コウジョウ戦線だっしゅつ中

 頭が痛い。ここはどこだ?


 暗い場所にいた。何もない、暗い場所だ。ふしぎと怖さは感じなかった。暗いのは怖いはずなのに、みょうな安心感がある。


 そのまま少しの間ぼうっとしていて、そういえばなんで俺はこんなところにいるんだろう、とぎもんに思った。


 疑問には思ったのだけど、まぁささいなことかと思い直してまたぼぅっと上を見る。


 天井があるわけでもない。かといって、空でもない。ただぼぅっと上を見る。


 そもそも俺ってなんだ?


 少し悩んでみた。良く分からなかった。でもまぁいいかとてきとうに考えた。


 そういえば、しぃなもこんな感じだったのだろうか? となんとなく思い至った。しぃなって誰だっけ?


 まぁいいか。ここでこうして、ぼぅっとしてるのも悪くない気がする。とそんな風に思ってからいや、俺はここに居たらだめだったはずだ、と考え直した。いや、でもどうして?


 何か、目的があったはずだ。


 しぃな。そういえば、そう、しぃなだ。それから……。


 コウイチと……、……、ダイチ! と、あとは……、リエカ。あぁそうだ、茉莉花ジャスミン先生と米内よねうちさんと舎人とねりさんと、あと入隊するのを許してくれたお母さんとお父さんと泣いてぐずった妹。


 みんなのところに戻らないと……。ここで一人でぼぅっとしてたらいけない。

 



『ヒーチャン班長さん、聞こえる?! 聞こえてるでしょ! 返事して……! 起きて!』


 心配そうなしぃなの声が聞こえた気がした。


「ヒトヨシくん、ねてる場合じゃないって! 分かってるでしょ……! もう、ほら、ボクたちの仕事は何とか最後まで終わったよ! だから、ねぇ……! 起きてよ!」


 コウイチも泣きそうな声だ。


「ジーちゃん班長……! ジーちゃん班長ってばぁ!」


 温かいダイチの声もふるえてる。


「あんた、人の事助けようとして自分がケガしてるんじゃないわよ! 起きたらはりたおしてやるんだからさっさと起きなさいよ、バカ!」


 言葉の上では強がってる割りには半べそなリエカの声。


『みんな、ヒーチャン班長さん、大好きだから、早く起きて……!』

『ヒーチャン班長さん、ヒーチャン班長さん……!』


 しぃなの声と体のゆれる感覚が脳みそにしみ込んできた。気がする。


「ん、んなぁ……? すぅ……、はぁ……、はぁっ、ぶはっ!?」


 がばっと、飛び起きた。

「って、痛ってぇ!?」


 後頭部をおさえればがジクジク熱を持っているのが分かった。


「あ、あぁ、えぇとおはよ」


 ぽかんと口を開けたみんながおれのほうを見ていた。何にも言わないで心配そうにじっと見めてくる。あのリエカでさえ、そうだった。


「……、そんなに見つめられると照れるな」


 あんまり見つめられるものだから、つい軽口が飛び出した。


 直後に、コウイチが飛びついてくる。遅れてダイチも飛びついてきた。勢いに押されて床にたおれこむ。


「よ、よかったよぉ! ほんとうに良かったぁ……!」


 ほっとした様子のダイチに助けられてもう一度体を起こす。


「あー、それで、今ってどんな状況だ?」


 首をグルグル回して調子を確かめながら立ち上がって、みんなに聞く。


「ヒトヨシくんが、リエカちゃんに引っ付いてたツキヨタケ怪人を切り飛ばしたあと、ヒトヨシくんが残ってた一匹に体当たりされて気絶して、それをボクがたおして、それから、ダイチくんにヒトヨシくんをおんぶしてもらって、ぐるっとあの堅いカベの周りに爆弾を置き終わって、一向にヒトヨシくんが目を覚まさないし、いつの間にか息もしてなかったから……、みんなで呼んでたんだよ」


 コウイチが説明してくれた。説明している間中なぜか俺のほっぺをぐにーっと引っ張ってくれた。一体なんなんだ。でもおかげで状況はつかめた。


「なら後は脱出だけだな」


 ぐるっと全員を見回す。みんなはそろってうなずく。


「了かい!」


 来るときは全員バラバラだったけど、帰りは全員いっしょだ。

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