シイタケ戦線しょうかい中

 次の日おれたちは大人たちとの合同防えい任務に、しぃなは身体検査へとそれぞれ出かけた。見張り台からバリケードに近づいてくるキノコ怪人を探してそれを銃でうちたおす仕事だ。戦線を拡大して土地を増やすのと同じだけ重要な防えいの任務。


 いくらT都へと進んでいっても、前線基地が落とされてしまったら戦線を維持できなくなる。そのためにはこういう地道な防えい任務こそが大事なのだ、と思う。


 四つの見張り台にそれぞれ分かれて大人の狙げき手の人と組んで任務にあたる。双眼鏡でキノコ怪人を探してそれを伝える。


 大きな銃を持って戦うことは今の俺たちには出来ない。銃の反動が大きすぎて子供の体には負担が大きいからだ。


 でもこれも大事な仕事、手を抜いたりはしない。確実にキノコ怪人をたおすことはそれだけ平和に近づくはずだから。


 双眼鏡で、少し遠くを見る。


「んえぇ!?」


 思わず変な声が出た。ここに基地が出来てからそろそろ一か月たつ。だというのに、良く分からないものを見つけてしまった。


「寺島班長どうした?」


 防護マスクをつけて、スナイパーライフルでキノコ怪人を的確に狙っていた米内よねうちさんは変な声におどろいて顔を上げた。


「あれ、あの……! 正面前方水平方向に敵影てきえいあり」


 急なことにあわててしまったが気を取り直して米内よねうちさんに敵の位置を伝える。


「んん? なんだありゃぁ……? ……、デカいな、これじゃ落としきれんぞ」


 そう、とても大きいのだ。大きくて白い、巨大なキノコ怪人。いや、キノコ怪人というよりはキノコの塔。


 直径は多分、十三メートルくらいある。高さも、五階建てのビルと同じくらいの高さだ。きょりはまだかなり遠い。


 大きさできょり感がくるうけど、ライフルの射程の外だと思われる。俺が双眼鏡で相手のことをじっと見ているうちに米内よねうちさんが司令官と連絡をしたらしい。


「おい、坊主一旦撤収だ。これから緊急の作戦会議をしにいくぜ」


 ほかの隊員たちとの通信がおれのインカムからもひっきりなしに聞こえてくる。


「了かいしました!」


 ほかの見張り台にいたみんなと合流して、おれたちはそろって宿舎に戻る。大人たちは作戦会議、俺たちは宿舎で待機だ。



「にしてもあれ、なんだったわけ?」


 目の間にしわを寄せたリエカは腕を組んで首をひねる。


 宿舎に戻った俺たち四人は顔を突き合わせて話し合っていた。今、大人たちは作戦会議をしている、なら俺たちだってただ待っているだけっていうわけにはいかない。


「キノコ怪人の一種だよね? だって、この間まではあんなでっかいのなかったし」


「ぼくもそうだと思う。にしても大きかったよね、あんなのどうやってやっつければいいんだろう?」


 コウイチがうーんと考え込みながら言って、それにダイチがうなずく。


 俺も二人と同じ意見だった。あれはどう見てもキノコ怪人に違いない。そして、多分しぃなを捕まえるためにやってきたのだろう。


「もしかして……、あいつの狙いはしぃななのかしら?」


 考え込んでいたリエカはぽつりとつぶやく。丁度俺と同じようなことを考えていたらしい。


「それってどういうこと?」


 首をひねったコウイチの言葉でそういえばあの場にはコウイチとダイチはいなかったな、と思い出す。


「あぁ、しぃなは自分はキノコ怪人に追われてるって言ったんだよ。で、しぃなを保護した直後に、巨大シイタケ怪人と、それからこの超巨大キノコ怪人の出現ときてる。だとするとやっぱりそういうことかもしれないな、ってさ」


 リエカの代わりに俺が答える。


「何にしてもあんなデカいのが急に現れられてしまうってことが問題よね。あいつらの体ってどうなってるのかしら?」


 答えの出ない疑問が続く。大人たちにも調べ切れていないことを俺たちが簡単に解き明かせたら苦労はしない。


「元々キノコ怪人自体が神出鬼没だし、調べようにも倒すとすぐにボロボロ砂みたいに崩れちゃうから、未だ正体不明だしな……。大体T都の方向からやってくるってのは分かってるけど、少数なら急に街中に出てくるなんてこともあるわけだし……」


 本当にキノコ怪人については分からないことだらけだ。


「でも、あれをどうにか出来ないときっとこの基地もおそわれちゃうよね……」


 コウイチがため息といっしょにそういった。


 気まずいちんもくが、しーんと部屋の中に広がる。どうにかやっつけようにもあんなに大きいんじゃとても普通の装備で対抗できるとは思えない。


 八方ふさがり。


 大人たちはいつもこんなふうに頭を悩ませているんだろうか? 大人の人たちはただでさえバリケードの外側で長時間活動することが難しいのに、あんなに大きな相手まで出てきて、どうすればいいんだろう?


 そろってうつむいていると、そろそろとしぃなが部屋のドアを開けて入ってきた。


「ただいま。今日はつかれた、けど楽しかった。色んな機械が体の中を見ていって、昔みたいだった。……?」


 のんきな声がおれたちの変な様子に気が付いたようでだんだんとはてなに染まる。


「しぃなおかえり」


 それを言うのがやっとだ。


 ほかのみんなは暗い顔のままあいまいに笑う。


「何かあったの?」

「あぁ、実は……」


 今日の出来事をしぃなに話す。


 それを聞き終わったしぃなは少しだけ考え込むしぐさをしてから、

「私その怪人知ってる。それはエノキタケ怪人だと思う」

 そう断言した。


「エノキタケ怪人?」


 リエカが眉を片方あげて、復唱する。


「うん、エノキタケ怪人。一晩ですごくでっかくなって、ジリジリ前に進みながら建物と間違えて近づいてきた人間を捕まえる。そういうキノコ怪人。すごく大きい。建物と間違えるくらい大きい」


「どうやったら倒せるか知ってるか?」


 おれはおそるおそるといった声色になりながらも聞いてみる。


「弱点かどうかは分からないけど、エノキタケ怪人は外からは大きく見えるけど、中はほとんど空洞でカベっぽい体部分もけっこうもろい」


「……!」


 しぃなはグルグル首を回しながらスルスルと言葉をつなげていく。

 みんなおどろいた。


「それが本当なら……!」

「あぁ、司令官に伝えないと!」


 リエカと俺はそろって立ち上がる。そしてしぃなを立たせて、両側から腕をつかんでずるずる引っ張り急いで部屋から飛び出した。

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