第36話 強襲

「グリム……さん?」


 うちのクラスにこんな子いたかな?


 銀髪ツインテールに、小学生みたいな容姿……この特徴の塊みたいな子がクラスにいたら、確実に覚えてると思うんだけど。


「……さんはいらない。あと、敬語も」


「あ、だったら……グリム?」


「……もっと親しげに」


「えっ!? じゃ、じゃあ、グーちゃんとか……?」


「……卑しい雌豚と言ってほしい」


「そこのどこに親しげな要素があるの!?」


 うーん、独特なペースの子だ。


「グリムさん? えっと、貴女は……」


「……気軽に話しかけるな」


 そう言いながら、手を突き出すようにし、先生の顔を指さすグリム。


「……雌犬が。校長に尻尾でも振ってろ」


「グ、グリム!? さすがにそれは……」


 怒られじゃすまないと思い、なんとかフォローをしようと先生を見る。


「ワンワーン! 校長~! 私、学校と貴方の為に、今日も頑張ってるワーン♪」


「せ、先生!?」


 先生は舌を出しながら、その……なんていうか、倫理的に相当ヤバいポーズをしている先生。


 なんとかやめさせようと近づく私に……


「と、とりあえず、そのポーズやめましょう、先生? ね? ね?」


「……先手必勝」


 グリムから、紅い閃光が放たれた。


「……くっ!?」


 キィィィン! という音と共に、紅い光が頬をかすめる。


「……お見事」


 頬から流れる血。


 反射的にアポカリプスで軌道を逸らしつつ避けたが、それでもかわしきれなかった。


 アオイさんのマジックアローを遥かに上回る、一瞬の閃光のような超高速の光線を放つ魔法。


 その速度ゆえに、アポカリプスによる軌道変更が完了する前に私を攻撃できてしまうのだろう。


(……少しでも遅れていたら、頭に穴が開いていたかもしれない)


『戦い』を仕掛けてきているグリムを前に、頭を切り替える。


 止めてくれそうな先生は未だに例のポーズ、ここで叫んでアオイさんを呼ぶこともできるが、グリムの出方が分からないので、自分でなんとかするしかない。


 下手に刺激して、クラスメイトを人質に取ってきたら最後だ。


「……ブラッディレイ」


 またしても、あの紅い閃光を放ってくるグリム。


「アポカリプス!」


 アポカリプスを多重展開し、今度は完全に赤い閃光を逸らす。


 やはり、複数のアポカリプスで防御すればなんとかなる!


「グリム。その魔法は、私には通用しないよ。だから、これで手打ちにしない?」


 私の言葉に俯くグリム。


 このまま、戦いをやめてくれるかと思ったが……


「……魔力を溜める時間をくれてありがとう」


 ……完全に失策だった。


「……サーヴァント、ブラッディバッド」


 両手を広げ、周辺に魔力を放つグリム。


 魔力は徐々に赤い蝙蝠の姿になっていき、その数はどんどん増えていく。


「この蝙蝠って……まさかヴラドの!?」


「「「……ブラッディレイ」」」


 グリムと、10を超える蝙蝠が同時に放つ紅い閃光。


 この数を捌くのは無理……だったら!


「アポカリプス、グラビティフィールド!」


 アオイさん命名の、今回は比較的、厨二要素を抑えた魔法名で気合を入れつつ、全てのアポカリプスで重力場を形成。


 閃光による多段攻撃は、はっきり言って防御不能だが、入ってくるものを空間ごと捻じ曲げ、同時に弾くグラビティフィールドは例外だ。


 弾かれた赤い閃光が地面を焼く、ジィィィイイイ! という音が響く。


 そして私は、その音を合図にするかのように、アポカリプスの高速移動でグリムへと突進する。


(……少しでも時間を与えるのは危険! ここで決める!)


 そう思い、渾身の突きを放とうとする私に……


「……え?」


 上から、とてつもない力を秘めた、『何か』に攻撃される。


 やられたと思ったその瞬間に、キィィィン! という音と共に、自動でヤサクニが発動し、魔王モードになる私。


 そして、魔王モードになると勝手に発動する、グラビティフィールドに近い性質のバリアがその『何か』を弾く。


 そして、そのまま突きを放つが……


「……降参。痛いのは嫌いじゃないけど、死ぬのは嫌」


 グリムが、両手を上げて、降参のポーズをしていたから、寸前で止めた。


 ――グオォォォォオオ! という音と共に、遅れて発生した、超高速による衝撃波が辺りを蹂躙し、私たちの周りを粉塵が覆う。


 視界が悪くなるが、それでも私はグリムから絶対に目を離さず話し出す。


「……あなたは誰なの?」


「……全部話す。だから、ヤサクニ外して?」


「私、敵の前で武装解除する程、馬鹿じゃないよ?」


 そう言いながら、アポカリプスをまとった拳を少しだけ近づける。


「……なら好きにして。グリムは忠告した」


「忠告って、一体何が狙い……」


 そう言いながらグリムに詰め寄ろうとした瞬間に……


「何かあったんですか~!」


「粉塵で良く見えな……え?」


 騒ぎに気付いたであろう、クラスメイトたちが集まって、こっちを見ていた。


『露出があまりにも多いヤサクニをまとうだけでなく、戦闘によって若干はだけた状態の私』を。


「あれって……女の人?」


「粉塵でよく見えないけど、とんでもない恰好してる! もしかして、痴女!?」


「せ、先生~! グラウンドに痴女が~!」


「……だから言ったのに」


 そんなグリムの言葉を聞きながら……


「み、見ないでぇぇぇぇ~!」


 ヤサクニによって強化された、巨大アポカリプスをグラウンドに叩きつけた。

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