File:8 Go with The Wolf(1)

 自分が特殊対策課に所属してから、特に目立ったことも無く1週間が経過しようとしていた。

 あまりにも不安になって

「本当にこれでいいんです?」

 と聞いたが。

「依頼とか何も無けれは基本暇だからねウチ。」

 と氷川さんは言っていた。これでも給料が貰えるらしいのだから税金ドロボーな気がしてならない。

 実際依頼などが来なかった訳では無いのだが、自分以外の人が引き受けているらしく回ってこなかったと言うのが正しい。まぁ新人だし当然ではある。

 その間は電童に依頼に出た際にやることや、書くべき書類の云々をキッチリ叩き込まれていた。正直とてもキツかった記憶しかない。


 さてそんな今日のこと、大学が全休の日だったので朝から出勤し、自分のデスクで手持ち無沙汰になっていると、電童から声を掛けられた。

「突然だが破堂、お前に依頼の付き添いを頼むことになった。」

「電童さんとですか?」

「いや、違う。今回付き添ってもらうのはコイツだ。」

 電童が指さした方向には、服の上からもわかるほど筋骨隆々の男がいた。髪の色は金髪であり、後ろで軽くまとめている。

「あの人は?」

照井てるい ろう、この課で最も武闘派な奴だ。」

 確かに見た目からそうとしか思えない。

「とりあえず互いに自己紹介してもらおうか。おい照井!」

 呼ばれたことに気づいたのか、照井は素早くこちらに来る。

「オレに何か用事か?」

「お前が連れて行きたがってる破堂だ。自己紹介してやれ。」

「ああそれか!すまんすまん忘れてたぜ。」

 笑いながら照井はこちらに向き直る。

「お前が新米の破堂だな、俺は照井 狼。好きに呼んでくれ。」

「よろしくお願いします。照井さん。」

 照井はおう、と言い。手を差し出してきたので、こちらも手を差し出すと、ガッシリと握手をされた。

 その手は固く筋肉質だったが、握る力は非常に優しかった。

「さて、じゃあ依頼に行こうぜ。あんまりだべってると効率厨の電童が怖いからな。」

「本人の前で言うことか、照井?」

 照井は あ、まずいと言った顔をしながらそそくさと課の外に出てしまったのでこちらも追いかけようとするが、電童に呼び止められる。

「今回はお前の戦いに対する教育も兼ねている、照井はいい加減な男だが戦闘に関してはホンモノだ。お前の能力を活かした戦い方をやつから学んでこい。」

「り、了解です!」

 いい返事だ、と言うように頷く電童を後目に、課の外へ出る。


「お、来たな。じゃあ行くぞ!」

 照井はキッチリ着替えて外に待っていた、多少色あせている黒いフライトジャケットと黒いキャップ、手には使い古された指ぬきグローブと言った服装は、戦いをくぐり抜けた戦士を思わせる。

「照井さんってストリートファイトでもしてたんです?」

「ん、ああ…ちょっとな。」

 ぼかされてしまった、何かしら事情があるのかもしれない。

「とりあえずコイツが今回の相手の資料だ、持っといてくれ。」

 ドサッと資料を一気に渡され、危うく取り落としそうになる。それを何とか整え、移動しながら読む。

「対象の名前は四澤しざわ 一義かずよし、等級は2級、能力は『変身』のタイプF…」

「タイプFってことは幻想種ファンタジアか。面倒な相手だな。」

『変身』の能力を持つオーバーズはそれなりに多い、それゆえ変身後の姿でさらにタイプ分類されるのだ。

 例えば動物ならタイプAnimal、機械ならタイプMechanical、人ならタイプHumanと言ったようにだ。

 タイプFことFantasiaはどれも空想を実現したような能力が多く、等級が高いものが多いと聞く。

「彼は何をやって対象になったんでしょう?」

「それなら4枚目だ。確か原因は道場破りじゃなかったか?」

 4枚目を見ると経緯が事細かに書いてあった。さすがに少々長いので要約するとこういうことだった。

「道場破りを各地でしまくった結果、警察に目をつけられたので自身を逮捕しに来た機動隊を壊滅させた…と。」

「なるほどな、横暴な奴だ。」

 そのうち庁舎の外に出たので、待っていた車に乗り込む。

 照井はとても体が大柄な為に後部座席は2人でも少々狭く感じる。

「えーと場所は…新受九区の旧都庁にお願いします。」

 資料を慌ただしく捲って場所を指定する。電童に叩き込まれたはいいが、実際にするのは初めてだったので慌ててしまう。

 そのうち車が走り出す。しばらくの間は特に何も無かったが、ふと照井が口を開く。

「そういやなんだが、お前の能力ちからも手から出るやつだよな?」

「はい 、触れたものを壊して砂みたいにする能力です。」

「ちょっと毛色が違う部分もあるが、確かにオレの能力と似ている。これなら教えられる範疇だな。」

「照井さんの能力ってなんなんです?」

「オレの能力は『気功』。昔のマンガとかにあった気のエネルギーっていうやつを具現化して、ある程度自由に操る事が出来る力だ。」

 ほらこんな風に、とばかりに照井は手に黄色い光を纏わせる。

「昔のゲームみたいに放ったりすることはできるんです?」

「できるぜ、ただオレは地面に這わせるようにする方が得意だな。」

 となるとあっちの方のゲームだろうか、それにしても強そうだ。

「電童から聞いてるだろうが、お前に能力の制御や戦い方を教える事を氷川さんから頼まれていてな。実戦訓練にはなるがビシバシ行くぞ。」

「よ、よろしくお願いします。」


 そのうち車は旧都庁近くの議事堂通りに止まる。

「今回の安全地帯はここまでです。ご武運を。」

 1部の能力者は、潜伏場所近くまで寄ると危険が及ぶ可能性がある為、少し離れた位置に止まることがあるらしいが、今回がそのケースのようだ。

「よーし、気合い入れていくぞ!」

「はい!」

 車から降りた二名は駆け出した。



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