第八話

 私も宗一郎そういちろうも一応、感心かんしんした。

「なるほど……」

「ふーん、なるほど……」


 だが、これが良くなかったのかもしれない。翔真しょうまは、脱線だっせんして語りだした。翔真は地球の温暖化おんだんかを止めるための方法を考えているが、この『平均へいきん』を使って一つ思いついたと。まず、全ての国が出した二酸化炭素にさんかたんその合計を計算する。それを国連加盟国数こくれんかめいこくすうの百九十三で割る。そうすると、一つの国が出した二酸化炭素の平均が分かる。そして、その平均よりも多くの二酸化炭素を出した国には注意する。また、平均よりも少なく二酸化炭素を出した国には何か、ご褒美ほうびをあげたら良いんじゃないかと。


 そう語った後、翔真は胸をった。


 私も宗一郎も、このまさしく子供っぽいアイディアを、どう評価ひょうかすればいいんだ……、と悩んでいると萌乃もえの先生が助けぶねを出してくれた。

「えーと、翔真君。先生は、とても面白いアイディアだと思いました。でも授業は、まだ続きます。次は、『平均の利用』を勉強しなければなりません。

 だから先生の授業を、聞いてくれるかな?」


 翔真は『面白いアイディア』とめられて気を良くしたのか、いつものように「はーい!」と右手を元気よく上げて大人おとなしくなった。


 すると萌乃先生が、話し始めた。

「えー、『平均』を求めるために工夫をすれば、全ての数を足す必要はありません……」


   ●


 その日の午後は、特別な授業が行われた。萌乃先生は、笑顔で宣言せんげんした。

「それでは今回は、『せい』についての授業をします。大切なお話だから、ちゃんと聞いてくれるかな?」


 いつも通りの無邪気むじゃきな表情と声で「はーい!」と返事をした翔真は更に、右手を元気よく高々たかだかと上げた。


「まず、『性』について説明します。『性』とは、自分の心と体のことです。分かったかな?」

「はーい!」


「それでは三つ、お話をするのでよく聞いてください。

 まず一つ目です。もしだれかに自分の体をさわられたり見られたりして『イヤだなあ』って思ったら、ちゃんと『イヤ!』って言ってください。もしこわくて『イヤ!』って言えなかったら、取りあえずその場からげてください。できるかな?」

「はーい!」


「それでは二つ目です。自分の体を触ったり見たりするのは、知らない人とはかぎりません。知らない、おじさん、おばさん、お兄さん、お姉さんとは限りません。

 もしかしたら、この大海たいかいの生徒や先生かも知れません。もしかしたら、自分のお父さんやお母さんかも知れません。それでも『イヤだなあ』って思ったら、ちゃんと『イヤ!』って言えるかな? それに大人にSNSで『はだかの写真を送って』って言われても、ちゃんと『イヤ!』って言えるかな?」

「はーい!」


「では三つ目です。『イヤだなあ』って思うことがあったら、できれば私たち大海の先生に教えてください。そうしたらみんなが二度と『イヤだなあ』って思うことがないように、先生たち、がんばっちゃいます! だから私たちに、教えてくれるかなあ?」

「はーい!」


「それでは最後です。自分の心と体は、世界に一つだけの大切な心と体です。だから大切にしてください。そしてできれば他の人の心と体も、自分の心と体と同じように大切にしてあげてください。どうかな? できるかな?」

「はーい!」



   ●


『性』の授業が終わると、次の授業が始まった。草間くさま先生と、知らないやせた男の人がならんでいた。

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