第5話 魔王様、特級探索者とダンジョン配信を始める

"魔王様配信ktkr"

"ヴオオオオ激アツ!!"

"特級探索者と魔王様の配信は伸びる"

"100%チャンネル登録します!!"


 僕は呆気に取られながら、目をキラキラと輝かせている酒呑童子と背後のコメント欄を見つめる。


 え……いや、マジか。ダンジョン配信……。


「妾の、この少しの間だけじゃが人の子らと交流してみて分かったんじゃ! 妾は人の子をよく知りたいと思う。じゃから、妾と共にだんじょんはいしん? をやってくれんか!? お主とならできそうなんじゃ!!」


「え!? いや、まあそう言ってくれるのは嬉しいですけど、僕配信とか全然知らないですし……」


「お主以外に誰がおると思う!! 妾について来れるような奴は!!」


"たwwしwwかwwにww"

"基本技だけで魔王クラスの探索者だもんな……。制御できるのこいつしかいねえ"

"こいつを制御しなければダンジョン壊れる"


「ほれ! こめんとらんでも言っとるじゃろ! どうするんじゃ? 妾は魔王故、この部屋から出られん。退屈で仕方なくてのう……」


 としょんぼりとした表情を見せる酒呑童子。


 な、涙目で……上目遣いとか酷すぎる! そんな態度取られたら断りにくいじゃないか!


「それに、お主にもいいことはあるじゃよ! しちょうしゃに色々教えてもらったんじゃが、どうやらだんじょんはいしんを始めると、色々いいことがあるそうじゃ。そうだよな? しちょうしゃのみんな!」


"魔王様の言う通りです!"

"配信による収益とかがもらえる!"

"それに自己承認欲求が満たせる!!"

"一気に人気者になれる!"


 と息を合わせたかのように酒呑童子の言葉に合わせてコメントを打つ視聴者。


 多分、視聴者が色々と入れ知恵したのだろう。


「なので! 妾はここに宣言します! この探索者とダンジョン配信を始めることを!!」


「ちょっ……! ちょっと待って!? そこに僕の意思は!? ねえ!!」


"ロールプレイが崩れてるww"

"見た目と戦う姿はかっこいい。なお魔王様に振り回される探索者"

"そこがいい"

"正味特級探索者のこともっと知りたいから配信始めてくれると助かる"


 もうロールプレイが崩れているのは気にしていない。死活問題ではあるけれど!


 それにしてもダンジョン配信!? この部屋だけで!? さっきみたいに殴り合うことしかできないよ!!


「魔王様……百歩譲って配信するのはいいでしょう。ですが、ダンジョン配信の醍醐味はあくまで冒険。この中でできることには限りがあります」


「ほほう? なるほど。さっきみたいにじゃれあってるだけじゃいかんのか?」


 ダンジョン配信を始めるのは良しとしよう。これで断って、何かの間違いで酒呑童子が癇癪を起こすもしくは討伐に来た他の探索者を誘ったりしたら、さらに問題が起こりそうだ。


 僕に関係ないかもしれないけど、酒呑童子は本気っぽいし、僕が断って何か起きたらと思うと罪悪感に襲われるだろう。


 だからここは受ける。受けるのだけど、この部屋だけでできることは限られてしまう。よって、何かしらの対策は必要だ。


「そうですそうです。ダンジョン配信の醍醐味はダンジョン攻略の様子を実際に見ることができること。この中だけではその醍醐味も失われてしまいます」


「ふむ、なるほど。お主が言うのならそうじゃろ。じゃからほれ」


 酒呑童子は首からぶら下げていた赤や黒の真珠や小さな爪、牙が装飾されたネックレスを僕に渡してくる。僕がそれを受け取ると、ネックレスは光り、視界にこんな文字が映し出された。


【魔王酒呑童子との主従契約が交わされました。以降、魔王酒呑童子を召喚可能となります。

 これにより、ディザスタースキル『大江山の大悪鬼』が解放されました】


「…………え? しゅじゅうけいやく?」


「ん。今からお主、妾の主じゃ。よろしくな!」


"パワーバランスこわれちゃ〜〜!!"

"特級探索者が魔王と主従契約ww"

"【超絶速報】化け物爆誕"

"これで探索者トップになれないのシンプルに環境壊れてる"

"これで探索者トップじゃないマ!?"

"よし! これで諸々の問題解決だな! ダンジョンこわれちゃ〜〜!!"


 ごく稀にモンスターから主従契約を持ちかけられることがある。


 しかしそれは召喚士系のスキルツリーを開放してる場合のみに限られる。召喚士はモンスターと主従契約を結び、モンスターを召喚して戦うのがメインの戦法だ。


 ちなみに僕はそんなスキルを一個も取っていない。だと言うのに、酒呑童子はそんな常識は知らぬと言わんばかりに主従契約を成立させてきたのだ。


 しかもディザスタースキルってこれ確か、魔王を倒すことで得られる特別なスキルだよね……?


「これで一緒に探索できるな! 楽しみにしておるぞ……えーと、主様!」


「まじか……ダンカメとか、チャンネルの準備しないといけないなあ……」


 嬉しそうな見た目相応の笑みを見せる酒呑童子を前にして、僕は内心これから起きていくことに期待していた。


"伝説の始まり"

"そして伝説へ"

"初配信くっっっっっそ楽しみ!"

"あ、同接十万超えてたww"


 十万人を前にしてダンジョン配信を始めるなんて宣言する日が来るとは……夢にも思っていなかった。


 僕と酒呑童子はまだ知らない。


 僕ら二人で始めたダンジョン配信が様々な伝説を起こすことになるとは。


 そして、僕らが手を組んだことでダンジョンに眠る更なる脅威が目を覚ますことになるとはまだ誰も……。



 ——特級探索者と魔王の初配信まで後◯日。

 ——チャンネル登録者百万人まで後◯◯日。



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