奇抜な設定から繰り出される完璧な起承転結!

どんなコミュニティにも「姫」と呼ばれるポジションは発生しうる。趣味のサークルであれ、教室であれ、職場であれ、人間関係が構築されるあらゆる空間は「姫」が芽生える土壌となるのだ。そして本作はその舞台に老人ホームを持ってくるのだからすごい。

いや、でも、確かにチャーミングなお婆ちゃんとかいるもんね、お婆ちゃんの「姫」がいたっていいもんね! と思ったら、この老人ホームにいるのはほぼ男性のみ。そして本作で「姫」となる優希(78)は男なのだ。お爺ちゃんである優希(僕っ子)が可愛さを追求し、その可愛さに周りのお爺ちゃんたちが籠絡されていく……。何食ったらこんなもん考え付くんでしょうね。

この優希(アラエイ)の老人ホームでの立ち回りや入居者のバックボーンを詳細に描き、老人ホームでお爺ちゃんが「姫」として君臨するという、奇抜すぎる設定に説得力を持たせる筆力が凄い。だが、本作でそれ以上に注目すべきが起承転結の作り方なのだ。

優希(姫)が新規入居者の旭(72)に目をつけて、なかなかなびかない旭を色々アピールして落とそうとするのだが、中盤で意外過ぎる真実が明らかになると物語は誰もが予測不可能な展開へと猛スピードで転げ落ちていく。そして全くの予想外の展開が繰り広げられながらも、本作はラストで完璧な着地を決めてみせるのだ!

設定だけでもぶっ飛んだ作品だが、出オチで終わらずにストーリーの力で設定のインパクトを上回っていく色んな意味で常軌を逸した小説だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)

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