第6話 新たな学び

まだ流暢ではないがテイン語を話せるようになったのは15人中10人。そのうちの梨奈りなは言うまでもなく完璧にテイン語を話せるようになっていた。

残り5人のうち4人はテイン語を理解できるが、自分が思ったことを上手く言葉にして表現できない。祐希ゆうきもそのうちの一人だ。読み書きができるが話すことが難しいという感じだ。

残りの1人はスポーツ刈りの低身長男子であり、運動神経はよくないがスポーツ観戦大好き勉強が大の苦手な・中村圭吾なかむらけいごだ。賢者の教え方のおかげで、全く理解ができないというわけではないが、入学までに間に合うかどうかといったところだろう。


人並外れた賢者の教え方により、1年間で祐希たちはテイン語をだいぶ理解していた。



ある日の朝食後、賢者は今後の予定を祐希たちに言った。


「お主らも、随分とテイン語を話せるようになったのぉ。じゃから今日からは入学試験に向けて、本格的に勉強をしていく」


賢者はブランドン学園の入学試験の内容また、今後何を勉強してくのか詳細に教えた。


「ブランドン学園の試験は主に筆記試験じゃ。歴史学200点、魔術論200点、基礎錬金術または薬学100点の三つ合計で500点満点になるよう構成されておる。その中でも、歴史学は国政と魔法二つの分野で成り立っており、基礎錬金術か薬学かは選択じゃ。そして、ブランドン学園に入学するためにはその78%以上の点数を取らなければならん」


祐希が賢者に尋ねた。


「主に筆記試験ということは他にも何かあるんですか?」


「身分証明書と一緒に持っていく書類じゃよ」


その書類というのが、魔力調査書である。

魔力調査書とは、その人の魔力がどれだけ濃いのかまた身体中に流れる魔力の伝達度、また魔力が持つ熱など様々なことが記載されている書類である。血液検査の魔力ver.みたいなものだ。

この魔力調査書は身分証明書と一緒に提出することが多く、魔法関連の職に就く場合には必ず必要なものだ。


「その魔力調査書の能力次第で点数が悪くても入学できるってことですか?」


「そうじゃ。祐希の言う通り!」


元はじめが浩也こうやを見てニヤリと笑う。


「つまり、スポーツ推薦みたいなものだね」


「な、何でこっちを見るんだよ!俺は別に勉強できねぇわけじゃねぇからな?」


ボブショートのナイスバディのバスケ部・高橋明日香たかはしあすかも浩也を揶揄った。


「そうなん?うちにはそんな風には見えんけどなぁ?」


「う、うるせぇな!俺はおめぇよりテイン語できるんだぞ?」


「な、なっ!…。」


明日香は顔を真っ赤にして額には汗、少し動揺した。

話はどんどん脱線し始め、賢者の影は薄くなってしまった。「おーい」と声をかけているが誰も見向きもしない。賢者はポツンと突っ立っている。


莉菜が盛り上がっているところ気にせず、賢者に聞いて本題に戻した。


「その身分証明書とか魔法調査書ってどこで発行するんですか?」


賢者はゴホンッゴホンッと咳き込み再び話し始めた。


「そうじゃ、よくぞ聞いてくれた。身分証明書と魔法調査書は商業ギルド、冒険者ギルド、あとここではブランドン銀行で発行できるぞい」


アニメ好きの晴人はると、アニメガチ・・オタクの眼鏡坊主・荒木晃彦あらきあきひこ、厨二病の片鱗が見られる小学生とよく間違えられる容姿に目元にそばかすが目立つ闇斎海あんさいうみが目を輝かせて、賢者が言ったことを繰り返しに聞く。どうやら三人は冒険者ギルドと聞いて興奮していたみたいだ。

そんな三人に賢者は戸惑うというか、恐怖であったと思う。

賢者の顔がひきつっているのが祐希たちには見えた。


「とにかくじゃ!!お主らが今後することは2つ!歴史学、魔術論、基礎錬金術もしくは薬学の勉強!そしてもう一つは魔法調査書を少しでも良くするため、魔法の訓練じゃ!!」


晴人、晃彦、海の頭の中ではある言葉が何回も再生されていた。

『魔法の訓練じゃ』『魔法の訓練じゃ』『魔法の訓練じゃ』『魔法の…』三人の目の色が変わった。

賢者はブルブルと震え背筋が凍ったように感じ、恐る恐る三人を見る。賢者は(終わった)っと思ったのだろう。なぜか目から涙が溢れていた。

三人にガンガンと揺さぶられている賢者を見た祐希たちはパンパンと手を叩き、「ご愁傷様」とおじきをした。


そんなこんなでまた、祐希たちの新たな勉強が始まった。

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