第21話 突撃!海月野さん家
――SIDE.明都院 割美
ホヨヨちゃんの言葉が非常に気になったので、一度彼の自宅に向かう事にした。親御さんからして見れば……息子が学園入学2日目に貴族の娘を家に招待してくるとかいうとんでもない事件になってしまう。苗字は名乗らず貴族の紋章も外しておこう。内なるワルミがもっと貴族としての誇りを持てと騒いでいるが……今は実質勘当中なのをお忘れか。
その前に……せっかく5Fまで来たのでここの【ジョブ持ちゴブリン】や【ゴブリンリーダー】も相手にしてみよう。ジョブ持ちゴブリンとは下級ジョブの名を冠したゴブリンで、【ファイター】【マジシャン】【シーフ】【クレリック】の4種類。下層のゴブリンより装備が豪華になり、それぞれ剣やメイス、杖などを所持している。またジョブに適した立ち回りに加え武器スキルや魔法も使ってくるのだ。ジョブの分布はランダムだが必ず3~4体以上の団体で行動しており、その様子はまるで冒険者のようだ。
一方【ゴブリンリーダー】はゴブリンの純粋な強化版。金属鎧と剣盾で身を固め、パワーやスピードも一回り強くなっている。2~3体でまとまっていたり、ジョブ持ちゴブリンのパーティーに混ざっている事が多い。
自分や仲間の命が懸かっているこの世界の冒険者であれば、ジョブ持ちゴブリンよりレベルの低い者も混ざったパーティーで挑む愚行はまず行わないだろう。ゴブリン達と同数以上の人数を揃え、多対一の有利な状況に誘い込み、十分な火力を以て一体ずつ確実に倒すのが鉄則。安全第一。
だが私達はそんな不利を覆す条件が揃っている。片や卓越した戦闘センスを持つ狂戦士、片やLv9とステータスで圧倒する重戦士。そして……忘れちゃならないのは【☆プリンセスジェリー】。彼女もまた立派な戦力だ。
それに私にはどの魔物がどんなスキルを持ちどんな攻撃をしてくるのかすべて頭に入っている。情報戦でも圧倒的に有利だ。ホヨヨちゃん達にも予め魔物の情報を伝えておいた。彼なら上手く立ち回ってくれるだろうし、姫ジェリーもレベルがゴブリン達より高いので相応に戦えるはず。さあ、バトル開始だ。
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――― 結果として、私達はゴブリン軍団に対し大金星を挙げた。【☆プリンセスジェリー】……名前は『ジェリトワーヌ・グミグミ』(ホヨヨちゃん命名)。彼女に私が予備として持ってきていたショートソードを持たせたところ、恐るべきパワーと数mに伸びる腕、そしてものすごい執念でゴブリンの首を一振りでポンポン刎ね飛ばしていったのだ。
負けじとホヨヨちゃんも遠距離攻撃を数cm単位の動きで避けながら急所をブッ刺しまくってキルスコアを稼いでいく。なんで一番レベルの高い私が一番地味なんですの。
とんでもないハイペースで狩りを続けたからか、全員のレベルが1上がった。大量の魔石とドロップアイテムである金属武具のスクラップもたくさん手に入った。マヂゥヶるんですけど。戦いまくって全身が疲労でヤバイ。帰りはゆっくりでお願い……。あ、メインストリートに出る前にジェリトワーヌちゃんは還ろうね。バレると面倒だから。ほっぺを膨らませて駄々こねてもだ~め。
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魔石をギルドで換金する。今回の探索で得たのは約4万円。命を懸けて日給2万は……まだちょっと渋いかなぁ。6Fからは魔石の価値が一回り高くなり、地上で取れる素材より強力で特殊な武具を製作できる【魔物素材】などもドロップするようになって実入りはもっとよくなる。もう少し頑張ろう。
スクラップ類は……なんとホヨヨちゃんの自宅でリサイクルできるようだ。話を聞くと海月野家は代々冒険者の装備や日用品、家具などを作っているらしい。なるほど、それなら彼に合った武具をすぐに調達できたのも納得だ。
戦闘技術については特に何も教わっていないと言うが……なんでこんな戦闘狂になるんですのよ。アクション映画やアニメが好きでよく動きをマネしてた? 本当にそれだけなの? 男の子ってよく分かんない。
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そんなこんなでやってきました海月野さん家! イェイ!! 一般的な中流家庭のようだが、隣に工房兼商店を構えている分土地は広く大きな印象を受ける。工房の裏手から工場でよく見るような作業着を纏った一人の男性が出てきた。優しい雰囲気の顔立ちだが、やや角ばった体つきはどことなく逞しさを感じさせる。
▽ホヨヨ
「お父ちゃ~~~ん! ただいま~~~!!」
▽タタラ
「おお、ホヨか! こんな遅くに帰ってくるという事は…
ダンジョンに行ってたんだな?
装備の使い心地はどうだ………と、そちらのお嬢さんは?」
▽ホヨヨ
「お友達のワルミちゃんです!」
▽ワルミ
「どうも~~~ワルミで~~~す」
*あざとい敬礼のポーズ*
▽タタラ
「友達………そうか、君が………
こんな姿ですまないね 私は
▽ホヨヨ
「えへへ……今日はなんと! 5Fに行ってきました!
魔石のお金と…精錬用スクラップもあるのですよ~」
▽タタラ
「ご、5Fだって!? ホヨ! お前まだLv1だろう!?
何だってそんな高い所に………」
▽ホヨヨ
「大丈夫です! ホヨはLv5になり………あっ!!
コレはヒミツなのでした!」
▽タタラ
「………はあ………やはりそういう事だったか
これじゃいくら偽装しても隠し切れないぞ?」
▽ホヨヨ
「えっ!! なんで………」
▽タタラ
「………すまんホヨ 黙っておくつもりだったが………
偽装アイテムやアーティファクトの事はもう知っているんだ
自分や私達のためにそうする必要があったという事もな
………君が提案したのだろう?」
ホヨヨちゃんのお父様……タタラさんは優しい瞳を私に向ける。……一体どこまでバレてしまっているのだろうか? 未来予知とは違う、状況証拠と経験による看破。
▽ワルミ
「えっ………あっ その………うう………
ほ、本当はもっと緩やかにレベル上げをする予定でしたの
ですが予想外の事態で急激に上がってしまい………応急的な対策ですわ」
▽タタラ
「ああいや、責めている訳じゃないんだ
それこそ私達の身を案じての事なんだろう?
むしろお礼を言いたいくらいだよ 本当にありがとう
市場にも出回っていないこんな珍しいマジックアイテムを…」
家族全員がその事を知っている、とタタラさんが深々と頭を下げる。とても誠実な方だ。……既にバレてしまっているなら仕方ない。話せる所は全部話してしまおう。しかしこれらの情報はダンジョン探索の常識を覆してしまうほどのもの。外部に漏れてしまえば海月野家全員が脅威に曝されてしまう。家族をこの場に集めその危険性を先に伝え、彼ら全員の同意を得た上で……盗聴防止の結界も張る。
▽ミズナ
「………なるほどね~
【転移ポータル】に【ファミリア】のジェリー…
うふふ、とっても楽しそうで何よりだわ~」
▽タタラ
「あの石碑は…私が物心ついた頃には既にあったんだよ
親父が現役の時にもあったらしくてね
イタズラで魔力を流してみた事もあるが…その時は反応しなかったんだ」
倉庫の隅には確かに転移ポータルのような石碑があり、近くで確認してみる。……これは【フジヤマダンジョン】5Fのものと同じポータルだ。
魔力を流してみると……登録完了、正常に使えるようだ。試しに行き先を5Fに設定し、起動してポータルを開いてみる。大人一人が歩いて入れる程度の大きさの、ダンジョン入口にある黒い壁のようなものが現れた。
通った先には……うむ、確かに5Fの小部屋だ。数時間以上かけて行うダンジョン往復がこれ一つでものの数秒に短縮出来るので、私達のレベル上げはさらに快適になる。
▽ワルミ
「あの、それでですね………これについてなんですけども………」
▽タタラ
「…君はこれの正体を知っていたんだ
君が使う事には何も問題は無いよ
それと、これは相談なんだけど……
君の武具の手入れを私達に任せてくれないか? お代はいらない
代わりにポータルを私達にも使わせてもらえると…嬉しいんだが」
▽ワルミ
「まあそんな…悪いですわ
このポータルは海月野家の敷地内にあるもので、
それをどうしようとそちらの自由ですのに…
むしろわたくしの方から頼まなければいけないものですわよ」
▽タタラ
「…そうか だが武具の手入れについては…
ホヨがお世話になっているお礼として受け取ってほしい」
▽ワルミ
「そ、そうでしたら………ご厚意に感謝いたしますわ」
▽チリリ
「………というかさ 危険がどうとかっていう話だけど………
いっその事私達全員が強くなってしまえばいいんじゃないかしら
そうすればある程度の脅威なら自力で対処できるでしょ」
▽ミズナ
「レベルが上がるとね~
来たる年の瀬に対抗できる程のアンチエイジング効果もあるのよ~
うふふ ママもっとキレイになっちゃうからね~♪」
▽ジェリトワーヌ
「レベル アガル ツヨクナル ヨイコト」
*フンス*
▽ワルミ
「いやあ…頼もしい限りですわね………
それなら人数分の【フェイクコサージュ】も必要ですわ
まあ、こうなった以上今更ですし…
これが買える商店の場所と合言葉をお教えいたしますわ」
▽タタラ
「………偽装アイテムを売っている店かあ…
どんどん危ない橋を渡っていってるなあ………」
▽ミズナ
「家族みんなでダンジョンに行けるなんて夢にも思わなかったわぁ~…
あ、もちろんジェリトワーヌちゃんも私達の家族だからね~♪」
▽ジェリトワーヌ
「!! カゾク………ウレシイ………ママ………」
▽ミズナ
「はぁ~い♪ ママですよぉ~♪ いい子いい子~♪」
*ジェリトワーヌの頭を撫でる*
▽ジェリトワーヌ
*安心しきった顔で溶ける*
う~ん、家族っていいなぁ………。海月野家という強力なパトロンを得られたのは嬉しい誤算だ。これからも仲良くしていきたい。
さて、そろそろいい時間だし私は寮に帰るとしよう。明日も楽しみになってきた。
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