2.収入問題と、弟子入り志願。







「……たっちゃん、それどうしたの」

「ん、骨が折れてた」

「いや、そうじゃなくて何の勉強してるの?」

「………………」




 とりあえず、毎日配信というのはいったん諦めて。

 涼子は平日の昼下がりにやってくると、キョトンとした表情でそう言った。テーブルに広げられているのは、様々な分厚い参考書に、ノートの類。

 俺は物凄く声量を絞って、こう答えた。



「……資格の勉強」

「えぇ、資格!? どうして急に!」



 すると当然、従兄妹は目を丸くする。

 予想通り過ぎる反応に、俺は深くため息をついて言った。



「いや、ハロワに行ったら『ひとまず怪我が治るまで、別のことをしましょう』って諭されてさ。帰りに本屋寄って、取れそうなやつ探してきた」

「へぇ……」



 こちらの説明に、涼子は感心したように参考書のページをめくる。

 そして数秒、目を通しただけで渋い表情を浮かべた。



「……無理。アタシには、無理」

「そうだろうな」

「むぅ! いま、馬鹿にしたね!?」

「いや、実際のところ馬鹿だろ」



 彼女の言葉に、俺は即座に同意する。

 食って掛かってきたが、しかし実際問題で涼子の学業成績は悪いのだ。俺もお世辞に良いとは言えないが、これでも一応は大卒。学歴がすべてではないが、歴史のテストで『過去は振り返りません』と、名前の記入欄に書いた奴とは一緒にされたくなかった。

 そんなこんなだから、俺はまたため息をついて続ける。



「次の仕事を見つけるまで、何かしら身につけないとな」

「何かしら、って……?」

「そりゃ……金を稼ぐ手段とか、技術とか?」

「……え、だったらさ――」



 すると、涼子はキョトンとしながら口にした。





「収益化、すればいいんじゃない?」





 ――しばしの沈黙。

 今度は俺が、キョトンとして彼女を見る。

 涼子はそんなこちらを見ながら、小首を傾げて言うのだった。



「だから、動画とか配信の収益化だよ。登録者数も十分だし、アーカイブの再生回数も大丈夫になってると思うよ?」――と。



 ……なんですと?

 俺はそんな彼女の言葉を聞いて、即座に自身の配信チャンネルを確認した。

 するとチャンネル登録者数はいつの間にか三万人を超え、再生回数もうなぎ上りになっていることに気付く。たしかにこれなら、サイトの設定している収益化基準はクリアしているだろう。それはとても喜ばしいことだった。

 しかし、馬鹿にしていた涼子に指摘された、という事実に俺はうな垂れる。



「馬鹿(りょうこ)に、教えられるなんて……!」

「気のせいかもしれないけどさ、とても失礼なルビ振ってない?」



 こちらの言葉に、どこか冷めた眼差しを送る従兄妹。

 しかし彼女はすぐに気持ちを切り替えて、こう提案するのだった。



「せっかくだし、トゥイッターアカウントも作ろうよ! チャンネルの!」

「あ、いわゆる公式アカウント、ってやつか?」

「そうそう! 配信の告知とかできるし!」



 なるほど、それは妙案だ。

 そんなわけで、俺たちはさっそくアカウントを取得。そのことを配信チャンネルで告知し、それらを連携すると――。



「うおお、なんだこれ!?」

「すごいね! 通知音がずっと鳴ってる!」



 ――それから小一時間、スマホから通知音が鳴りやまなかった。

 そして、リスナーからのリプが届く。



『待ってました!』

『おせぇよ、たっちゃん!』

『これで布教もしやすくなるかも』



 それらはどれも温かいものばかり。

 そう思っていたが、一部には過激なものもあって……。



『ミス・アルビレオの方が強い』

『アルビレオに勝ったと思うな』



 何故か、その『アルビレオ』という配信者と比較されていた。

 理由は分からないが、ひとまずミュートワードに設定しておこうか。そう考えていると、家のチャイムを鳴らす音が聞こえたのだった。

 俺と涼子が顔を見合わせ、ひとまず玄関に向かうと――。



「あ、キミは……」

「たっちゃん、お願いがあります!!」




 立っていたのは市街地で会った少年。

 綺麗な金髪に、左右で色の違う瞳。容姿端麗な彼は、俺を見ると明るい笑顔を浮かべながら頭を下げて、こう言うのだった。




「僕、白鳥玲音、といいます! 僕を――」




 しっかりとした、意思のある声で。




「僕を弟子にしてください!!」――と。




 

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