おそうじロボット

ブライトさん

第1話 ~ひとりにしないでくれ~

「まだ早いって」

「頼むから」

「俺を一人にしないでくれ、頼むから」

「目をさましてくれ・・・」


最後に感謝の1つも伝えられず、ガラス越しに横になっている最愛の妻は、はやり病に侵されてこの世を去ってしまった。


妻と出会い、家族になって5年と半年。

すぐによくなって帰ってくるはずだった。

まだ、生き足りないはずなのに。

まだまだ、一緒に年を重ねたかったのに。


「これから・・・どうしたらいいんだ」


茫然自失の中、粛々と葬儀が終わって灰となった妻は今、僕の腕の中にいる。

ずっと家に一人。涙が止まらない。

明かりをつけていても、家中が暗い。

テレビをつけても、言葉が理解できない。

ただ、冷たいベッドにうずくまるだけの日々を送っている。


そして、涙も枯れ果てたころ、忌引き休暇の1週間が明けた。

いうことをきかない体に、なんとかスーツをまとわせて、玄関を出た。


駅に向かう途中、久しぶりに上を向く。

冬晴の青空が歪んで見えた。


やっぱり、しばらくは立ち直れそうにない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る