配信6 速報:アウルベア逃走中!

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間まで……」


「というか、言ってる場合じゃなーい!! 速報だーー!! 緊急速報ー!!」

「じゃあ何故全部言おうとしたんだ」

「アーズの森で、逃げたアウルベアが潜伏してるらしいぞ。近隣の町に住む奴らは注意してくれ!」

「……ほお?」


「いま、クエストを受けた冒険者連中が探してる最中だからな。クマ以上に危険だぞ! 特に一般人とか絶対近づくなよ!!」

「それはフリというやつか?」

「そんなわけないだろ!!」


「えーと、落ち着いて言うと」

「改めて言うのか……」


「アンゼル共和国の南に位置するアーズの森にて、魔獣アウルベアが潜伏しているという話が飛び込んできました。アウルベアは体長3メートル近い中型種の魔獣で、顔はフクロウ、体はクマ。この昼行性と夜行性の合成獣という特徴から、昼夜問わず行動します。凶暴で知性はほとんど残っていませんが、繋いでおけば番犬としても機能するとのこと。

 このアウルベアは近隣に住む魔術師サーザス氏管理の使い魔で、サーザス氏が屋敷の番犬代わりに管理していたとのことです。厳しく躾けてはいたものの、近年、サーザス氏の魔力の衰えにより躾けに失敗。サーザス氏は返り討ちに遭い、現在アーズ近郊の病院にて治療を受けているとのことです」


「……なんだ、魔術師管理のアウルベアが逃げ出しただけではないか」

「逃げたって最初に言ったろ」

「まあ、言ったが……」


「しかし、魔術師が管理するアウルベアとは、また……。いまどき珍しいな」

「えっ、珍しいの?」

「お前はそうでもないのか」

「いや冒険とか無縁だから実際のところはよくわかんない」

「お前、それでよく吾輩と配信しようとか思えたな!?」

「それはそれ、これはこれ」

「……」


「それで、管理されてるアウルベアってなんか珍しいの? まあ相手は魔獣だから確かに魔物を飼ってるって思うとお前何してんねんって感じはあるけど」

「というか、どこから話したものか」

「そんな最初の話があるわけ?」

「……元々アウルベアは、魔法使いが使い魔として制作したものでな」

「えっ。人工生物ってこと? あのー、ほら。あの。リッチが作る骸骨戦士みたいな……」

「そうだ」

「そうだったんだ!?」

「むしろゴーレムや合成スライムにも近いな。というか、合成獣なんだから合成される切っ掛けはあるはずだろうが。元々は我々側に所属していた魔法使いが、手先として作ったものだ」

「へー。番犬代わりに?」

「いや……確か……」


『飛べるクマってヤバくないっすか? 連絡係も兼ねて屋敷の守護もできるんすよ!? やべぇ、天才だわ……』


「というノリで作っていた」

「ノリが軽くない!?」

「魔法使い独自の連絡方法がフクロウなのはそっちもこっちも変わらんからな」

「倫理観とかどこに置いてきたの?」

「そんなものは無い」


「だいたい、何百年前の事だと思っているのだ」

「それもそっかぁ。そういうノリで出来た魔物って実はいっぱい居る?」

「お前たちの中には、吾輩がすべての魔物を作ったと思っている奴もいそうだが。そうではない。吾輩はあくまで魔物の代表者というだけだ」

「ほーん?」


「まあ軽いノリで何人か作ってはいたが、さっきも言った通り凶暴でな。とうとう統率が取れなくなって、手放すしかなくなったのだ」

「そんな飼いきれなくなったペットみたいな理由で?」

「そんなものだ。魔法使いなど倫理観はどこかに落としてきたような連中だからな」

「いまはそんなことないと思うけど」


「まあともかく、手先として作ったはいいが飼いきれなくなった、というのが実情だ。それが原因で野生化して、魔物として定着した」

「そんないっぱい作ってたの?」

「どうにか言う事をきくのが作れないかと試行錯誤した結果らしい」

「なんて迷惑な」

「ともかくそういう理由だ。だからいま現在、アウルベアをわざわざ自分の所の護衛にしようなんて珍しいと思っただけだ」

「ふーん。もしかすると魔法使いの間では、アウルベアは元々自分たちが作った、みたいなのが伝わってるのかな?」

「既に野生の魔物として定着しているとはいえ、そういう奴らは居るかもしれないな」


「それにしても、意外な魔物の意外な成り立ちが聞けたね~。魔物研究者の人とか、いま興味深く聞いてるんじゃないかな」

「そうか?」

「これ聞いてる人の中で魔物研究してまーすって人は感想とか送ってくれると、魔王による魔物解説コーナーとして独立するかもしれない」

「勝手にコーナーを作るな!」


「……おっ? なに?」

「おい、目を逸らすな」

「いやほら、なんか報告上がってる」

「だからそれは吾輩に直接しろ!」

「アウルベアが討伐されたって~! 一応、良かった、のかな?」

「なんだ、もう討伐されたのか。つまらん」


「クエスト達成者は……、南レストより出立した勇者パーティ『赤紅の獅子』! みごとにアウルベアとの戦いに勝利したとのこと。いやぁ、パーティごと勇者指定を受けるだけありますね、アウルベアとの戦いでも物怖じしなかったようです」

「そいつらにも赤入ってるが、お前たちのセンスはどうなってるんだ」

「そこは言わないお約束!」


「魔術師サーザス氏の処遇についてはまだ決まってないそうだ。しかし、この顛末が配信に間に合って良かったな~」

「……」

「バルがすっごいあきれ果てた目でこっちを見てくるけど、無視無視! それでは残りの時間も存分に楽しんでいってくれ! ここらでちょっとブレイク!」

「……」

「また後で~」

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