万全なる整備
ケヨウス砦──
「
「バカヤロウッ、材料が潤沢にあるっつっても一日で仕上げるんだぞ。寝起きの人間と同じように全身の筋肉と神経を馴染ませるのにも時間は掛かるってもんだ。全とっかえはリリィュおじょ──リリィ隊長のだけでいい。あぁただしな、
「リリィ隊長のだけって、あの二つ眼はそんなに特別な
整備員達が走り回るなか、ひとりの貫禄のある
「いや、確かにこいつも特別であることは変わらないが、魔獣鋼加筋肉を全とっかえする一番の理由は
「なんだって、一回の出撃で筋肉をぶっ壊す? ヘッハッハッ。そいつはすげぇ話だやな」
マリオ主任の真顔で吹く冗談にゲアは大きく笑うが、マリオは表情ひとつと変えぬまま眼だけをゲアに向けて小さく声を漏らす。
「まぁ、
「おいおい
「ハッハッハッ、しなやかな筋肉の理由はリリィ隊長の行動範囲内に敵がいなかっただけだろうな。リリィ隊長は大事なもんをこの手で守るためなら無茶を無茶とも思わず無茶苦茶をやれる方だ。この〈ハイザートン〉も本人には内緒だが
「ハハハそこまでしつけぇと冗談にも聞こえなくなってくるな──と、んじゃ俺は呼ばれてるみてえだから第四の〈ガルナモ〉の様子を見てくるわ。どうしたっ、問題でもあったかっ」
マリオの言ってる言葉がどこまで冗談であるのか測りきれないゲアは笑いながら一騎の〈ガルナモ〉の点検作業の様子を見に向かった。
一人残されたマリオは完全に外装を外された、筋肉繊維と鋼とが同化した不思議な色合いの魔獣鋼加筋肉が剥き出しとなった指揮型〈ハイザートン〉を見上げた。
〈ハイザートン〉はガルシャ製の
どれも
「
「あぁ、そいつは今はまだだな。
整備員から再び指示確認がきたが
「ちょっとマリオジ何言ってんだッ、あたし以外にこの子らの
が、そんな事を考えていたマリオの傍に聞き馴染みのありすぎるサマージェン・カーターの甲高い声が整備作業音に負けじ劣らずと耳に届き、相変わらずな若い男整備士達には目に毒な奇抜な
「マリオジ、あたしの提案した通りに整備してくれてる。今から術式の調整すっから、あたしの昇降器どこに置いたっけッ」
「おい待て、オマエさんはここに着いてからずっと働き詰めで休んでねえだろう。もうちょっとエイモンの傍にいてやれ」
張り切りに仕事をしようとするサマージェンをマリオは慌てて引き留めようとするが、サマージェンは両腕をブンブンと振り回し引き止めの手を引き剥がすと輝かしな大きな眼と弾む声でマリオに言った。
「そのエイモンはさっき眼が覚めたんだよッ」
「な、本当かよッ。そいつは朗報じゃねえかッよかったなっ」
「そうッ、だからあたしはノンビリしてられねえんだわッ。
「だからつって、目が覚めたばっかのエイモンが明日の出撃に許可を貰えるかわかんねえだぞ。それに、オマエさんの言ってた整備計画じゃ〈ハイザートン〉の術式容量パンクしちまわねえか?」
「アイツは絶対に出撃するて聞かないだろうし、リリィも止めやしないって。だったらあたしは上等な
マリオの制止も聞きはせずただ生き生きと運ばれてきた昇降器に飛び乗るとサマージェンは
(やれやれだわな)
ガルシャへと向かう前は頑なに鉄馬車からは降りないと白法衣 《ローブ》のフードを深く被っていた娘が、ひとりの男に付き添いながらガルシャでの整備作業を積極的に手伝い、今はまた元気な姿を取り戻し、ずっと隠していた頭の耳をさらけ出して調整作業を始めている。誰がここまでサマージェンという少女を元気にさせたのかは一目瞭然であり、マリオは擽られる父性に軽く妬ける気持ちになる。
「よぉしオマエらサマージェン先生のご所望通りに整備計画変更だッ」
それと同時に嬉しさを感じながら彼女の進言した整備計画を実行に移す決断をした。恐らく
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