学園生活の始まり

第12話  寮

 一ノ瀬唯香と出会ってしまったあの日から、特にこれといった出来事もなく時は過ぎていった。


 そして、今日から私は花の高校生である!


 全寮制のこの学園は本当に学校なのかと疑ってしまうような大きさをしている。


 ちなみに、今の私の格好はというと髪を三編みおさげにして、よく変装で使われるあの牛乳瓶の底のような伊達メガネをかけて、真新しい制服を身にまとい、普段の私とは到底結びつくことはないであろう格好をしている。どうして私がこんな格好をしているかというと、ハニフラの中で城ヶ崎美波は高校2年生のときに転入してくる設定なのだ。


 けれど、今日は高校の入学式が行われる日である。つまり、私は1年早くハニフラの舞台であるこの百合ヶ丘学園に入学することになったのだ。


 1ヶ月ほど前、父と母にダメ元で百合ヶ丘学園に通いたいと伝えると意外にもあっさりと了承してくれたのだ。ということで、折角1年早く通うことができるのだから小説に出てきた場面を生で見よう!と思い至り、香澄達にバレないように変装をして入学することにしたのだ。


 はぁ〜、幸せだ。小説の中の世界が私の目の前にあるなんて…!


 ついつい顔がニヤけてしまっているからなのか、それとも私の見た目のせいなのか、さっきからずっとチラチラと周りからの視線を感じる。なんだか、気まずいような恥ずかしいような気持ちになって早く寮に行こうと小走りになりかけた時、「キャー」後ろから黄色い悲鳴が聞こえてきた。私への視線はなくなり、あの悲鳴は一体何だったのかと声のした方を振り返ると、そこには姫と王子がいた。


 実際には香澄と唯香なのだが、そう錯覚してしまうぐらいのオーラが出ている。


 そういえば、この場面は小説でも出てきていた。この学園はとにかく敷地が広く、門から寮まで約500メートルほどあるのだが、香澄と唯香は門の前で偶然会って寮まで一緒に行くという場面があるのだ。


 それにしても、キャーキャーという声がなくなる気配すらない。でも、どうして入学式の日なのにすでに2人は人気があるのか?と不思議に思うかもしれないけど、実は百合ヶ丘学園に通う女の子たちは、殆どがある3つの中学を卒業していて、香澄と唯香は別の中学だったけど周りの女の子たちは2人のことを知っているという状況なのだ。


 あれほどオーラのある2人だから、中学でもかなりの人気を誇っていたのだろう。実際、あの2人はそれぞれの中学でトップの人気だったし。残りの中学でトップの人気だった九条 彩芽(くじょうあやめ)も小説に出てくるのだが、第1章でのライバルキャラで美波と違うところは好きな相手が香澄ではなく唯香であるということ。


 彩芽は香澄に嫌がらせをしたり、唯香に常にベトベトとくっついていたりして、香澄が唯香への恋心に気づくきっかけを作る役割を持っていた。でも、1年生が終わる前の2月に香澄に嫌がらせをしていたことを親に知られてしまい、転校するのだ。


 彩芽は香澄に嫌がらせをしていたけど、なんというか憎めないキャラだったから敵役だったけど嫌いではなかったんだよね〜。最後の唯香にこっ酷く振られるシーンもなんだか泣けてきちゃって、ついつい庇いたくなっちゃったし。


 とは言っても、実際助けたりはしないんだけどね。本来なら学園にいるはずのない私が無闇に関わって物語を変える可能性だってあるし、用心するに越したことはないからね!まぁ、こんな格好をしてるからバレることもないだろうし、目立ちもしないよね!


 よし!取り敢えず、早く寮に行かないとだよね。今は7時だけど8時30分からは入学式だから部屋の整理とか色々やってたら結構ギリギリになっちゃうよね。


 黙々と歩き続けてやっと寮についたけど、私の目には寮というより高級ホテルに見える建物が映っていた。寮の建物は3つあって、学年別に分けられている。建物の中にはいろいろな施設があって、ここで一生暮らせと言われても問題ないぐらいだ。


 うわ〜本当にすごい!さすがお嬢様学校って感じ。そういえば部屋割りってどこにあるんだろう。え〜と…あっあそこで聞くのか!


「あの、白鳥美波です。何号室ですか?」


「白鳥美波様ですね…1624号室です。このカードキーをお使いください。このカードキーは他の施設でも必要になるのでなくさないようにおきおつけくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 ちなみに、私は名字を母の旧姓である白鳥に変えている。城ヶ崎だと、バレるかもしれないからね。


 は〜緊張してきた。こんなに大きい寮だけど、2人で1つの部屋を使うのだ。


 同室の人どんな人だろう、話しやすい人だといいな。


 とうとうついた!1624号室、よし!


 ピー


 あっ荷物がある!


「あの〜、お邪魔します」


 緊張しすぎて自分の部屋なのにお邪魔しますなんて言ってしまった!と、どうでもいいようなことに少し後悔していると廊下の先の扉が開いて同室者の顔が見えた。


 その瞬間、私は思わずにはいられなかった。1624号室専用のカードキーを使って入ったのにもかかわらず、この部屋は私の部屋ではないと。今すぐにこの部屋からダッシュで逃げ出してしまいたいと。



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