異世界生活・17日目

王都へ入ると、そこは異様な空気に包まれていました。人々の姿はなく、街路樹は枯れ、重苦しい空気だけがそこに流れていきます。もっと華やかなものだと想像していたのですが、どうやら事態は深刻なようです。


司教様もエドさんも「ここまで酷いとは思わなかった」と仰っていたので、相当なのだ思います。生臭いような香りがしていて、少し気分が悪くなってしまいました。


王都の本教会が見えてきました。とても大きくて海外の有名な教会に雰囲気が似ています。しかし、やはり教会も重い空気に包まれています。多少は和らぐかと思っていたのですが…。


教会に着くと、数人の神官様たちが出迎えて下さいました。司教様とエドさんに次いで私も奥の大きな扉の方へ案内されました。ここには、教会の偉い方達が集まっているそうです。そんな場所に通されるのは緊張してしまいます。


不安に思っていると、エドさんが背中をトントンと叩いて下さいました。その優しい刺激に緊張と不安で硬くなっていた身体がフッと緩みました。エドさんに笑いかけると、エドさんもニッコリと頷いてくれたので安心して前へ進むことが出来ました。


重たいトビラが開かれます。一番奥の高い所に二人の男性が座っています。右の方はおそらく教皇様かと思いますが、左の方は…?

そう思っていると、エドさんがそっと国王様だと教えてくれました。


まさか国王様だなんて!どうしましょう、このような場所での作法なんて知りません!

一人でアワアワとしていましたが、国王様は「非公式だから作法は気にしなくて良い」と仰って下さいました。


席につくと、一通りの自己紹介がされ王都の現状が話されました。王都中の人が生気をなくしたようになり、教会周辺以外では草木も枯れつつあるそうです。何が原因かは調査中だということですが、いつからこの状態なのかは誰も心当たりが無いそうです。


これといった解決策もなく、ただ不安なヒビを過ごしていた所に、女神像を光らせた私の話が飛び込んできて「聖女光臨か!」と慌ててクローウッドの教会に人を送ったそうです。そういえば、以前いらしてましたね。


エドさんから私について聞き、時期尚早と言われて一旦王都へ戻り、クレイトスから巡礼の旅をしつつ王都へ向うという計画が練られたそうです。


私が元いた場所では、紆余曲折ありながら素敵な男性と恋に落ちたりする物語が多かったのですが、現実とはこうなのでしょうか。


よく分かりませんが、とても丁寧で誠実な対応をしてくださった事はわかります。良い人達に巡り会えて良かった。心からそう思います。


さて、まずは祈りをという事で礼拝堂へ向かいます。すれ違う神官やシスターの顔は暗く、不安より絶望といった方が良いくらいでした。


礼拝堂の中はとても静かで、とても淋しく感じました。大きなステンドグラスが壁一面に貼られ、凝った装飾の柱が何本も建ち、女神像を祀る祭壇も、古いながらも壮麗で素晴らしいモノでした。しかし、神秘さは感じられずただそこに存在しているといった雰囲気です。


クローウッドの教会のように、つい祈りたくなるような力はそこにはありませんでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る