第5話 オンライン会議殺人事件

 そのメッセージが全校生徒に伝えられたのは、その日の夕方だった。


尸位しい先生がお亡くなりになりました】


 ……


 尸位しい先生。


 プログラミング演習の講義を持っていた先生だ。つまり……今日、途中で中断した講義をしていた先生。


 ……ハッキリ言って私は、この先生のことが苦手だった。とある事情で近づきたくないと思っていたのだが……それでも亡くなったと聞くと心が痛む。


 ……


 裁き。正当な、裁き……


 あのチャットは……


【対応にともない、数日間の講義はすべて休講となります。学生の皆さんは冷静な行動を心がけてください。取材や聞き取り調査等のメディアには対応しないようにお願い致します】


 ……尸位しい先生が、亡くなった……


 まったく実感がわかない。人の死というものに対面したのは本当に久しぶりだった。父が亡くなったときの私は小さかったから、死という言葉の重みがわかっていなかった。


 ……


 殺された、のだろうか。裁きがくだされたということだろうか。


 わからないが……学校側は大事にしたくないようだった。だからメディア等に聞きつけられないよう、生徒たちに指示を出したのだろう。


 だけれど……情報というものは、どこからか漏れるものだ。それは生徒たちからのリークなのか、マスコミが敏感に嗅ぎつけたのかはわからない。


 翌日の朝には、全国的なニュースになっていた。

 

 視聴率欲しさにつけられたであろう見出しは、これだ。


『オンライン会議殺人事件』


 ……どこかの推理アニメじゃないんだから……こんな恐怖を煽る書き方しなくても良いだろうに……


 ともあれ……自分の学校で起きた事件だ。興味がないと言われたらウソになる。


 テレビの中では司会者が事件の概要について説明している。


『5月23日の11時9分ですか……まずはチャット欄に【これは正当な裁きである】【お前の罪がお前を殺すだろう】というメッセージが書き込まれました』


 間違いなく私が見たメッセージと同じだ。正確な時間は覚えていないけれど……11時11分の少し前なのは覚えている。


『その後、ですね。突然オンライン会議の音声と映像が途絶え……不審に思った生徒が学校側に連絡。連絡を受けた学校側が尸位しい先生の研究室に行ってみると……首を吊った尸位しい先生の死体が見つかった、と……』


 ……首を吊った……死因は初めて知った。

 

 少しだけ尸位しい先生の首吊りしたいを想像してしまって、慌ててそのイメージを頭から追い出す。


 ……しかし首吊りということは、自殺だろうか。


 だけれど自殺なら、殺人事件とは銘打たれないだろうし……


『これは通常なら自殺と考えるべきなんでしょうが……チャット欄のコメントが気になりますね』


 殺人事件捜査の専門家とやらが答える。毎回思うが、どの分野にも専門家っているんだな。


『そうですね……ただのイタズラにしては、タイミングが良すぎますからね……』

『そう思います。殺される、あるいは自殺のタイミングで偶然チャットが入るなんて考えられませんからね』


 チャットを送ってから殺した、と考えるほうが自然だろう。


 司会者は画面に映し出された時系列を示しながら、


『11時9分にチャット送信。そして11時40分頃に尸位しい先生の死体が発見される』

『11時9分から11時40分の間に犯行が行われたのでしょうね』


 ……私がのんきに親友2人とチャットしてたときか……まさかそんな事が起こっているとは……


『しかしですよ』司会者が画面を操作して、『その11時9分から11時40分の間……尸位しい先生の研究室に入った人は目撃されていないんです』


 ……その時間しかあり得ないのに、その時間に室内に入った人はいない……?


『このことから……世間ではこんなことが囁かれています』また画面が切り替わる。『犯人はオンライン会議で人が殺せるのではないか』


 ……


 そんなバカな。

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