第41話 元会長がやってきた!

 「それでね、和馬。桃花が宿題やってこなかった私に、答えを見せてくれなかったのよ。意地悪よね」


 「ああ。なんて意地悪な奴なんだ。おっぱいでも引っ叩いてやれ」


 「嫌よ。私が虚しくなるだけだわ」


 そか。陽菜と桃花ちゃんのを比べたらそうなるのも無理はないか。


 お前、四捨五入したらゼロだもんな。言ったら殺されるから言わないけど。


 「和馬、今失礼なこと考えなかった?」


 「まさか。でも俺は陽菜の真っ平な胸も好きだよ」


 「首絞めるわね♡」


 どうしてだい、マイハニー。


 天気は曇り。梅雨の時期ということもあってか、最近は雨や曇りの日が多いため少し肌寒い。


 まぁ、肌寒い程度ならば着込めば体温調整はばっちりだ。外出の際に、上に羽織るものを持ってけばよい。


 え? 上着を持ってきていないときはどうすればいい?


 安心してくれ。そういうときは愛しの彼女と抱き合えばいい。互いに温め合うのだ。今の俺がそれである。


 陽菜からフロントチョーク食らってるけど、四捨五入したらこれもハグみたいなものだから。


 「あの、生徒会室でイチャつかないでくれません?」


 と、俺らのやり取りを傍で見ていたのは、生徒会副会長の佐藤 佳奈ちゃんだ。


 今日も今日とて覚えたての薄化粧でオシャレしている彼女は、相変わらず俺に対して不機嫌さを崩さない。


 それもそのはず、こいつは俺の補佐役として元生徒会長の西園寺さんに、副会長をやるよう命じられたのだから。


 俺もこいつは好きじゃない。だってこいつのせいでヤリチンクソクズ野郎という異名が付けられたのだから。


 「イチャついているように見える? 俺、今、彼女からフロントチョーク食らってるんだけど」


 「なに言ってんのよ、こんなのハグの一種でしょ」


 「ハグで意識遠のいてきた」


 「幸せな気持ちで満たされたのね、きっと」


 俺がタップすると、陽菜はあっさりと解放してくれた。


 まぁ、ここ、生徒会室だもんな。畑の上とかだったら陽菜も容赦なく絞め殺してくることだっただろう。


 この場には俺と陽菜、副会長の他に人はいない。他の役員は招集してないから来ていないのだ。


 「はぁ。なんでこんなのが生徒会長なんだろ」


 「失礼な。風紀を乱していること以外はまともに活動しているつもりだぞ」


 「風紀乱してるのが駄目なんですよ」


 とまぁ、副会長のツッコミはさておき、どうして俺がここに居るのかというと、副会長に呼ばれたからだ。


 それも某SNSで、端的に。


 送られてきたメッセージはこう。


 [本日放課後集合]


 一瞬、漢字ばっかだから中国人からダイレクトメッセージが来たかと思ったわ。できるだけ俺との会話を最小限にしたい感がぱないのなんの。


 だからこう返してやった。


 [集合場所はどこのホテル?]


 以降、副会長から返事は無かった。ざまぁみやがれ。


 「で、なんで生徒会長だけ呼んだの? 他の役員は? まさか告白? 言っとくけど、俺、彼女募集してないよ。陽菜いるの知ってるよね」


 「和馬に色目使ってんじゃないわよ、泥棒猫が」


 「どうしましょ、好意なんて微塵も抱いてないのに、女性としての尊厳が踏み躙られました」


 副会長イジるの超楽しい。


 彼女は溜息を吐いてから本題を割り出した。


 「今月末、何があるかわかりますか?」


 「副会長の誕生日?」


 「ポイント五倍デー」


 「球技大会ッ!! てか、なんで私の誕生日教えてもないのに知っているんですか。気持ち悪い」


 気持ち悪いは失礼だろ。謝れ。


 生徒会長として、在学する女子生徒の名前と誕生日、住所を把握してるんだよ。


 謝るのは俺の方か。


 「あら? 三十日はポイント十倍デーだったかしら?」


 「陽菜、一旦、スーパーのことは置いておこうか。お前が家計を気にする良妻ってことは、俺が一番知ってるから」


 「今月末、球技大会があります。それも丸一日。既に去年、一昨年と体験されてるでしょうから、ある程度わかっていると思いますが、今年も生徒会主催です」


 などと、副会長は俺と陽菜のやり取りを無視して、本題を無理矢理突き付けてきた。


 球技大会。その名の通り、我が校の生徒たちが色々な種目の球技で競い合う大会のことだ。


 例として、サッカー、テニス、卓球、バレーボール、バスケなどある。


 文化祭、体育祭同様、学年関係なく、皆で一緒に楽しむイベントだ。


 無論、三年生の俺は、この毎年恒例の行事を二回体験している。


 「私は去年、バドミントンをやったわ」


 「俺は一昨年バスケとバレーをやったな。去年はサッカーとドッジボール、ハンドボールもやったけ」


 「去年、あんたの競技と試合時間かぶってたから観れなかったのよね。色々とやっていたんだ」


 「ああ、ほとんどの種目、準決勝くらいから何故か呼ばれるんだよ、俺」


 「なに、あんた球技得意なの?」


 「うーん、どうだろ。普通だと思う」


 と俺が曖昧な返事をすると、副会長から呆れ混じりの言葉が入った。


 「高橋さん、あなた帰宅部ですよね?」


 「え、うん」


 「なぜ参加されたバスケではダンクシュートを?」


 「できるからだけど」


 「なぜバレーではジャンプサーブを?」


 「できるからだけど」


 「なぜサッカーではファ〇アトルネードを?」


 「できるからだけど」


 「できすぎです。普通できませんよ。最後のとか人間やめてるじゃないですか」


 失礼な。


 まぁ、最後のはさすがに冗談だ。


 実際はドリブル中に転びそうになった俺が、片足を軸に何回か回転した後に打ったシュートが偶々ゴールしたにすぎない。あれ、マジで奇跡だよ。


 あの後、数日間、クラスメイトから豪〇寺って呼ばれてた記憶は今でも残っている。


 「高橋さんって本当に無駄にスペック高いですよね」


 「へへ。ベッドの上の運動会も激しいぜ」


 「殺しますよ」


 副会長の毒舌、今日もキレッキレだ。


 鋭利過ぎてセクハラのしがいがあるというもの。


 「で、その球技大会がどうしたのよ」


 と、話題を戻した陽菜が、興味なさげに副会長に問う。


 「さすがに色々と準備を始めないといけません。もう半月切ってますし」


 「ああ、なるほど」


 「あのですね、もっと責任持って、積極的に行動してくれませんか。あなた腐っても生徒会長でしょう?」


 「ご、ごめん」


 腐ってもって......。


 じゃあ今日は球技大会について話し合うために、俺を呼んだのか。だとしたら疑問を抱いてしまう。


 「ならなぜ他の役員が居ないのかしら?」


 陽菜が俺の疑問を代弁してくれた。


 そう、この生徒会室に居る役員は俺と副会長しかいない。話し合うってんなら他の役員も必要だろうに。


 「ああ、それはですね」


 と、副会長が言いかけたところで―――バンッ!!


 この部屋の扉がいきなり開かれた。


 生徒会室に入ってきたのは、黒髪ショートのスタイル抜群なお姉さん。その出るとこ出たプロポーションに加え、高身長、キリリとした美形を兼ね備えた姿は、女優さんかな、と思わせる佇まいだ。


 そう、その人は――。


 「やぁ、バイト君。ワタシが来たよ」


 「歩くおっぱ――じゃなくて、会長?!」


 「ふふ、相変わらずだね。あともう生徒会長じゃないから、私」


 西園寺 美咲さん―――前年度の生徒会長だ。

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