第7話

「という訳で、今度は大太刀の『黒断ち』を使っていきたいと思います。刀の大剣版で、若干使うのに技術が必要ですが、地味に使う人が多い良武器ですね」


 正式の大太刀がどんなものかは分からないが、探索者用の大太刀は太く長い巨大な刀だ。


:いやPRは続けるんかい

:企業勢配信者の鏡

:スポンサーへの忠誠心高いの好き


「当然、PRだけが目的じゃないですけどね。ここから先は火力が必要になってくると思うので、大太刀が一番役立ってくれると思います」


 鞘の無い巨大な刀を手に、俺は下の階へ向けて走り出した。


 階と言っても、分かりやすく階段がある訳ではない。洞窟の中をただひたすら下へと移動し続けるのだ。


『グギャアアアア!』


 途中で巨大な蛇が現れた。頭部が二股に分かれていて、二つ顔がある。


:なんだこいつ、見たことないモンスターだ

:ワイモンスター博士、コイツは二股大蛇っちゅうレアモンスターや。北海道のダンジョンが主な生息域で、このダンジョンには出てこないはずなんだが

:モンスター博士ニキすこ

:って言うかデッカ


 俺は吐き出された毒液を回避し、岩場を使い三角飛びで巨大な蛇の頭部まで迫り、大太刀を一閃。凄まじい重量と鋭い切れ味で頭を落とした。


「……やっぱりこの辺はまだいけるな」


:つっっよ

:イチジョーやっぱつえーよ!

:これならいけそう

:頑張れマジで


「応援ありがとうございます」


 正直、俺は恐怖と緊張を感じると同時に、この状況にチャンスを感じていた。


 転移トラップで窮地に立つも生還する。話題性は十分ある。バズる可能性は高くなるだろう。


 ここで最大限実力をアピールしなければ。


 俺は二股大蛇を倒した後、スピードを落とさずそのまま走り抜けた。そして次々と立ちふさがってくるモンスターをできる限り一撃で倒し続ける。


「多分、19階層突破しました。今から20階層に突入します……って、なんだこりゃ」


 20階層、21階層、22階層に降りても勢いは止めず、そのままスルスルと先へと進む。


 そして、23階層に降りて、俺は思わず自分の目を疑った。


 目の前には、23階層から25階層全てをぶち抜くほどの巨大な穴があった。一番底にはマグマ湖があり、さらに中央の陸地部分には巨大なクリスタルが輝いている。


 そして、突如として地鳴りが鳴り響き、地面に埋まっていた岩が出てきて巨大な人型になった。全身からマグマを噴出させてくる。


「……なんだありゃあ……!」


:えっ、普通にヤバそうなんだが

:ワイ博士。マグマゴーレムは物理と魔法両属性の攻撃を繰り出してくる、ボスモンスターの一種や。アメリカでしか目撃例無かったのになんでこんな場所に……

:ボスってマジかよ

:ヤバいヤバいヤバい!


 ボスクラスのモンスターは、文字通り普通のモンスターとは一味も二味も違う。普通、ソロで討伐なんて余程実力に差が無い限りするべきじゃない事だ。


 どうする? 一度引いて別の道を探すか?


 命あっての物種。俺が死ねば、美玖はもう一生目を覚ますことは無いだろう。


 だが、ここに来るまでは一本道だった筈だ。横道とかも見つからなかった。


 それに……俺があいつを倒すことができれば、最短ルートで美玖の目を覚まさせてやることができる。


「……リスナーの皆さん、すみませんが手を貸してください。アイツの情報が欲しい」


:バ カ か よ

:やめとけやめとけ!

:おい馬鹿こら!

:待て待て待て

:今更だけどコイツもしややべー奴だな?

:生存して帰還が探索者の鉄則やぞ!


「お願いします」


:ワタツミちゃん悲しませたら〇す

:配信もしないで心配してんねんやぞ

:シキも待ってるんやから、ここは後にしてとっとと別の場所探しに行けって


 そう言い重ねるも、コメントは否定的なものが多い。


「ここまで一本道でした。多分、あいつを倒すしか道はない。お願いします」


:そうは言われてもなぁ……

:本当にそれしか道はないんか

:ワイモンスター博士。基本アイツは殴るだけの攻撃しかしてこない。下半身は常に地面に潜ってる状態で、それ以上は出てこない。物理魔法に耐性を持つが、それほど硬いって訳でもない。大太刀ならワンチャンあるとは思う

:モンスター博士ニキ……

:教えちゃうのかよ


「モンスター博士さん、ありがとうございます。それだけ分かれば十分だ」


 大太刀を持つ手に力が入る。


【ワタツミ】:本当に、行くんですか?


 綾乃からのコメントに、俺は一つ頷いた。


「マグマゴーレム、ソロで討伐してみた……切り抜きよろしく」


 そう言い放って、俺は走り出し、大穴の中に飛び込んだのだった。


 ――――爆音が鳴り響く。


『ゴアアアアアアアア!』


 正直物凄く見苦しい光景が続いていた。振り下ろされる拳。攻撃する度に放たれる凄まじい熱波、飛び散る火花。まき散らされるマグマの雫……避けては逃げて、避けては逃げての繰り返し。


『ゴアアアアア!』


 まだ恐怖があるのか、前に出れない。あれに潰されたら骨すら溶かされるだろう。喉がじりじりと渇き、無い唾を飲み喉を鳴らす。


 でも、それでも。美玖の為。綾乃の為。そして何よりも自分の為に。


 前に出ろ……前に、最速で!


 背中が壁に当たる。気が付けば、俺はどうやら壁に追いやられていたらしい。巨大な拳が振り下ろされた。


 全てがスローモーションに見えた。


「しっ――――」


 俺は致死量の高いもの、すなわち拳だけを紙一重で避ける。


 マグマが飛び散ってきて、じゅうっ、と頬が焼けた音がするが、全て無視。大太刀を構えて、手首を落とした。そして跳躍し、腕まで落とす。


「っ――――なんだ、案外行けるじゃないか! はははは!」


 何故か知らないが、笑いが出てきた。


 ボスモンスター相手でも、ダメージを与えられる程俺は強くなっていたようだ。


「はあ!」


 斬り下ろし、迫っていたもう片方の腕を切り裂いた。


「美玖、兄ちゃん頑張るからな――――!」

『ゴアアアアアアアア!』


 地鳴りのようなうめき声を上げながら、ゴーレムが短くなった両椀をゴリラみたいに振り下ろしてきた。


 俺はそれを全て紙一重でよけ、冗談みたいに砕け散り跳ね上がる瓦礫の中に紛れながら、ゴーレムの胴体を真っ二つにした。


『ゴ……ア……』


 瞬く間に赤色を失い、ガラガラと崩れていくマグマゴーレム。


「はあっ……はあっ……」


【ワタツミ】:やったああああああ!

:すげえええええええ!

:凄いものを見た

:なんだこれなんだこれなんだこれ!


 瓦礫を退かして何とか瓦礫の山から脱出しつつ、横目でAR調の画面を見る。


 流れるコメントの量に思わず笑いが出た。


:ボスの単独撃破とか、マジかよ……

:高校生でこんな偉業、過去に例があったか?

:上位冒険者の何人かに一応? でも、ここまでのは無かった気がする

:マジですげーって

:伝説ができる瞬間をこの目で見れた


 同時接続者数、1万人を突破。どうやら命を懸けた価値はあったようだ。


「はは……何とか生き残った」


:何とか生き残った、じゃねーよ

:心臓に悪いんだよマジで!

:すげーよ!すげーけどもう無理すんな!


「無理なんかしてないです。俺、ちゃんとやりたい事があるんで……その為なら何でもやりますよ」


:ん? 今なんでもって

:←黙れ

:それって、さっき言ってた意味深なセリフに関係ある?

:妹いるの?

:ミクちゃんって誰?


「いますよ、超かわいいのが」


 何とか呼吸が整ってきた。俺は大太刀を見る。見事に刃先が融解してしまっていた。


「警戒に戻ります。武器は……これはもう駄目ですね。大剣に変えます」


 そう言いつつ、俺はマグマに触れてしまい火傷してしまった腕を見た。


 じゅぅぅぅっ……、と煙を出しつつ、徐々に治っていく傷。


「……自分の根源、か」


 俺の根源が、多分、一瞬だけ見えた。スキルの効果で俺の性能が若干上がった感覚があった。


 でも、まだ不完全だ。既にこの感覚は消えてしまっている。


 本当は配信中に覚醒してくれたら嬉しいんだけど、こればかりは運が絡むからな。


 さて、大穴の中央に辿り着いた。そこには巨大な結晶がある訳だが……。


:なんだこれデッカ

:うわまぶし

:光ってて綺麗

:中になんかあるくね?


 コメントの言う通り、中央に何やら小さな影みたいなものがある。


「……触ってみます」


 警戒しつつ触れてみると、びしっ、と罅が入って割れていく。


 そして、完全に割れて、小さな影が外に躍り出てきた。それはそのまま俺の方までやってきて、目の前で着地する。


「わんっ」

「……はい?」


 そこには、ポメラニアンによく似た犬のようなモフモフがいたのだった。

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