07 大学の合格発表の日



 母と父が行方不明になってから4週間が経った今日。

 その期間中に明人の一般入試の全日程も終わり、あとは結果を待つだけとなった。

 佳奈の方の結果発表が先日に公開され、見事に明人の通っている高校に合格し、入学することが決まった。

 だが、そんな祝うべき日にも連絡がつかず、一緒に喜んでくれるハズの2人がいない。


 その日、兄妹は社会から孤立してしまったような気分になった。


 日に日に元気が無くなっていく佳奈。

 最近では頻繁に母の職場まで行って「母さんがいるかもしれない」「実はサプライズでなにか準備をしているのかも」と、母親の影を探しているみたいだ。

 一緒に笑ってくれない。

 喜んでくれない。

 努力をしたのに褒めてくれない。


 最も多感な時期に親がいない。

 明人が思っている以上に佳奈への負担は大きい。


「帰ってこいよ……くそ」


 小さく呟いた、普段吐かない親への暴言。


「あっ、兄さん! 今日が大学の合格発表だよね?」


「……」


「兄さん?」


「……え?」


 いつの間にか横に座っていた佳奈に気づかず、自分が呆けていたことにようやく気が付いた。


「……あぁ。そうだよ佳奈。大学まで行かないといけないんだ」


 微笑んだあと、明人は目頭を抑えて顔をそらす。

 自分が心配かけてどうする、と自責の念に駆られた。長男らしく、妹を導いてやれと父親に言われてきたのだ。

 

(この状況でぼくまで腐ったらダメだ)


 だって、妹に今残っている家族は自分だけなんだから。

 さっきの呟いた言葉が聞かれてないかと佳奈の顔色を伺うが、大丈夫な様子で安心したようで小さな息を零した。


「兄さん……大丈夫?」


「う、うん。大丈夫だよ、心配かけてごめんね」


 合格発表は学校で聞くか、現地に行って自分の目で確かめるかのどっちかだ。明人は自分で見て確認していたかったから大学まで行く気でいた。

 受験した大学までは最寄りのバス停からバスが出ている。それに乗っていけば直ぐに行くことが出来る。


「時間は……あぁ、もうこんな時間か。そろそろ出ないとだから行ってくるよ」


 佳奈の言葉を聞いて、時間を確認すると合格発表予定時刻の40分前だということに気が付いた。

 今ほどの時間に家を出れば、丁度張り出されている頃だろう。

 そうして椅子から腰を上げようとした所、袖が引っ張られたのを感じた。


「? どうしたの――」


「に、兄さん! 私も行っていい……かな。いやなら、無理にとは言わないんだけど……」


 俯いたままそう言った。佳奈なりに何か思いがあるのだろう。

 どの道、明人が拒否をするわけがない。


「いやじゃないよ。一緒に行こうか」


「……! うん!」


「絶対混んでるからICカード忘れないでね」


「分かってる!」


 合格発表の番号を見に行くだけだ、カードと自分の受験番号がわかる何かがあればいい。

 佳奈が部屋に入って準備を始めるのを見て、スマートフォンの写真フォルダーに入っている自分の受験番号『1547』を確認した。



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