第27話 二人の関係
お風呂と
もうすっごいサッパリした。
ノノなんてお肌がつやつやのすべすべだし抱き着くともちもちだし最高!
「お嬢様がまた一段と輝いております……!」
「マリィちゃんもノノさんも綺麗よねぇ……溜息出ちゃう」
フェミナさんが羨望の混じった視線を私とノノに向けてくれたけれど、ノノはともかく私はどうかなぁ。
普通に身ぎれいにはなったと思うし、ノノの美味しいご飯のパワーでだんだんスタイルも良くなってる……はずだけどノノみたいなかっこよくて綺麗になるまではまだまだ掛かる気がする。
というかなれるのかなぁ……。
フェミナさんと私が同じタイミングで溜息を洩らしたところで、横を歩いていたドルツさんがニカッと笑った。
「確かに二人ともびっくりするくらいべっびんだがよ。俺にとってはフェミナが一番だゼヴァポッ?!」
「もう、恥ずかしいこと言わないでよ!」
いや、あの、フェミナさん……?
なんかすっごい良い感じの励まし方をしてたはずのドルツさんだけど、フェミナさんの鋭い拳がわき腹に刺さって吹き飛んだ。
思わず回復魔法を掛けてあげると、ドルツさんはよろめきながらも立ち上がる。
「人がせっかく褒めてんのに肋骨砕くレベルの一撃ブチ込んでくるんじゃねぇよ!」
「ドルツが恥ずかしいこと言うからでしょ!」
「もっと可愛く照れ隠しをしろよ!?」
そのままギャイギャイ喧嘩をする二人。
よくケンカしてる気がするけどもずっと一緒に活動してるっぽいし、中悪い訳じゃないよね?
「二人って付き合ってるの?」
「エッ?」
「ンンッ!?」
思わず質問したら、二人が固まって視線を変な方向に逸らした。二人とも耳まで真っ赤にしてボソボソっと何事かを呟いている。
ノノが近寄って耳をそばだて、大きくうなずく。
「結論から言えば両想いですが、なんとなく良い雰囲気のままズルズル来ててお互いに告白したこともなければ気持ちを確かめたこともないそうです」
「えっ!?」
なんか微妙な雰囲気だったんだよね?
それって言っちゃって良かったの!?
「
「なっ、別にそんなんじゃないわよ!」
「じゃあドルツさんのこと、どう思っているのですか?」
「うっ……」
フェミナさんが言い淀んだところでドルツさんが割って入った。
「煮え切らない態度で申し訳なかった。今からきちんとするから、ちょっと待っててくれ」
ノノを抑えるとフェミナさんへと向き直る。
すでに二人は耳まで真っ赤にしてるし、フェミナさんに至っては目が潤んでいた。
「フェミナ。今までずっと中途半端なことをしてて悪かった……こんなタイミングで悪いが、俺はお前が好きだ。仕事だけじゃなくて、ずっと一緒にいたいと思ってる。結婚してくれ」
「……私、暴力女よ?」
「俺じゃなきゃ受け止められないってうぬぼれて良いか?」
「……馬鹿」
フェミナさんはぽろりと涙を流した。
「あんたみたいな馬鹿は、私が面倒見てあげないと駄目よね」
「そ、それって!?」
「もう! 言わせないで!」
おおおおおおおっ!
思わずぱちぱち拍手すると、二人は我に返って私を見つめた。きっと二人だけの世界に入ってて私たちのことを忘れてたんだね。
それだけ夢中になれるってすごく素敵なことだと思うんだけど、二人はパッと距離を取って顔を逸らしちゃった。
「あ、ごめんなさい! マリィちゃんとノノさんがいるのに!」
「後でにするか……私事だしな」
「ええ!? せっかく思いを確かめ合ったのに!?」
「お嬢様、何でそんな乗り気なんですか……」
「焚きつけたのはノノでしょ!?」
「発端はお嬢様の質問です」
あれ? そうだっけ……?
「マリィちゃん、ありがとうね。マリィちゃんのお陰よ」
「おかげで踏ん切りがついた」
「つまりお嬢様は二人のキューピッド、ということですね。名実ともに天使になられるとは、さすがお嬢様です……!」
ノノ? その結論、いったいどういうことなの……?
***
「お願いノノ! 二人のお祝いに豪華なご飯にしてあげて欲しいの!」
「お嬢様のお願いですから、当然でございます」
頷いたノノは、村で借りたキッチンスペースにたくさんの食材を広げた。
ちなみにドルツさんとフェミナさんは人のいないところで改めて話し合いだ。きっとプロポーズとかしてるんだろうな。
「メインは手ごねハンバーグにして、彩りを考えた副菜を添えましょう」
「おおっ! なんかすごそう!」
「ええ。超古代文明時代でも”てごね”はかなりのステイタスになったようですね」
「でも、手以外だと何でこねるんだろう……?」
何の気なしに呟いた問いかけに、ノノの手が止まる。
「……手以外となれば、足、ですかね」
「えっ!? 足!?」
「はい。うどんも本来は足で踏むものでしたし、おそらく上流階級は手、それ以外は足だったのでしょう」
「なるほどね。てごねは王侯貴族の証ってことか」
それならば”てごね”に大きな付加価値がつくのも納得である。
てごねハンバーグならドルツさんとフェミナさんのお祝いにも相応しいだろう。
「そうと決まればまずはブルーオックスのバラ肉ですね」
濃い赤身の肉塊をどん、と取り出すと包丁で薄切りにしていく。
それを重ねてさらに粗みじんに切って、あとは包丁でまとめながら叩いていく。
粘り気が出たところで金属のボウルに移し、今度は玉ねぎだ。
「お嬢様もお手伝いいただけますか?」
「手伝いたい! 何でも言って!」
「ありがとうございます。では、これを炒めていただきます」
みじん切りにした玉ねぎを、バターを落としたフライパンに移して火にかける。
木べらを渡されたのでこれを炒めるのが私の役目だ。
「弱火にしてあるのでゆっくりで大丈夫です」
「うんっ! がんばる!」
バターが溶け始めてじゅわじゅわと音がし始める。木べらでかき混ぜるとふわりと良い香りが漂ってきた。
そのまま炒め続けると玉ねぎがだんだんと透き通ってきた。
焦げないよう何度も木べらで混ぜていく。
「お上手ですよ」
「美味しくできるかなぁ」
「ええ。きっと頬が落ちてしまうくらい美味しくなります」
ノノがそういうなら間違いない!
だんだんと色がつき始めたところで火から外す。ノノが用意してくれた濡れ布巾にフライパンを置いて冷ましたら、ボウルのお肉と合流。
卵や千切ったパン、香辛料を加えてノノがどんどん混ぜていく。
「すみませんお嬢様。ボウルを冷やしていただけますか?」
「はい、これでいい?」
ひゅお、と魔法で冷やすとノノが笑顔でうなずいてくれた。
「これって冷たい方が良いの?」
「最終的には焼くのですが、手の温度で
「ふむふむ」
「しっかり冷やしてから形を整えて、強火で焼きます」
ぱんぱん、と手に打ち付けるようにして平べったい楕円形にしていく。あっという間に私の手のひらよりも大きなハンバーグの元がいくつも出来上がった。
煙が出るほど強く熱したフライパンでハンバーグの元を焼いていく。
外側が香ばしく焼けたところで鉄板に並べていき、
「中が生なので、あとはオーブンでじっくり焼き上げます」
「何でわざわざ焼いたの?」
「こうして外側を焼いておくことで、オーブンに入れた時に旨味が出てこないんですよ」
なるほど……!
オーブンの中にハンバーグが収まったところで、残ったフライパンに赤ワインを注ぐノノ。木べらで焼いた後をこそぎながら煮立て、はちみつと醤油で味を付けながら煮詰めていく。
とろみがついたところでソース完成。
ちょびっとだけ味見させてもらったけれど、甘じょっぱくて癖になる味だった。
「時間があれば赤ワインにトマトや果物を加えたソースを作ることもできたんですが、今は難しいですからね」
「これも美味しいのに、別のソースもあるの!?」
「ええ。こちらも美味しいのですが、超古代文明時代に流行っていたのはもう一つの方ですね」
そ、そっちも食べてみたい……!
ささっと簡単なサラダを作ったところで仕上げはケーキだ。
さぁ、頑張るぞ!
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