配信9 ニュース:偽剣注意! 詐欺集団を逮捕

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「いや~、パーティ《雷神の槍》のみなさん! ★4ダンジョン《郷愁の王墓》攻略おめでとうございまーす! 勇者指定されてないパーティも頑張ってるよね~~」

「……★4って、そこそこなんじゃないのか?」

「いやでも、ここずっと攻略されてなかったんだよ、バルが復活する前から!」

「ああ、そういうことか。難易度はそこそこだが攻略に手間取るような場所か」


「それにしても、ダンジョンってこうして攻略はされてるけど減らないよな~。いつの間にか増えてたりするし。なんで?」

「吾輩がいるから余計に増えている……のもあるだろうが、ダンジョンは基本的に増えるものだぞ」

「そんなワカメみたいな言い方するなよ」

「いまのはお前の方がひどい言い草だ」


「それにしても、《雷神の槍》って、リーダーの持つ槍からきてるパーティ名らしいんだけど、こういうことがあると槍とか売れるらしいよ」

「バカなのか?」

「ほら、強い武器を目の当たりにすると一回使ってみたくなるっていう」

「だからといってホイホイ武器を変えていたら、身につくものも身につかんだろうが」


「ただ、たまたま変えてみた武器が案外馴染んだってこともあるからなあ。それに最初はどうしてもナイフとか剣とか持つ人は多いし、いまは安価な剣もあるから」

「ふん。大量生産品というやつか」

「っていっても、やっぱり憧れのメーカー品っていうのはあるけど」

「あるのか、そんなもの……」

「魔剣作ってたり、個人用の武器を作ってるようなところはそうだと思うよ。魔剣もいまは魔力を流せる簡単な奴から、世界に一本しかないようなインテリジェンスソードまでいろいろだけど」


「ただ、そういう憧れにつけ込んだ人達が逮捕される事件が起きてんだよな」

「……そういう繋げ方をするのか」

「というわけで今日のニュースはこれ!」



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《「ラズ・ボーン」偽り販売か 詐欺集団を逮捕》


 コスタズ連合王国にて、武器工房「ラズ・ボーン」の偽物を販売したとして37歳のサーギュズ・ブーズ(人間・男)、ならびに仲間の男2人と女1人が逮捕されました。

 サーギュズ容疑者らは武器工房「ラズ・ボーン」の偽物の剣を、王都にある自らが経営する店で販売目的で所持した疑いがもたれています。正規品では3万ギル程度する剣におよそ5000ギルの価格をつけていて、偽物を販売目的で所持していたことを認めています。


 「ラズ・ボーン」は武器制作の老舗で、ドワーフである初代ラズ・ボーンが作った武器工房。当初から種族を問わず職人として受け容れることで有名で、冒険者なら誰もが一度は憧れるブランドでだ。その特徴は独自のロゴにあり、武器に彫ることで魔力を流す魔剣を作ることで有名。

 サーギュズ容疑者の店ではこのロゴを大衆向けの剣に不正に彫りこんだとみられ、以前より「魔力が籠められない」「偽物ではないか」などと冒険者から言われていた模様。魔王復活以後は購入者が増えたことでラズ・ボーン工房に直接苦情が寄せられたことで発覚。

 王国騎士団は、関係する場所でほかにもブランド品の偽物とみられる複数の武具や、ロゴなどを押収していて余罪や入手ルートなどを調べています。

+++――――――――――――――――――――+++



「武器の偽物って、コレクター用が主流だったけど」

「……剣という意味では別に偽物ではないと思うがな。せいぜいブランドのロゴ程度だろう?」

「ロゴとはいっても、魔力を籠められるかどうかに関係するものだからなあ」

「ふむ? それもそうか」

「人によっては火の剣が必要だったとか、それこそ雷の槍が必要だったみたいな事もありそうだし。それなら偽物って言われてもしょうがないんじゃない」

「魔剣だと言われたのにそうじゃないとか質が悪いとなればそうか」


「しかし、こういう店はどうせ怪しいとかきな臭いとかそういう噂が立っていたんだろう?」

「うん。まあね」

「それが摘発されたというだけの話ではないか」

「たぶん……、いまになって問題になったのは、たぶんバルが復活したからじゃないかな」

「は? 吾輩になんの関係がある?」

「直接関係があるわけじゃなくて。バルが復活したことで冒険者が増えたのもそうだけど、勇者候補……、っていうか、勇者の血を引いてたり、腕に覚えのある貴族の次男坊・三男坊みたいな人たちも冒険者になったから」

「……ああー。そういうことか?」


「こう言うとアレだけど、お金を貯めてなんとか装備を買った人たちって、泣き寝入りするしかないんだ」

「そうだろうな」

「買ったことでお金を使いきったって人がほとんどだろうし」

「どれだけ不便でも武器がなければな。武器としてダメ、というわけではないのだろうし」

「そのあたりは騙される側が悪いっていう考えも長らく浸透してたし」

「冒険者特有の思考だろうがな」


「でも、魔王が復活したことで最初からそこそこいい装備を買える人たちっていうのが出てきた。その中でも、『これだけ安く買えるなんて自分はなんて運が良いのだろう』みたいな人達がいた」

「実力はあるが目利きに欠けている、あるいはうまく騙されてしまった奴らか。そいつらは自分が思ったより賢くなくとも、泣き寝入りはしなかった、というわけだな」

「そりゃ装備をそろえる段階でお金は無くなったかもしれないけどさ。その辺の冒険者と違って、そこそこ身分が保障されてる人達が何人か訴えれば、そりゃー動かざるをえないじゃない。騎士団も」

「はっ。わかってみれば、なんともつまらん話だ」


「とはいえ購入者が増えたことで、『ラズ・ボーン』工房の方に直接文句言いに行く冒険者が増えたってのも確かにあるだろうな」

「なんだ、いままでの話を無駄にするような結論を出しおって」

「いやほら、だってこれまでは来ててもたぶん一人とか二人とかで、気にしてなかったんじゃない……?」

「工房の方も自分たちの価値が下がりそうとなればそれは動くか」

「そうそう」


「バルが覚えてる限りではこういう詐欺商法って無かった?」

「無論あったぞ。勇者の剣を騙ったり、ミスリルと偽って装飾用の銀剣を売るというのが主流だった」

「あ~~、勇者の剣! なんかけっこうそれって色んな地域に残ってるよね!?」

「勇者がそれだけいる、という事実でもあるがな」

「たまに、どっかの貴族の家で保管されてる『勇者の剣』が鑑定の結果、偽物だったとかたまにある」

「あるな。というか吾輩の報告にもあがってるんだが」


「この間……、あのー、パーティ名は言わないけど、ある冒険者が……」

「勇者の剣を持ってダンジョンに入ったら即刻壊れてパーティが壊滅したというやつか?」

「あれ、もう実害出てる時点でヤバくない?」

「……そもそも、本来の『勇者の武器』のことなら、残るものではないからな」

「えっ、そうなの!?」

「本来の『勇者の武器』とは、この世界でただ一人が出現させられるもの。事が終われば消える」

「それ詳しく聞かせてくんない? というかいまの発現でだいぶいまこの世界にある『勇者の剣』の存在が危うくなってない!?」

「そうでもないだろう。事実、それまで使っていた剣があるのなら間違いなく勇者の剣だしな」

「あー!! また話をひっくり返す~~!」

「この話はここまでだ。お前たちへのヒントになってしまうからな」

「バルが魔王っぽい……」

「こんなことで魔王っぽさを感じるな!!」


「ちなみに聞くけど、ひとりひとり覚えてる?」

「覚えている」

「おお、本当? そのうち特集組もうか?」

「なぜ吾輩を倒した輩どもの話をせねばならんのだ!?」

「だって魔王はバル一人だからなあ……。魔王の弱点とか話してくれる?」

「誰が話すか!!」


「というわけでここらでブレイク~」

「言っておくが、絶対勇者の話はしないからな!!」

「あははは!! それじゃあ今日も最後まで楽しんでいってね~」

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