第20話 毒沼

 馬車から降りて、暫く歩くと森の泉が見えてきた。ここはとても美しい水が流れていて、優しい雰囲気が漂っていた。

「水、ここで採取するか」

「…水筒に入れる分には良いかもね」

「?飲むなってことか?」

 もしも私の勘が正しければ…大地魔法で周りの土を少しだけ浮かせた。その土を減らしていくと、やがて一つの物体が見えてきた。

「おいっ…なんだ、これ」

「…見ればわかるでしょ。人間の死体だよ」

 全て変色しているその死体は、周りの地面ほとんどに埋まっていた。白骨化しているものはなく、全て形を保っている。

 それに、外傷も目立っているものはない。

「…魔法人形作成」

 魔法人形を作成するには、三分の二以上の死体が必要だけど周りに有り余っていてよかった。

「お前…これどうする気…」

「ここの水を飲ませるんだよ」

「は?」

 魔法人形は私の命令に忠実に、泉の水を口に含む。そして瞬く間に口から泡を吹き出し、倒れた。また命が潰えたようだ。

「一見綺麗に見えても毒沼なんだね。」

「…やっぱ水は採取だけにするわ」

「そうしといた方がいいね。ご遺体はあとで騎士隊に引き取らせよう」

 私たちで運ぶにしても無理がある量だ。しかしまぁ…こんなに怪しい水なのに何故、賢者の称号を持つ死体まで倒れているのか。

 賢者の称号は中々賜れるものではないし、国の中でも指折りの魔法使いのはずなのに…

「そもそもAクラスとはいえ、コリンに任せるのもおかしい気がする」

「お前失礼すぎね?」

「だってコリンは攻撃魔法も浄化魔法も下手で…魔法の操作が上手かったからパフォーマー志望だったじゃん」 

 少なくとも2年前まではそうだった。しかし、魔法界での2年で分野が変わることはとても少ない。師匠がついた、または変わった…それか実力が大きく変わるきっかけができた。

 けど、それも大体は退化…よくないこと。

「…まぁ色々あったんだよ。今は攻撃魔法も使えなくはないから」

「ふ〜ん。私は魔法なら基本なんでも使えますけど〜」

「うわ腹立つ…」

 何たって魔力が多いですからね〜。こんなこと言ってる場合じゃないか。まずは注意喚起の看板立てて…横に水源を作ってあげようかな。

 大地魔法を展開、地面の深くから水源を探知魔法で発見。水魔法でここまで繋げたら…見た目はカスだけど、簡易的水源完成。

「三つの魔法展開って…化け物かよ」

「大丈夫、これEクラスの奴でも練習したらできてたから」

「マジか、練習しよ」

 と言っても、史上最強の稀代の魔女の息子で、緑の瞳をした私の兄だけどね。練習するのはいいけどこれって練習したらできるもんなのかな?

 私は最初から使えたんだけど。

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