File:5 A Man of Mass Destruction (5)

 超能力庁舎を出て、止まっていた車に乗り込む。

 運転席には黒服が乗っていた。

「どこへ向かうんです?」

「場所は渋八区の旧恵比寿公園だ。これを読め。」

 資料を渡される。どうやら能力者等の説明が書かれているらしい。

「対象の名前は守宮やもり かくし。等級は3級、能力名は『擬態』…」

「奴は裏社会で暗殺を生業としていたオーバーズだ。高い隠密性を持った能力で、今まで尻尾を掴ませなかった。」

「なぜそんな人が対象に?」

「保護されてた組織と仲違いしたようだ。結果組織は全員が惨殺され、金、クスリ、その他一切が奪われたそうだ。だがそれで裏社会から爪弾き者にされ、報復として情報が漏れたという事だ。」

 なんとなく昔の暗殺者の復讐映画を想起させる。ただあれは能力などは関係ない話だったが。

「それとお前は基本俺の後ろにいろ。能力がまだ制御出来ないんだろう?」

「まぁ、はい…」

「恥ずかしがる事じゃない、俺もあの人に拾ってもらうまではそうだったからな。覚えるのは少しずつの方が効率的だ。」

 そうこうしているうちに車は公園前に着き、停車と共にドアが開いた。

「奴の能力はこの空間こうえんではほぼ無敵だ。奴の体力次第だろうが、機動隊が幾つあっても足らん。」

「焼き払うとかではダメなんですか?」

「可能ではあるだろうな。」

「じゃあ…」

「だがそれは相手が素人だったらの話だ。」

「あっ、そうか…!」

「そんな程度で捕まえられるなら警察でどうにでもなる。奴はその程度は潜り抜けてきた手練だ。」

 なるほどそうか、と納得する。そういう相手も慣れているのだろう。

「そろそろ仕事を始めよう、時間が惜しいからな。」

「はい!」

 慌ててついて行こうとすると、電童から何かを投げ渡される。受け取ってみると、それはスコープ付きの拳銃だった。

「これは?」

「気休め程度だが持ってろ、スコープは対象が映るように調整してある。使い方はわかるか?」

「アニメとかで何となく…」

「スライドを引いて、セーフティを外してトリガーを引く、それだけだ。誤射だけはするな。」

「り、了解です。」

 壊さないように手袋をつけ、電童に続いて公園に入る。


 旧恵比寿公園は、20年前の事件時に火災に巻き込まれ、その時公園にいた多くの人々が焼死したとされる場所だ。

 当時の事件後は遊具を取り替えて再利用しようと考えられていたが、工事を行うと怪奇現象に見舞われる事態が発生し、それ以降は放棄されてしまった。

 現在は木が生い茂り、中は昼であろうと暗い。それゆえに誰も寄り付かない場所となっている。

 そんな場所に入るのだから、ビビり症な自分はおっかなびっくりだった。

 電童は

「自分が超常の存在なのに幽霊程度を恐れる事もないだろう?」

 と言ってズンズンと奥に入っていく、図太すぎて羨ましい。

 場所は曰く付き、捕まえる対象は隠れているしで、まるでホラーゲームをやっている気分だ。

 周りを警戒しながら進むうちに、遊具のある地点までやってきた。遊具には事件の跡を語るかのような生々しい焼け跡が刻まれている。

「全然見つかりませんね…」

「こちらに気づいていないか、それとも気づいた上で隠れているか、どちらかだろうな。」

 電童は10秒ほど考え込んだ後

「少し能力を使うか…破堂、お前金属出来た物持ってないか?」

「ボールペンならあります。」

「十分だ、貸してくれ。」

 電童にボールペンを手渡す、それを両手で持つ、するとバチバチとした音と共にボールペンの表面に電流が流れ始める。

「で、電気?」

 それと共に足元の砂が黒くなり、電童の周りを線を書くように並び始める。

 手に取ってみると、それは砂鉄だった。

「俺の能力を説明してなかったな。俺の能力は『雷電』、どういう力かは今見ているから必要ないな。」

「で、これでどうするんです!?」

「今分かる、伏せろ!」

 急に言われ、全力でしゃがむ。

 すると背後からダガーナイフが飛んできて、ボールペンにぶつかって静止した。伏せてなかったら危なかった。

なるほど、電磁石を擬似的に作り出したのか、と気づく。

「狙い通りだな…破堂、後ろを撃て!」

「は、はい!」

 銃を取り出し、スライドを引き、セーフティを外してからスコープを覗くと、サーモグラフィーのような視界に人型が映り込む。

 そこに迷いなく2発、3発と発砲する。

「ぐあっ!?」

 という声と共に、今まで何も無かった背後の木から人が倒れた。

 一瞬見えた顔は、資料の写真通りの男だった。



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