第3話 初見参・新型城郭

 そんな数年を過ごしてきて、普請事業も、かなり覚えてきた。さらに、荒れた土地、あるあるなのかも知れないが、暗躍の仕方というのも、覚えたのだった。

 教えてくれた人は、戦国時代では、北条氏に身を寄せ、風魔忍軍の幹部として活躍を下ということだが、その人と別れて、重光は、三河に戻った。

 しばらくは、温泉などに浸かったりして、身体を癒すことに従事していたが、そのうちに、父親に呼び出された。都から帰ってきて、半年ほどのことであった。

「お父上、何か御用でしょうか?」

 と訪ねてきた、父親に訊ねると、

「うむ、都から帰ってきてすぐで申し訳ないのだが、すまないが、蝦夷地へ行ってくれんか?」

 と言われた。

「蝦夷地ですか? みちのくですか?」

 と聞くと、

「いや、さらに、海を渡っての蝦夷地なのだが」

 と、いう。

「どういうことですか?」

 と聞くと、

「詳しいことは、現地に入ったわしの先遣隊に聞いてもらえればいいと思うのだが、今はハッキリとしたことはいえない。事情を知らない人に話すには、わしでは心もとないというべきか、とにかく、また聞きを繰り返すと、間違って伝わってしまうので、詳しい話は現地で聞いてもらえると助かる」

 というのだ。

 それでも、まだ少し浮かない顔をしていると、

「そうだろうな、この間は都だったのでまだわかるが、今度は蝦夷地という、完全なる未開の地だからな。それにここからは、大軍を率いたりもできないので、またしても、数十人の団体になるが、それも許してもらいたい。ところで、お前は京で、諜報活動などや、忍びの訓練を受けたというが、どうなのだ?」

 と言われて、

「実践でやったわけではないですので、何とも言えませんが、教えてくれた人からは、呑み込みが早いと言われました」

 というと、

「そうか、それならいいんだ。」

 と言われたので、

「それが蝦夷地で役立つということでしょうか?」

 と聞くと、

「役立つかも知れん。とにかく未開の地での行動になるので、いろいろ身に着けておくのは必要だ。この先、これからの時代は何が起こっても不思議のない時代だ。これからを生き残っていくには、生き残るための知恵や、力が必要だ。お前にはそれを求めたい。いずれは、この三河で、兄の力になってやってほしいのだ。そして、領民ともども、幸せな暮らしができるようになればいいと、わしは真剣に考えているのだ」

 という父の顔を見ていると、ウソを言っているようには、とても思えない。

「分かりました。蝦夷に向かうことにします」

 と返事をしたが、重光の中では、あの時、教えてもらった諜報や、忍者の極意、さらには、普請事業でのノウハウなど、領主の長としては、使い道がないようなことなだけに、重光本人も、今まで以上に自分の存在感をアピールできることだと感じたのだった。

 それにしても、みちのくであっても、かなり遠く未知の世界のように思える。それをさらに海を渡って、北海道に渡るなどというのは、完全に外国にいくようなものではないか。今、蝦夷地と呼ばれる北海道では何が起こっているというのか、何かが起こっていないと父のこのような真剣な表情は映し出されることはないだろう、

 気になるのは、父親が自分を過大評価しているのではないかということであり、まったく想像もできないところに行けと言われるのは、ワクワクするという気持ちと、どうしようもないという、諦めに近い形が交錯していた。

 どうせなら、ワクワクした気持ちになれるなら、それでもいいと思えるほどの雰囲気が、父親にはあった。

 いくら、地方の領主の息子だからといって、次男であるということで、こうも簡単にあっちこっちに行かされるというのは、あまり気持ちのいいものではない。体よく追っ払らわれたと思うのも無理もないことだったのだ。

 蝦夷地に向かうのは、さすがに遠いということもあって、結構、時間がかかった。

「そんなに急いでいくことはないので、慌てずに行くんだぞ」

 と、父親からは言われていた。

「ちなみに、蝦夷地というのは、どういうところなんですか?」

 と聞くと、

「昔はアイヌ族というのは住んでいて、平安の時期に、本土の人間が少し移住したというような話を聞いたことがある。ただ、松前というところくらいにしか、本土の人間は入っていないような話だったんだ。どうも蝦夷地というのは、作物を栽培するには適していない場所だということを聞いたことがあるんだ」

 という。

「どうして私が、そこに行かなければいけないんですか?」

 と言うと、

「実は通訳を頼みたい。お前は確か英語ができるということだったが、それは本当かな?」

 と、逆に聞かれた。

「ええ、京に入る頃、普請事業を行った時、スペイン人がいたんですが、彼らがいうには、スペインにも母国語があるらしいんですが、英語というものが、全世界では共通になってきているので、英語をよく話していたということでした、私は彼らから、いろいろ教わりましたので、その時の影響で、流暢ですが、英語も勉強しましたね」

 史実として、現代に伝わっているのは、まだ、その頃には、キリスト教が入ってくるかどうかということだったようだが、実際には、どこかから、入ってきていたのかも知れない。

 つまり、ひょっとすると、明国や、朝鮮を経由して入ってきていたのではないだろうか?

 時代としては、ほぼ、同時期に鉄砲も伝来することになっているので、キリスト教や鉄砲以外でも、他にも伝来していたものがあり、すでに日本には、海外からのルートができていたのかも知れない。

 そんな時代の蝦夷地なのだから、歴史上はほとんど表に出てはいないが、知られざる秘密があったとしてもおかしくはないだろう。

 数か月かけて、陸路を津軽までやってくると、そこで、またしても、足止めを食ったわけだが、

「どうせ、ここまで来ているんだ。慌てたってしょうがない」

 と思っていた。

 ただ、一つ気になるのは、今まで、ほとんど海に出たこともなく、船にも乗ったことがなかった重光は、大人のくせに、船が怖かった。

「沈没したらどうしよう」

 あるいは、

「船酔いするというが、かなりきついものらしい。大丈夫だろうか?」

 という思いであった。

 父親に聞いた松前というところは、かなり寒いということであり、津軽からは船で、結構かかるという。

「まるで、地球の端っこに行くような感じがする」

 というと、父親は、

「まあ、そうだろうな、そこから先は誰も行ったことがないんだからな」

 というのを聞いて、少しゾッとした重光は、

「ひょっとすると、行った人は何人もいるんだろうけど、帰ってこれなかったんじゃないですかね?」

 と言うと、

「そうかも知れないな。だから、お前も深入りするんじゃないぞ」

 と言われたが、自分で、帰ってこれなかったとは言ったが、逆に、

「居心地がよくて、戻ってくる気がしなかったんじゃないか?」

 と感じたが、それは言わないことにした。

 自分で行った時、確かめればいいだけだからである。

「蝦夷地というところは、普通に隈が出たりするらしいので、どんな凶暴な動物が潜んでいるか分からない。松前に着いたら、そのあたりの情報は、なるべく早く教えてもらっておくのだな」

 と言った。

「ところで英語で通訳というのは、何かの商談か何かですか?」

 と聞くと、

「そうだな、基本は、商売の通訳になるだろうが、外交的なこともあるのではないかと言われた。辞書はあるらしいので、英語が少しでも話せれば、大丈夫ではないかという話だったので、お前に白羽の矢が立ったというわけだ」

 と言われた。

 重光は、津軽で五日滞在したところで、船頭がやってきて、

「明日なら、何とか行けそうだ」

 という話を聞いて、

「おお、そうか、それはありがたい」

 と言って、喜びの声を挙げた、

 すると、船頭は少し浮かぬ顔をした後で、少し思い切ったかのように、

「旦那は、松前のどこに行きなさるんですか?」

 と聞かれて、

「函館というところだと聞いているんだが? それがどうかしたのかい?」

 というと、

「ああ、いえね、函館というところは、少し危険なところだという話を聞いているんですよ。何しろ、日本の勢力が及ばない場所だということなので、常識も通じないという。そんなところに行かれるでしたら、それなりの覚悟はおありなのかと思いましてね」

 というので、

「それは私も聞いている。どうやら、英語を話すスペイン人というのがいるということで、スペイン人なら、私も、京にいた頃、親交があったので、少しは違うと思う、何しろ私は、見込まれる形で行くのだから、他の人よりも一番ふさわしいと思っているんですよ。だけど、そんなに危険なところなのかい?」

 というのを聞いて船頭は、

「実は、私も詳しくは知らないんです。今言われたくらいの情報くらいしか知らないので、それで気になったんですよね。今までに、何人か、松前に行ってほしいと言われて、お連れしたことがあったのですが、どうも、こちらに戻ってきた様子がないんですよ」

 というのだ。

「やはり、外人というところが引っかかるのかな?」

 というと、

「それはもう、そうですよ。お隣の朝鮮や、明国の人だって、何か信用できないところがあるくらいですからね」

 と船頭はいう。

「まあ、いきなり何かあるとは思えんが、忠告を得ておいて損はないだろう。せいぜい気を付けることにしよう。ご忠告、あい分かった」

 と、重光はいうのだった。

 翌日、船で渡ったのだが、想像以上に船というものは揺れるもので、どれくらいの時間がかかったのかというのも、意識にない。とにかく、船酔いをしないように意識をしっかり持っていようと思っていると、何とかなるもので、気づいたら、蝦夷地についていたのだ。

 そんな重光の様子を見て、

「旦那だったら、大丈夫そうな気がする。ですが、お気をつけなすってくださいよ」

 と、船頭がいうので、

「いや、ありがとう。恩に着ます」

 と重光と数名の重臣は、船を降りて、港から、函館の街を見た。

 そこは、

「本当にこれが、日本なのか?」

 と思うほどの佇まいで、異様な雰囲気を醸し出していた。

 というのも、木造中心の日本家屋とは違って、白い土の壁の建物が多く、武家屋敷のような、日本庭園を持った家というのは、存在していない。少し歩いていくと、その先に、白い壁があり、その壁には、三角や四角の穴が開いたようになったものがいくつも存在した。

 よく見ると、そこに行くまでに、大きな堀が形成されていて、そこには、水が溜まっている。向こう側にいくには、いくつかの限られた橋を渡らなければならず、その箸も、向こう柄に垂直に立てられていて、何やら、仕掛けを使って、それを遅さなければ、橋が使えないようになっているようだ。そして、垂直になっている橋のせいでよく見えないが、その向こうは門になっているようで、その門の上にも、塀のような壁があり、さっきと同じような四角や三角の穴が開いているではないか。

「あの穴は一体何なのだろう?」

 と不思議に思うのだった。

 先ほどの門の向こうに、大きな櫓のようなものが見える。

 館のようなもので、それが、何重にも上に向かって積み重ねられている。数えてみると、誤断くらいあるようだ。瓦を使った屋根が階層を表しているのか、まるで、五重塔を横に広げて、屋敷にしたような佇まいだったのだ。

「それにしても、何と美しい櫓なんだ」

 と思って、思わず見つめていた。

 重光は、ゆっくり歩いて、門に近づくと、どこからか、馬に乗った武者が走ってきたのだ。

「そこのお方、しばし待たれい。我が城に何か、御用かな?」

 と聞かれたので、

「私は、三河の国の門脇上総守重光と申す者です。国元からの命令で、蝦夷地の函館というところに参るようにと下命を受けたのだが、こちらに、その書状が」

 と言って、馬の上の武者に手渡した。

 その男は、その場で、書状を読むと、

「これは失礼しました。お話は伺っております。どうぞ、こちらへ」

 と言って、重光一行を迎え入れてくれた。

 一行は、橋の手前のところまで行くと、馬に乗った武者が、脇に刺した刀を抜いて、橋の向こう側にいる人間に合図を送ったようだ。

 それを見た向こうの人間が橋をゆっくり立てかけてあるものを、こちらに向かって降ろしてるようだ。

「ギシギシ」

 という音が聞こえてきて。ゆっくりと降りてくる橋を見て、

「何という、カラクリなんだ」

 と、重光と、頼経は感心していた。

 特に、設計関係に精通している頼経の目は、そのからくりをとらえて離さない。

 数十秒かかって、橋が降ろされ、ちょうどいい距離のところに、橋が降り立った。この時代くらいになってくると、日本本土でも、それまでの山城から、平地に城を構える部署も出てきて、そこを館も兼ねてから、根拠地とする大名も増えてきた。

 そのため、支城といy形での櫓をあちこちに建設し、いわゆる、守りのかなめにしているのであった。もちろん、戦闘用のところもあれば、物見やぐらというものもある。それぞれに機能を分散した形の城となっているのだった。

 門が開いて、中に入ると、さらに驚かされた、門の中にも、屋敷が広がっていて、その屋敷の向こうに、また、塀がめぐらされている。

「これは一体、どういう仕掛けなんだ?」

 と、重光も頼経も自分が何に驚いているのか、最初は分からなあった。

 その壮大な広さなのか、それとも、厳重に張り巡らされた堅固なイメージなのか、ただ、じっと見ていると、錯覚を起こしそうになるのを感じて、その錯覚こそが恐ろしさの秘密なのだということを、重光には分からなかったが、さすが設計を得意とするだけあって、頼経には分かっていたのだった。

 それだけに、重光よりも、頼経の驚きの方が激しいのだが、それを見ていた案内人の武者には、二人が感じていることの違いが横から見ていて分かったようだ。

 そして、頼経は、

「これは素晴らしい」

 と、一言言って、納得したような顔になったことで、隣の重光も我に返ったかのように、案内人の男を見返した。

 その表情からは、驚きの雰囲気はだいぶ消えていた。それを見た案内人の武者は、

――この男、どうやら、肝は据わっているようだな――

 と感じたのだった。

「ここは、櫓なのか? それとも城なのか? それとも、館なのか?」

 と、重光が言うと、

「私には、そのすべてが凝縮されたものではないかと思えてきました。これからの世の中は、このような形の要塞のようなものが、わが国にもどんどんできてくるのではないかと思えてきましたよ」

 と頼経が言った。

「なるほど、私は、最初櫓なのではないかと思ったあの正面の建物だが、門の中に入ってから見ると、まだ、それほど大きく見えてこない。ということは、あの建物は、想像以上に遠くの方にあるということで、だとすると、大きさは想像をはるかに超える、半端ではないものなのではないのだろうか?」

 と重光がいうと、

「ええ、その通りです。殿も思われたと思いますが、門から入ってきた時、自分の目がどうかしてしまったのではないか? とお考えになりませんでしたか? たぶん、足が進まなかったのは、その感覚を納得できなかったから、そこから動けなかったんですよね? つまり、動けなかったのではなく、動かなかったといって方が正解なのかも知れませんね」

 と、頼経がいった。

「うむ、その通りだ。さすが、設計や縄張りに関して得意としている頼経らしい解釈だ。お前にそういわれると、私も、自分の感じていたことに、確信が持てるようで、嬉しいぞ」

 と、重光は言った。

「それにしても、あの中央に聳えるあの建物は何なのだろうか? 何か、宗教的な意味合いがあるのだろうか?」

 と、重光が、今度は、案内人に聞いた。

「先ほどの、こちらの方が言われたことが正解で、ここは、櫓も、城も、館も兼ねた、一種の複合施設のようなものだと思っていただいて結構だと思います。そして、ここだけで、一つの街が形成されていて、大きな要塞ともなっているんですよ。だから、ここには大小でかなりの建物が存在します。今でも少しずつ増えているので、その数を正確には把握できていないほどですよ」

 ということだった。

「目の前の屋敷は、あれは、家臣の屋敷となるのかな?」

 と言われた案内人は、

「ええ、その通りでございます。目の前にありますのは、家臣の屋敷になっていて、ここを守る砦の役目もしていますが、その奥には畑もあって、ここで、自給自足もできるようになっています」

 というのだった。

「なるほど、要塞の中に、家臣お屋敷を入れるというのは、便利なこともあるのだろうか?」

 と聞かれて、

「ええ、家臣と言っても、何かあった時に、すぐに駆け付けることができるということと、もう一つは。全体を一つにしておくと、それぞれに、監視にもなって、謀反を起こそうとするものがいれば、監視しているものもいるので、すぐに分かります。表に理由がないと出れないようになっているので、外との連絡も取れないので、武器弾薬を手に入れることもできません」

 という。

「なるほど、日本本土では、下剋上などという、謀反が流行ってきているので、ここでは、その下剋上対策もしっかりされているということですね?」

 と聞くと、

「ええ、そうです。たぶん、この函館というところは、これから日本本土が歩むであろう。数十年後の未来だと思っていただいても、いいのではないかと思います」

 と言った。

「じゃあ、本土でも、これと同じような建物がどんどんできてくるということでしょうか?」

 と聞くと、

「ええ、その通りです。本土や都にも、外人が、少しずつ増えてきているのではないですか? そして彼らの話を聞いて、いろいろ動く大名も多くなってくるはずです。本土では、どこの外国人が多いですか?」

 と聞かれて、

「朝鮮人、明国の人間は多いですね。最近は、スペインという国と、イギリスという国の民が都にはいて、朝廷や公家に接近しているようです」

 というと、

「朝廷にですか。なるほど」

 と彼がいうので、

「何か?」

 と聞くと、

「武家ではなく、朝廷だということに少しびっくりしましたが、なるほど、そういうことであれば、室町幕府も、そう長くはないですね」

 というではないか。

「その理由は?」

 と聞くと、

「我が主にお伺いくださいませ」

 というだけだった。

 重光と、頼経は、しっかりと城郭を見ながら、お互いに自分の考えていることを反芻しているようだった。

「ところで、あの中央に聳えている、あの大きな建物は何ですか? まるで、五重塔のように見えるので、宗教がらみかなにかですか?」

 と言われた。

「ああ、あれは天守閣というものです」

 と言われ、

「天守閣? それは何ですか?」

 と聞き返すと、

「まあ、ハッキリといえば、君主が家臣に対してその権威を示すための建物です。もちろん、戦になると、あそこに籠城するということもありますが、住居となる屋敷は別にあります」

 というではないか。

「天守閣というものですね? 確かにあれだと、遠くから見ると、錯覚してしまいそうな感じですよね。遠くなのか、近くなのか、一瞬では見分けがつかないような感じですね」

 というと、

「そうなんですよ、それも狙いです。実際に敵に攻め込まれた時、いかに防御するかというのが、城の真骨頂になるんですよ。天守閣が落ちれば、城は終わりですので、そこに行くまでに、どれだけ防御ができるかというのが問題なんです。これから天守閣の手前えの館までご案内するわけですが、城の防御についても、説明してまいりましょう」

 というので、

「そんな極秘事項のようなことを我々に教えていいのですか?」

 というと、相手は笑いながら、

「大丈夫ですよ、そんなに簡単に落ちるところではありません。たぶん、皆さんはお城というと、櫓であったり、砦のようなものを想像されるでしょう? 館までの防御のために、とにかく数をたくさん作って、そこで侵入してくる連中を撃滅するというものですね。でも、今は城というと、もっと計画的に作るもので、一つの城だけで、守りも攻撃も完璧にしておくことが求められます。城というのは、守るよりも、攻める方がよほど難しいんですよ」

 というのだった。

「例えば、この城の周りは、たくさんの水を張った堀で守られています。あなたがたは、正門から入ってきたので分からないかも知れませんが、この裏は、実は、断崖絶壁になっていて、天然の守りの要塞になっているんです。だから、あちらからは守る日露はないですよね。だから、守りを他に持っていける。そして、近くには大きな川があるので、そこから水を引いてきて、そこにお濠を作るわけです。本土の方でもお濠はあると思いますが、あちらは山城が多いでしょうから、水を引かずとも、狭い谷にしてしまうと、戦線は伸びきることで、上から一斉攻撃ができる。そのやり方は、もし敵に門を破られて、場内に進入された時の守りの一部になっています。まずは、敵が入ってこないように、堀を張り巡らせておいて、そこに、石垣を築きます。これが、城の外の基本です。しかも、橋を折り畳み式にしておけば、橋から大人数の兵が押し寄せてくることはないわけです」

 と説明してくれた。

「じゃあ、さっきの、あの橋が門に寄りかかっていたのは?」

「ええ、あれこそ、西洋の城によくあると言われる、折り畳み式の橋なんですよ」

 というではないか。

 彼は、さらに続ける。

「城というのは、天守閣に辿り着くためには、いくつもの関門があります。門を破られて、そこから兵が突っ込んできた時、そこから先にもいろいろ難関があります。その難関は、天守閣に辿り着くにつれて、次第に大きくなります。攻めている方は、これでもかという守る側の攻撃に、いい加減嫌気がさしてくるはずです。その間に、どんどん兵は減ってくる。減ってきた中で突き進んでいくと、相手は、いつ自分がやられるか分からないという不安に駆られるでしょう。下手をすると、途中で、指揮官が討たれるかも知れない、そうなると、もう兵はバラバラになる。それが狙いなんですよ。城というのが、要塞だと言われるのは、そのためです」

 というのだった。

 彼がどんどん城の中に進んでいく時に、

「どうして、こんなにグルグルと迷路のようになっているんですか?」

 と、今度は、頼経が聞いた。

 説明をしている方も、頼経の質問にニヤリと笑って、

「さすがですね。実は先ほどからの説明の中で、一番最初に言いたいのはそこなんです。相手の兵が入り込んできた時、真正面に天守閣が聳えていますよね? その天守閣を見た時、普通なら、一直線に行けると思って、先に進むと、道は正面にはなく、そこから少しそれたところに向かう、すると、そこには、一つの門があり、そこを突破すると、今度は、また反対に曲がりくねって、横にそれる道に向かう。そして、また門がある。それを繰り返していると、今度は、また門があって、その門を超えると、道が、天守閣に向かってまっすぐに伸びているところがあり、相手は、それを見て、天守閣が近いと思うんですよね。でも、実際はその道は欺くための道で、そこは行き位どまりになっていて、足元の穴が開いて、そこには、針が突き刺さるようになっているので、そこに落ちると、皆串刺しになるというわけです。考えただけでも恐ろしいでしょう?」

 という話だったが、二人とも話を聞いただけで、ゾッとしてしまった。

「ところで、一つきになっていたのがあるのですが、門のところや櫓のようなところに、三角や四角に開いた穴があったのですが、あれは何ですか?」

 と聞いてきた。

「ああ、あれですか? あれは鉄砲というものに使うものです」

 というではないか。

「鉄砲? それは何ですか?」

 と聞くと、

「後で私の主人の方から話があると思います。とにかく、遠くからでも、相手を狙って、一気に殲滅できる新兵器とでも言っておきましょう」

 と言って、ほくそ笑むのだった。

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