異世界スクロール職人はジョブを極めて無双する

米糠

第1 話  お払い箱になった件

「キル!これは君のためでもあるんだよ。『カリナ村の光』は今日で解散だ。そして俺とバンはクラン『大地の護り手』に加入する」厳しい顔でそう言うのは村を出て以来一緒にやってきたケラだ。


1年前俺キルは幼馴染のケラ、バンと一緒に冒険者になる為に此処パリスの街にでてきたのだ。

そして冒険者ギルドで冒険者パーティー『カリナ村の光』を結成したのだった。


それは春、春は魔獣達が動き出す季節だった。俺たち3人は、たくさんの新人冒険者が誕生するこの季節にそのたくさん誕生したパーティーの1つとなったのだった。Fランクの冒険者、Fランクのパーティーとして。


そして1年後多くのパーティーが稼ぎが足りず辞めてしまったり或いは怪我や死亡によって消えて行った中で僅かに残った3割のパーティーの1つになった。


その間に俺たち3人はEランクの冒険者、『カリナ村の光』はEランクパーティーに昇格、そして『カリナ村の光』はパリスの街でも指折りの大規模クラン『大地の護り手』にスカウトされたのだった。


パーティーリーダー剣士のケラ、槍使いのバン、2人は剣士と槍使いのギフトを持っていたが、俺キルは剣で戦っていたがギフトは生産職のスクロール職人だった。

ギフトは12歳の時に教会でおこなわれる成人の儀の時に与えられる。

ギフトと同じ職業ならば成長し易いと信じられている。

そしてギフトと同じ系統のスキルも生えやすいらしい。

まあそう言う才能があると判定されたと言うことなのだろう。


そして『大地の護り手』は生産職のギフトを持つ俺キルには冒険者は無理だと言ったのである。

つまり将来性のない奴をメンバーに加えるつもりはないし、加えればついて来れずにすぐに死んでしまう事になるだろうと言うのだ。


冒険者という仕事は確かに楽なものではないし、致死率だって高いのは確かだ。

足手纏いを連れてできる仕事ではないと言えばそのとおりである。

『カリナ村の光』を誘った『大地の護り手』だったがギフトまで詳しく調べた結果2人は良いが俺はダメと言ってきたわけである。


今現在はそれほどケラやバンに引けを取るとは思わない俺だが戦闘職のギフトを持たない俺は今後2人の成長について行けなくなるのは容易に想像できることでもあった。


このまま3人でやっていくことは、2人の成長の妨げになるかもしれない。

パリスでも指折りの大規模クランに加入出来ることは、それだけでも多くの先輩達の指導を受け安定した生活を保証されることでもある。


3人でやっていて来年もパーティーとして生き残れるかは低い確率なのかもしれないのだ。


「キル、すまないな。俺も3人でやって行きたいよ。でも生き残れるかと言えば結構厳しいんじゃないかな」

厳しい顔でバンも言った。


「俺はキルには死んで欲しくはないし、俺自身は冒険者として上に行きたいとも思っているんだ。3人でやっていても多くのパーティーが消えて行ったように来年の春を冒険者として迎えられるとは限らないと思うんだ。」とケラ。


確かにそのとおりなのだ。

冒険者と言う仕事はそれほど楽に稼げる仕事では無いのだ。

始めの頃は宿屋代も稼ぐことができず野営を繰り返していたことを思い出す。

今でこそ宿代くらいは稼げるようになったけれども、状況によっては宿代が無くて野営をしなければならない羽目にならないとは言い切れない。


大きはクランに入ってそのホームに住むことができることは、それだけでも有難いことなのだ。

それを思えば俺から2人にクランへの加入をやめて自分と一緒にパーティーを続けてくれとは言えなかった。


「キル、お前はお前のギフトにあった生産職をやった方が良いんじゃないかと俺は思うぜ。その方が安全じゃないか」とバン。



キルは暫く下を向いて気持ちの整理をした後でこう言った。

「確かにバンの言う通りかもしれないな。俺は後で生産者ギルドにでも顔を出してみるよ。冒険者の仕事も力仕事や清掃作業だの1人でも受けられる仕事を食い繋ぐのに役立てさせてもらうけれどもな」


「そうか、お前がそう言ってくれると俺たちも気が楽になるよ」

「元気でやれよ、困った時には声をかけてくれ、俺たちもDランクを目指して頑張るからよ」

ケラとバンはそう言うと背中を向けて腕を上げ手の平をヒラヒラしながらキルから離れて行った。


14歳の春、周りには新人冒険者が溢れかえっていた。

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