File:2 A Man of Mass Destruction (2)

 次に意識が戻った時、自分は何故かパイプ椅子に手錠で拘束されていた。

 周りに人は居ない。部屋の中は殺風景で窓がなく、出入口は正面にあるドアだけのようだ。

 足は縛られていないので自由に動かせるのだが、椅子自体が何かしらの方法で固定されているらしく、地面を蹴り飛ばしても微動だにしない。

 手錠は力を入れてもちぎれるどころか、逆にこちらの手がちぎれそうになってしまうので諦めた。

「『破壊』も使えないか…」

 まさに万事休すと言ったところである。

 電車内まで逃げたが捕まった事だけは覚えているが、一体ここはどこなのだろうか?

 そんな事を考えてると、唯一の出入口であるドアの外から足音が近づいてきた。同時に話し声も聞こえる。

「本…に……夫です…?……長」

「…心しな……話…ば……るって……だろう?」

「しかし……」

 2人の声が聞こえる、1人は電車内で聞いた声だとわかる。

 声はドアの前で止まり、間髪入れずにドアが開く。

 入ってきたのは銀髪の女性、そしてあの時追いかけてきた黒服であった。

「おや、ちょうどお目覚めのようだね。気分はどうかな?」

「い、良いわけがあるとでも?」

「まぁ、それはそうだね。少々手荒な真似をしたのは謝罪しよう、何しろうちの黒服共は第一印象が最悪だからね。あのまま逃げ回られると話もできやしないからこうさせてもらったんだ。」

 そういうと女性は黒服に一言二言指示すると、手錠の鍵を外させた。

「さて、自己紹介が遅くなってすまないね。私の名は氷川冷ひかわ れいだ。超能力庁に務めている。」

「ど、どうも…」

 そう名乗った女性は、握手を求めるかのように手を差し出した。

 自分は少々警戒をしながらも、握手に応じようと手を握った。

 その瞬間、とてつもない冷気が手に走った。驚いて手を離そうとするが、急に固定されてしまったのかのように動かない。

 手を見ると、どこから生じたのかも分からない、厚い氷が2人の手を覆っていた。

「こ、氷!?」

 驚いていると、氷川がカラカラと笑いだす。黒服は「またか」とでも言うかのように呆れた顔をしていた。

「アッハハハ!!」

「一体何を…?!」

 氷川は笑いを抑える為に数回深呼吸をしてから再び口を開く。その間に氷は少しづつ消えていった。

「すまないすまない、ここまで驚いてくれるのは珍しくてね。私の能力を見せたら少しは警戒を解いてくれるかなと思ったんだ。」

「貴方の能力?」

「そう、私もオーバーズさ。登録名は『氷』、具体的な力は名の通り物を凍らせたり氷を作り出したり程度、というところだね。」

 たった一瞬で手を凍結させるほどの力を持っているのに「その程度」で済ましていいのだろうかとは思う。

「貴方の能力はわかったんですけど、僕に話ってなんなんです?しかも超能力庁って…」

「うん、そうだね。引き伸ばしすぎても飽きられてしまうだろうし、本題に入ろうか。」

 一体誰に言ってるのだろうと思うが、つっこまない事にする。

「単刀直入に言えば、私は君の能力『破壊』を買いたい。つまりスカウトだ。」

「スカウト?」

「そう、スカウト。私の組織へのね。」

 どうして僕が、と言おうとするが

「どうして僕が?と思ってるのでは無いかな」

 と言い当てられてしまった。

「そ、そうですけど」

「理由のは単純に、君が能力を御しきれずにいるという情報を貰っていてね。私は超能力庁でも、そういったオーバーズの面倒を見る役目を引き受けていてね。」

「はぁ」

 自分の能力は確かに危険を孕んでいるので、そういった意味では残当かもしれない。

「そんな事では信用しきれないとは思うけど…ただ君も快く受けてくれるなら一つ利点があるよ。」

「利点?」

 聞き返すと氷川は1枚の紙を自分に手渡した、読むとそれで請求書であり。とんでもない桁の金額が記入されている。

「それ、君が逃げ回る時に壊したシャッターの修理費。」

「へっ!?」

「君の能力のせいで中途半端に壊れちゃったもんだから周囲の機械ごと取り替えることになったらしくてね。この誘いを断った場合、君に全額請求が行くよ。」

 誘いと言うよりもはや脅しではなかろうか

「ちなみに受けた場合は…?」

「もちろん全額国が負担しよう。そっちへの負担は一切無しだ。」

 さぁどうする?とでも聞くように、氷川はこちらを見つめてくる。

 請求書をもう一度見る。桁が1、2、3…こんな額は100年バイトをしようが返せそうにない。

 つまり、選択肢は1つしか無かったのだ。

「お話を受けさせていただきます…」

 氷川はニッコリと笑うと、1枚の書類を手渡して

「よし、これが契約書だ。よろしく頼むよ、破堂君。」

 と言った。

 これが、非日常への転落であった。

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