その日駆け落ちをする恋人同士は、死神と出会う

漂うあまなす

第1話 ある日の夜更けのこと

ある日の夜更けに、少し人里を離れた

雑木林沿いの道でのことだった

明かりはなかったが、月が出ていて

まだ少し周りの様子が伺える状態であった。


2人の若い男女が周りを窺いながら

先を急いでいた。


男はさしたる地位も無く、しがない職に就くことが

決まっていた。


女は大分落ちぶれてしまっていたが貴族の血筋で

あり、親は向上心が強く、上級社会へ嫁ぐよう

堅く言われていた。


封権的なその国で、生まれながらの定めを逸脱

するのは容易ではなく

自由な意志を持って生きるのはとても困難であった。


2人は互いに好意は抱いていたが、添い遂げたい

ほどの熱意には至っておらず、

ただお互いに今の現状から逃げ出したい思惑の

一致にて、共に手を取り合いこの国から

逃れようとしていた。



峠に差し掛かる坂道に入った辺りで

息を切らした2人は歩を止めた。


余りに道を急いだ為、随分と疲労を伴ったが

まだまだ道は長かった。


来た道を振り返り逃げ出した自分達の住んでいた

街を見つめると、燃えているかのように

明るく夜の空を照らしていたのだった。


「あら?クラーチの街ってあんなに明るかった?」


「さあ、俺もアリーもクラーチの街を夜に

外から眺めるなんてなかっただろ…」


「だとしてもさ、空ってあんなに明るかったかな?」


青年の名はヌーイといった。


ヌーイが追手を気にするのはアリーの為であり、

もし捕まってしまっても罰を受けるのは

ヌーイのみであるにも関わらず

アリーの誘いに乗ったことを後悔はしていなかったが、どこか呑気なアリーに少し苛ついてもいた。


「水分を取って、息が整ったらもう少し進もう

この峠を越えて、夜のうちに隣の町まで行くん

だから」


「急かす気持ちは分かるけど少し待ってよ、

追手も来てないし…」


追手が来てからはでは遅いだろと思いながら

ヌーイはアリーを促すのだった。


ふと行き先に目をやるとそこに

黒い影が立っているのだった。

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