第32話 はめる

 土曜日に、学校で待ち合わせをした。撮影場所は美術室がいいと思った。

「話してくれるかな、どうしてヌードを撮ろうと思ったのか」

「私の身体が、汚れていないかを誰か人に見て欲しかったんです」

「ねえ、真田さん、深が写真を撮っていることがどうしてわかったの」

 萌が話の途中で口をはさんだ、珍しいことだ。きっと何か理由あるに違いない。


「大声で話してたじゃないですか、西城さんと服部さんが」

「講師室の声が聞こえた? それはないなぁ、気を付けて話したから」

「そういえば、周りの人だれも何も言わなかったかも」

「でしょ、多分中の話が聞こえたのは私だけ」

「じいちゃん、何か話して」

 萌がカメラに話しかけた。


「ん、多分お前の想うとおりだ、ただどうしてそうなったかだな」

「聞こえた?」

「はい、今のは」

「カメラの声、というより死んだ俺のじいちゃん」

「え、からかってますよね、腹話術とか」

「信じられなくて当然だけど、真山さんの話聞こうって言ったのはじいちゃんなの」

「そしてじいちゃんは、なぜあなたが写真を撮りたいと思ったかを知っている」


「お母さんの彼氏」

 真田の顔ははっきりと青ざめた。

「それが原因でこの子はわしたちの声が聞こえるようになった」

「ごめんなさい、私帰ります」

 真田は荷物を持つと慌てて帰ろうとした。


「話して、助けてあげられるとおもう、私たちなら」

 真田が崩れるようにしゃがみこんだ、肩が震えている。

「大丈夫、絶対に何とかしてあげる」

 萌が肩を抱くと真田は声をあげて泣き出した。


 真田の家は、片親で彼女は母親と暮らしている。母親は市の教育局で働いており、生活は困ってはいない。


 母親には市立小学校の教等をやっている彼がいる。

 そのこと自体は真田も仕方がないと思っていた、母親もさびいのだろうと。


 事件があったのは、中三の夏休みだった。

 母親のいないときに家に来た男に、真田は強姦されたのだ。

 もちろん処女だった真田の服は引き裂かれた。恐怖で声もあげられなかった真田を男は幾度も犯したという。


 それは今も実は続いている、母親に何度打ち明けようかと思ったができなくて、本当に死にたいと思った時に、深のヌード写真の話を耳にした。

 なぜかわからないが、助かるかもしれない、そう思った。


「何とかする、そいつは次いつ来るの」

「明日呼び出されています」

「わかった」


「誰にしよう」

「本間留美」

 萌と深の意見が一致した。


「真田は来ませんよ」

 深は、阪急烏丸駅の改札口にいた男に声をかけた。

「誰だ、君は」

「真子の知り合いで、服部と言います」

「真子のボーイフレンドか、可哀そうだがあれはやめておけ」

「あなたに強姦された女性だからですか、今も玩具にされている」

 男の声はかすかに震えている。


「君は、何を言っているんだ」

「先生、いい加減にしましょうよ、みっともない」

「私を誰か知っているのか」

「はい、市立O小学校の中の教頭先生」

 男は、いきなり逃げ出そうとした。

「逃げるな、強姦魔、何人教え子に手を出した」

 改札を抜ける人々の目が、一斉に集まる。

 証拠はない、何となくそんな気がしただけだ。

「貴様ふざけるな、何の証拠があって」

「そんなものがいりますかこの変態」

「聞いてくださいこの男は手当たり次第教え子に」

「だまれ」

「何を黙れって言いうんですか、付き合ってる女の娘にまで手を出した奴が偉そうに」

 いきなり頬に痛みが走った、男が深の顎をこぶしで殴ったのだ。

 深が派手に吹っ飛び、女性の悲鳴が上がる。もちろん萌だ。近くには真田もいるはずだ。

「思い知ったかこのガキが」

 男のけりが腹に入る。完全に頭に血が上っている。

「待ちなさい、あなた、今この少年を殴りましたね」

「なんだお前は」

「京都府警の本間と言います、暴行の現行犯で逮捕します」

 留美は男の目前に警察手帳を突き付けた。


 男は踵を返し逃げようとしたが、その足を払われて、転んだ。

「あーあ、公務執行妨害もおまけかあ」

 京都府警の市川と言います。


「ありがと、ってあんたが持っていくの?」

「いや、本間に譲るよ」

「立ちなさい、暴行及び公務執行妨害の現行犯であなたを逮捕します。十八時三十二分」


「君、悪いけど話を聞かせてくれるかな」

「はい喜んで、この二人も証言してくれると思います」

「真子、お前ら俺をはめたな」


「はい、いろいろお話が聞けそうね、行きましょうか」








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