第25話 歪な提案
目の前で起きていることが理解出来なかった。
罪悪感と悲しみで流れていた涙が止まり。
自分に権利なんて無いと分かっていても嫉妬から怒りが湧き上がる。
「何してるの!」
私は状況も忘れて、人の彼氏にキスをするスイに非難の声を向ける。
「これが、アナタのしたことよ」
そうスイに返される。
咄嗟に「キスはしてない」と言い返す。
「そんな事を誰が証明出来るの? アナタがいくらそんな事を主張しても、世間的に見たらキスより先の事をアナタは先輩としてるのよ、そんなアナタの事を誰が信じると思う?」
言われて今更ながら気づく、本当に私は気付くのが何もかも遅い。
そう、いくら私の中で線引してキスや奉仕といった事はレイ君にしかしないと主張したところで、体を重ねてる時点で説得力はゼロだということに。
でも、それでも本当にしていない、気持はレイ君からブレた事はない。
だから心の底から訴えればレイ君はきっと分かってくれる筈だと信じてレイ君に訴える。
「……誰も信じないかも、でも本当なの、親愛を示すような事はレイ君にしかしてないの、本当に先輩の事は何とも思って無くて、だからお願いレイ君。レイ君への想いだけは信じて下さい」
突然キスされたレイ君も驚きの表情から困った表情に変わり、必死に訴える私を見てくれた。
でも、それを邪魔するようにスイがレイ君の腕を掴むと私を睨むようにして言った。
「じゃあ、私もレイの事が大切な親友として、これからレイを慰める。これは恋人に裏切られて悲しむレイを放って置けないからすることよ……そうアナタと同じように恋愛感情無しの上でね」
そう私に告げると、レイ君の耳元で何かを囁く。
スイの言葉に驚くレイ君。
「でも、そこまでしなくても」など否定的な言葉が漏れ聞こえる。
悩むレイ君にスイは更に耳元で何かを告げる。
それと同時に目を大きく見開き、すぐにグッと堪えるような表情を見せると頷いた。
私は二人が何をしようとしているな分からない、分らないけど嫌な予感だけはヒシヒシと感じる。
でも、次にスイから出た言葉は驚くようなモノで私に希望をもたらすものだった。
「いま、レイも納得してくれたわ。これから私達がすることをアナタが裏切り続けた期間耐えることが出来れば、私はアナタとレイの仲を取り持つと約束するわ」
「えっ、本当に、本当? なら、うん、絶対に耐えて見せる、頑張るから、だからお願い私にチャンスを下さい」
スイの提案に考え無しに同意するわたし。
本当に、本当に愚かな私は気付くのが遅い。
そんな都合の良い提案をあんなに怒っていたスイがするはず無いのに、そんな事にも気づかず目の前のエサに飛び付く私は、きっと何も分かっていなかった。
きっとスイもそれを踏まえて提案したのだろう。
だから、これから始まる出来事を前に私は安堵していた。
レイ君とうまく行けばやり直せる。
レイ君の愛が試されるのなら、きっと何とかなるって根拠のない安易な考えで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます