では何回か入れてるんだけど、人に出すのは初めてだったから、ちょっと"不安"だったんだー、あ、これは"わん"で良かったかっ」


「じゃあ、どうする? 右耳にする? それとも左耳?」


「あっ、忘れちゃったのー? 耳元で韻を踏んであげるって言ったでしょー?」


「私の"吐息"を耳元で感じながらぁ、ほっ"と一息"つきましょう?」


「ほら、どーするの? 右耳? それとも左耳?」


「……んー、じゃあさ、じゃあさ、悩んでいるならさ、両方やろっかっ」


「最初は右耳で、その次は左耳」


「オーケー?」


「はーい、じゃあ、君の近くに寄って……」


「耳元、失礼しまーすっ」


「ふーっ」


「あ、こら、逃げないっ」


「ほれ、近うよれ、近うよれー」


「はい、もうイタズラしないから、ちゃんと座ってねー」


「よーし、じゃあ……行くね?」


「……こほんっ、まずは、"失礼します"と、"一礼します"」


「"一名様ご案内"、"いいえこれは赤裸々しょうがない"」


「だってこれは初めての"接客"、"せっかく"来てくれたからには、"別格"なライムで、"デッカく"かましたいっ」


「私は"出っ張る杭"、止まらない"減っらず口"、ノー、ノー、"ネッタ作り"」


「私のライムは搾りたて、常に"新鮮"、本気だから"真剣"、しかも"切れ味抜群"、"次元が違う"、"世界ランク"なライムは常に、"全開ガール"!」


「いぇあっ」


「…………」


「……ふふっ」


「ふふふっ」


「どーよ、この私の"才能"!」


「もう知ってる? "I know"ってこと?」


「じゃあ、君は"有能"だね、"You know"だ!」


「私のライムは、"荒唐"無稽な奴らとは違い、"そうそう"真似できない、けど今日も行って来た"高校"Todey!」


「……えっ? あ、うん、私高校生だよ?」


「あっ、見た目が大人っぽいから、もうちょっと歳上だと思った?」


「それとも、制服を着てないから?」


「いーじゃん、私服っ。ほら、君も私の可愛い"私服"を見れて、"至福"のひと時じゃない?」


「おまけに、こんなに"沢山"、"雑談"しながら、韻を踏まれたらさ、耳が幸せになっちゃうんじゃない?」


「ああ、もうライムが耳から"離れない"ー、私に毎日韻を踏んでと"甘えたい"? それを"情けない"とは思わない」


「だって、あなたはもう"ライム依存症"、私のライムは切れ味抜群、"アイム日本刀"」


「"ほんとにホット"、"論より証拠"、"ほんとにほんと"の、MC、"ここに登場"」


「……ふっ」


「……ふふっ、自分の才能が憎いぜっ」


「どお? ライム好きになってきた?」


「それとも"少し""くどい"かな?」


「んー、じゃあさ、じゃあさ、今からは日常会話に、少しだけ組み込む感じにするねっ」


「ステルスライムだよっ」


「これ、この喫茶店でも結構ウケるスタイルらしくてさ、あっ、今踏んだでしょ? みたいに楽しめるみたい」


「さてさてっ」


「君は私のライムに気が付けるかな?」


「ちなみにもう一個デカいのを踏んでます」


「ふ、ふ、ふっ、実は"ステルスライム"と"ウケるスタイル"で踏んでいるのだよっ」


「どーよ、気が付かなかったしょー?」


「さっきから、"韻を踏"むときは、"引用符"みたいに強調してたけど、サラッと言われるとさ、案外気が付かないでしょ?」


「ちなみに答え合わせはしないので、そこんとこよろしくーっ」


「何か楽しんでないかって? ふふ、お陰様で楽しいよ?」


「大好きなラップをノンストップで、トークトーク出来てるんだから、楽しいに決まってるじゃんっ」


「そっ、普段はあんまり出来なくてさぁ」


「高校でもさー、そーゆーのに興味あるの私だけだしさー」


「友達との会話中にこっそり韻を踏んだりして、一人で自己満足、まるでゲーム、ニドランオス、白ランポス」


「あ、ふふっ、流石にコレくらい分かりやすく踏むと気付いちゃいます?」


「でもさー、でもさー、友達はみーんな気付かなくて、私目線、かなりぴえん、みたいな」


「あ、でも時々、今ダジャレ言った? みたいな反応はされるかなー」


「まあ確かに、ダジャレ的な要素は––––あると言えばあるしねー」


「ダジャレラップします?」


「いいよー、えーとっ」


「こほんっ、いきなりカマすぜ、ダジャレラップ! まずは、布団が吹っ飛んだっ、レモンの入れもん、筑波山に食い付くばーさん、朝会の主役は校長かい? 校長先生絶好調!」


「いぇあっ」


「…………」


「……ぷっ」


「あはははっ、校長先生絶好調だって!」


「えー? 自分で言って笑うなってー?」


「だって、校長先生絶好調だよ?」


「絶好調なんだよ?」


「入学式とかで、校長先生絶好調になっちゃったら、えっ、高校の先生ってそんなん感じなの? 大丈夫? ってならない?」


「あ、でもさー、校長先生がさー、ほら、あの有難くもつまらない話をさ、ラップで話してくれたら、面白いよねっ」


「それこそ校長先生絶好調だよっ」


「ぶん、ぶん、ぶん、ちゃ、ぶん、ぶん、ぶん、ちゃ、わ、た、し、は、"校長先生"、みなさん"高校懸命"、がんばって、思い出作って、"卒業エンエン"泣いちゃって、でも、楽しい事が"いっぱい"、"失敗"することもあるけど、"しっかり"先生の話を聞けば、"いっさい"心配することはないぜっ」


「……みたいに挨拶してくれれば、大人気だよっ」


「ねっ? そー思わない?」


「ついでに授業もラップでしてくれたらなぁ……」


「あー、何その視線ー、勉強ちゃんとしてますけどー?」


「国語とかちょー得意だし! 国語辞典丸暗記だし!」


「そっ、韻を沢山踏めるようにさー、単語とかはいっぱい知ってるよー」


「あとは、"四文字熟語"とかも結構詳しいよっ」


「そっ、勉強もちゃんとしている"本当にキュート"なラッパーなの」


「えー、自分で言うなってー?」


「じゃあなぁにー? 私、全然可愛くないですぅ、みたいなのが好きなのー?」


「そーゆー、ぶりっ子ちゃんが好きなのー?」


「はいはい、そんな"カマトト"は、"戯言"」


「この"只事"じゃないライムは、努力の"賜物"」


「そんなぶりっ子は、"一発ドカン"、私は"違う論破"、このライムは"リアルほんま"、カマせる私は"光る女"っ」


「私は人形のように顔が整ってる。だから、フィギュアスケートみたいに硬い氷上(表情)で飛ぶ"四回転"、このライム、いくつ意味がかかってるか分かるかな? この脳の回転まさに、"東大生"!」


「いぇあっ!」


「……ふっ、決まったぜぃ」


「まったくもー、まったくもーだよっ」


「そーゆー、ぶりっ子ちゃんよりもさー、私みたいにラップでカマせる子の方がいいに"決まってっしょー"!」


「"期末テストー"!」


「あ、特に意味は無いです、踏めただけです」


「もうすぐ期末テストがあって、それに頭を悩ませているとかじゃないです」


「…………」


「…………うぅっ」


「嘘です、"悩ませて"ます、"鼻垂れて"ます、"バカタレ"です」


「てかてかっ、テストって何の為に存在してるんですかっ?」


「社会に出てから、何の役に立つんですかっ?」


「"化学式"とか、一体何に使うのか"摩訶不思議"ですよ」


「韻踏むことにしか使えないと思いません?」


「"H2O"とか、何に使うんですか? 使い所があるって人には、"現実をー"、教えたげます」


「"積分法せきぶんほーう"とか、"原子吸光げんしきゅうこーう"とか、"電磁誘導でんじゆうどーう"とか、韻踏むことくらいにしか使えないですぅ」


「難しい言葉でラップする私は、"天衣無縫てんいむほう"、頭は高速回転、"電子頭脳"、止まらないライムは、"前輪駆動"、私がラップすればみんな集まる、"全員集合"!」


「いぇあっ」


「私、ラップのテストなら、百点だね!」


「ねっ、そーゆーの面白そうじゃない?」


「このワードから踏める韻を三つ答えよ、とか!」


「例えばさ、『ロサンゼルス』で踏める韻を三つ答えよ! みたいな」


「えー? 試しに踏んでみてー?」


「そうだなぁ……」


「"ロサンゼルス"、"登山出向く"、"ご飯セルフ"、"おかんヘルプ"、みたいな?」


「んー? そんなにすぐ思い付いて凄いってー?」


「あーたっり前しょー! 私は凄いんだからっ」


「他にもさ、この空欄を埋めよ。みたいな問題のライムバージョンとか、どーよっ?」


「例えばさ、『"一度噛み付く"と、病み付きになる、◯◯◯◯◯◯◯』みたいにさ、この文章の空欄に入る韻を求めよ、みたいな」


「あ、せっかくだからやってみようよっ」


「ほら、一度噛み付くと、病み付きになるものなんでしょう?」


「ヒントは私の大好物ですっ」


「あ、これじゃあ、ヒントにならないか」


「えっとね、一度噛み付くで踏んでるの」


「だから、母音は、『いいおあいうう』だねっ」


「そう、七文字!」


「七文字で、『いいおあいうう』で踏める食べ物ですっ」


「さあ、何でしょう?」


「一度"噛み付く"と、上がる"バイブス"、私が"愛する"、ほにゃららららら!」


「さあ、わっかるかなぁー」


「チクタク、チクタク、チクタク」


「"チグハグ"、"シグナル"、"見つかる"、"偽る"、"煮詰まる"、"渋谷区"、"静まる"」


「はーい、韻踏みタイマー時間切れですっ」


「答えは分かりましたか?」


「ではでは、正解発表しますよー?」


「正解はぁ……」


「"一度噛み付く"、"イチゴ大福"!」


「そう、正解はイチゴ大福ですっ!」


「好きなんだよねー、イチゴ大福っ!」


「最初はさ、何だよ、イチゴ大福って大福の中にイチゴが入ってるだけじゃんっ、そんなのイチゴの名産地が、ノリで作っただけでしょっ、ワサビソフトクリームみたいに! って思ってたんだけどさっ」


「食べてみたらビックリ!」


「イチゴと大福が"相性バッチリ"で、食べたらお口が"最強ハッピー"なの!」


「しかもさっ」


「見た目も可愛くてさっ、女の子に人気なのも頷けるよね!」


「ふふっ、話してたら何だか食べたくなってきちゃったっ」


「あっ、話も盛り上がって来た所で……」


「コーヒーのおかわりはいかがですか?」


「初回のお客様は、おかわり無料ですよ?」


「……はーいっ、おかわり入りまーすっ」


「じゃあ、持ってくるからちょっと待っててねっ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る