配信3 リスナーからのお便り紹介

 夜十時。

 夜の帳がすっかり落ち、闇の合間を魔物や盗賊たちが動き出すころ。人々は通信用の魔石パネルや、装具につけられた魔石に耳を傾ける。

 やがて、ジジッと音がしてパネルからひとつの映像が浮き上がる。そこから心地の良い音楽が流れはじめると、聞こえてくるのは明るい少女の声と、やや不機嫌にも思える低い男の声――。


――――――――――――――――――――


「やあやあ。今日も素敵な夜をお過ごしの皆様、こんばんは。今夜もはじまる夜のおしゃべり、『深夜同盟』。お相手は私、アーシャ・ルナベッタと――」

「……バルバ・ベルゴォルだ……」


「この配信は、通信用魔力ネットワークの一部を『お借り』し、こちら独自のネットワークを介在して行われています。みなさま、お手元の魔石パネルや装具類の宝玉で配信そのものや音源の調節ができるぞ。それじゃあ、時間までたっぷり楽しんでいってくれ」


「毎回思うが、この口上は必要なのか?」

「口上は必要だろ!? それにお便りの中にときどき『これは一体なんなんだ』とか『お前は誰だ』とか混ざってるから、絶対に必要だよ」

「そいつらが聞きたいのは絶対にこういうことではない気がするが、まあいいだろう」

「バルも本人かどうか疑われてる投稿来てるぞ。『バルバベルゴォルのはずがない』って」

「人間どもに呪いあれ!」

「うわっ、ネットワークおかしくなるから変な魔力流すのはやめろ!」


 ―しばらくお待ちください―


「まあこれで吾輩がバルバ・ベルゴォル本人だとわかっただろう」

「通信用のネットワークを一部間借りしてるんだから、変な魔力流すなよなぁ。この魔力ネットワークって、バルが復活直後に演説した時のと同じ形式でしょ。よっぽど魔力が無い人じゃなければすぐわかると思うんだけど……。なんで疑われるのか私もちょっとわからないな」

「それは吾輩も疑問だが、お前たちも受け容れろ。吾輩もこの状況を諦めた」

「えっ、どういうこと?」

「……」

「すっげぇ目で見られてる。これ声だけの配信だからいま見せられないのがすごい残念」

「コイツをどう思うかの感想も待っている」

「変な感想は入れなくていいからね~」


「でも今ので確かにちゃんと本人だってわかったかもしれないな。ほら、このあたりのコメント見ると、めっちゃ疑われてたから」

「あ?」

「いちおう読んだ方がいいよね。配信に寄せられたお便りもどんどん読んでいくよ~」


*:本当にバルバ・ベルゴォル本人か?

*:魔王?

*:だれ

*:こんな嘘つかない方がいい


「お便り以前に、こいつらは人にものを聞く態度というのをどこかで習ったりしないのか?」

「あー、でも結構ちゃんと聞いてきた人がねぇ、確か……。あ、あった」


*:アーシャさん、バルさん、こんばんは。いつも楽しく拝聴させていただいています。私は小さな森に住むしがない世捨て人です。バルさんに質問です。バルバ・ベルゴォルと名乗っていらっしゃいますが、本当に魔王ご本人様なのでしょうか。ネットワークからは確かに魔王様の魔力を感じており、疑いようのない事実なのは重々承知しておりますが、確認と思ってこうして筆をとらせていただきました。


「……こいつが、頭が回ることだけはわかった」

「えっ、そう? 『しがない世捨て人』さん、普通の人に見えるけど」

「それを名前と認識したのかお前は!?」

「だって名前書いてないし」


「……まあいい。他の人間どもはこいつの文章を参考にしておけ」

「あとはこんなのとか」


*:お二人とも、(あえてお二人と言わせていただきます)こんばんは。僕はとある城で働いている者です。先日、国のお偉いさん方が『魔王軍の機密配信を受信した』と大騒ぎしていました。そんな情報を大声で騒ぐ方が一大事だと思っていたのですが、よくよく聞いてみると、この配信のことでした。僕は笑いを堪えるのに必死でめちゃくちゃ苦労しました。この配信は魔王の采配で、人間側の端末でも聞けるようにしてあるのですよね? 魔王の演説の時にも使ったネットワークと同じものですよね。


「吾輩の采配というか、コイツが言い出したことなんだが」

「この配信は魔王軍だけじゃなくて、人間側からも受信できるようになってるぞ~。そもそも私が人間なんだけど」

「しかし、こいつもちゃんと魔力ネットワークが吾輩のものだと理解できているようだな。城のどの程度の位置にいるのかが気になる」

「いいじゃないか、リスナーのプライバシーもあるんだし」

「なんだ。同じ人間だから庇うつもりか」

「いや魔王軍の誰かから来ても同じ事言うけど」

「……」

「だからお便りはペンネームでぜんぜん構わないからどしどし送ってきてね~。これを聞いてるなら魔物でも人間でもぜんぜん構わないよ!」

「ッ、~~ッ!!」

「いまバルがすっごい頭抱えてるけど、見せられないのが残念」

「……吾輩がこうなっている理由を聞きたい」

「それは最初に言ったじゃん。私がやりたかったからだよ?」


「というわけで、リスナーの皆さんは種族とかぜんぜん気にせず、質問や意見があれば送ってみてね。あっ、でも最初に読んだみたいな、何を聞きたいのかよくわからない感じだとただのコメントとしてしか扱わないよ」


「それじゃ、もうお一方くらいお便り読んでみようか」


*:こんばんは。本当にここで喋っているのはバルバ・ベルゴォルなんでしょうか。もしそうなら、なんの目的があって配信などしているのですか?


「愚問だな」

「そういうこと言うなよ」

「というか、さっきも言っただろうが。こんなことになっているのは吾輩のせいではない! こいつが望んだからだ!」

「まあ八割方私がやりたいからだよね」

「十割お前だ! 二割を吾輩のせいにするな!」


「いやぁ、でもなんだかんだ付き合ってくれてるバルには感謝してるよお」

「うるさい、黙れ! 仕方ないだろうが、そういう契約になってしまったのだから!」

「あはははは! ま、そんなところで次のコーナー行ってみようか! その前にちょっとブレイク。今日も時間まで楽しんでいってね~」

「……はあ……」

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