僕の点数

 頭の後ろに目玉がある。


 後頭部から僕の全身を見下ろすように、目が浮いている。


 僕の目からは死角になっているし、鏡にはどの角度でも映らない。


 それでも目の存在を僕は確かに感じている。目蓋のない眼球が、一瞬も休むことなく僕の一挙手一投足を見ていることを。僕の身体ぎりぎりに規定された領域からはみ出たエラーを漏れなく検知するために。


 予定時刻に起きなかった。減点。


 勉強せずに動画を見ていた。減点。


 前髪がはねている。減点。


 贅肉が多い。減点。


 挨拶の声が暗い。減点。


 目つきが悪い。減点。


 親の言葉に苛立ちを感じた。減点。


 しくじるごとに膨らんでいく負の絶対値。怖くなって立ち止まる。


 立ち止まるべきでない場所で立ち止まった。減点。


 優しい誰かが僕に点数を足してくれても、評価値が減るスピードには追い付かない。


 僕の圧倒的マイナスが、みんなの価値の平均を押し下げている。


 僕がいなければ平均点は上がる、でも許可もなく消えれば減点。一生分の減点。


 全身の神経をきりきり張って、お手本の線から少しもずれないように、最低限の減点で済むように。かける迷惑を最小化する道は他にない。


 緊張しきった筋肉が絞めた喉に空気が詰まって、言うべきことを言うべき時に言えなくて、減点。減点されまいとするほどに大きくなる減点。


 出来損ないの僕は思ってしまう。みんなも本当は僕と同じくらい出来損ないなんじゃないかって。減点。大木みたいに安定した人は、頭の後ろの目が加点方式で見てくれているだけじゃないかって。減点。


 僕の後ろの目は誰の目だろう。減点。僕が内側に組み上げた、僕に冷たい世界の目。減点。僕を愛していない誰かの目。減点。


 両手をお腹の前に当て、手の平に爪で印を描く。後ろの目から見えないように。


 振り向いて後ろの目と目を合わせられるまで。

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