第11話 緑の瞳

「えっ…ティナ?」

 まさか、こんなところで遭遇するとは。緑の髪に緑の目。耳には紫色のイヤリング。確実に実の兄だ。

「何してたの、こんなところで」

「任務…与えられてて…暫く近くに住んでて…」

「そういう話じゃない、何でこっちの世界にいるの?」

 この世界と私が生まれた世界はそれぞれ別モノだ。元の世界からこっちの世界に、行くことはできても帰ることはできない。

「ねえ、聞いてるんだけど」

「痛い痛い痛いごめん話すから!!」

 こうして兄の口から語られた話は、一年前のことらしい。


ー一年前ー


 妹が、母に続いて失踪してしまった。家族はまた悲しんだけれど、俺だけは知っている。ティナは…妹は扉を開けたんだ。

 そう思うと途端に恐ろしさに見舞われた。家に謎の扉があって、しかも開けてしまったらどこかへ連れ去られてしまうと言うのに、怖くないはずがない。

 そんなこんなで、妹の失踪から2年が経とうとしていた。

 覚悟を決めなくてはならない。


 扉は開いた。それはそれは簡単に。ぼんやりとした意識が空中に漂っているような感覚だったが、いつしか突然、背中に痛みが走った。

「痛っ!!は!?」

 情けなく大声を上げると、下のフロアから登ってきたと思われる謎の大男が出てきた。褐色肌のその男は、俺をじっと見下ろしている。

「ようやく一段落したと思ったら…また異界からの客人っておいおい緑目かよ」

「え、やだなあ緑目差別とかあります?」

「逆、めっちゃ人気だわ。お前、名前は?」

 ルーカス・エフェクターです。そう答えようと一瞬考えてやめた。聞かれたからって普通に返したら危機感ないし。

「ルキ・エーミス、です。」

「…そうか。じゃ、取り敢えず城行きかなぁ…」

「いやです、今正装持ってないし」

「いやとか嫌じゃないとかの話じゃないんだ、まずは行くんだぞ?」

 段々正気になってきたけれど、ここはどこなんだ?普通におかしい、書庫の奥にこんな場所があるなんて。でも妹が消えた理由は何となく理解したわ。

 この世界に来てしまったら、二度と戻れない。そういうことなんだろう。不思議と冷静でいられた。

「ふむ、また異界からの客人か。まさか2年ぴったりでやってくるとはな。」

 若い男が玉座でうんうんと唸っている。これが国王?にしては若すぎないかとか考えていたが、やがて耳元にかかった声でそんな考えすら消えた。

「兄様は確かに若いからのう。しかし国きっての魔法使いなのじゃ」

「魔法っ!?」

「ああそうか、異界に魔法はないんだったな…」


____


「って感じで…」

「なんで追いかけてきちゃうかなあ…」

 我が兄ながらちょっと頭がおかしいんじゃないかと思い始めている。普通妹が消えてから2年も経ってから書庫の奥に行こうとか思うの??

 まさかこんなところまで追ってくるなんて思っていなかったから兄の存在結構忘却してた。ごめんなさいキリさん、ご迷惑をおかけして。

「わかった、その件に関してはあとで国王絞るけど。まずはこの館の攻略考えないとね?わかってるんでしょ、兄さん。」

「…ん、一旦外出よう。」

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