第2話 暗殺かも…?

 日時を指定して、広場に人を集める。知ってる顔もいくつかあり、そいつらは面白そうにニヤニヤ笑っている。

 どうやら俺が真面目な恰好をしているのが珍しいようだ。


 領主が領主らしくして一体何が面白いってんだ!


 どうにかこうにか手品をはさんで笑いをはさめてから、俺は集まった領民たちに演説した。

 短時間ではあるが、毎日広場で話していると、とっつきやすいからか、生活の不便なところや領地の改善してほしいところなんかを話してくれるやつらもいる。


 一週間ほどたったろうか、広場の中に見ない顔が混じるようになった。

 必死に何かをメモっては俺を睨みつけている。

 領主邸に戻る時もずっとついてくるときは、さすがに恐ろしかった。

 まさか暗殺か……!? そういえば、と連想される死亡フラグが頭の中でつながっていく。漠然とした不安が頭に大きくのしかかって眠れなくなった。


 仕方なく窓を開けると、弱々しい家々の明かりが街全体に散らばっていた。


 この光の一つ一つは、昔に兄弟に責任を押し付け捨てた領民たちだったかもしれない。


「ユージーンさま」


 声に振り向くと、闇に紛れるような黒装束の男が俺を見据えていた。


 ……っこっわ……。

 飛び跳ねそうな心臓を抑え込む。


「なんだ?」

「怪しい者を捕まえました」


 怪しいのは!!! お前だよ!!!!


 未だ情勢が不安なこの領地、他人に甘えられる時は甘えておこう。そんな気持ちで家族に色々と相談していたのだが、他国の貴族ということもあって何故かわがまま王女さまも家族会議に参加している。


 だから、この男の所属が実家側か王家側なのかいまいちよく分からない。

 弱みをみせない方がいいだろう。


「どんなやつだ?」

「屋敷の周りをうろついて、外に出たユージーンさまの後や使用人たちの後をつけていました。監視していたところ、屋敷に忍び込もうとしていたので捕縛しました」


 男が少し血のにじんだ袋を俺のそばに投げ渡した。

 床に叩きつけられ、にぶい音が響く。


「少々尋問をしました」


 少々の尋問で、床に投げ捨てられても声が出ないレベルに……?

 袋の口を急いで開けると、ボロボロの青年が目を泳がせていた。ところどころ出血し、いたるところにアザがある。


「……」


 俺を見て口を開け、何かを伝えようとする青年の姿にいつしか警戒心は消えてしまった。


 どこか見覚えのある顔に記憶をさかのぼる。彼は民衆の中で広場で必死に何かを書きとっていたやつだった。

 その時はこんなにズタボロになっていなかったから、顔を思い出すのに時間がかかってしまった。


「どうしますか?」


 これ以上なんかすんの!?

 部屋の暗がりの中からそう声を掛けられて、恐怖を表に出さないので精一杯だ。


 男の言葉に、青年はぶるぶると震えている。相当ひどい目にあったのだろう。


「誰か使用人を呼んできてくれ、治療が終わりしだい彼から話を聞くことにする」


 男が姿を消して、青年はほっと息を吐いて目を閉じた。

 やってきた使用人たちに、状況を説明することを考えると頭が痛くなってきた。

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