第2話 とあるとっツぁ( -_・)? との縁結び?

 やれやれ。これは、どうしたことか。目の前に掲げられたタブレットには、謎がデカデカと表示されている。


【とっツぁ( -_・)?】


 意味不明の羅列の文字に戸惑いつつ、画面の端のスピーカーアイコンで音声変換を試みる。


『トッツァン?』


 いまいち意図がつかめず、再度再生。


『トッツァン?』


「…ん、んん?」


 戸惑い半分、微笑ましさ三割、残り二割は嬉しさとはずかしさでポリポリと頭をかきつつ「あ~。その、だなぁ」何と応えるべきか。

 分かったことは、さっきまでのやり取りを見ていて、思うことがあったのだろうと言うことだ。

 ついさっき、家族が新たに増員される事になった養子縁組のやり取りから、自分もと思うのだろう。

 あの娘達が甥っ子と自認する相手が、か。面白いもんだ。人生ってもんは。


【…ちゃぅ?】


 新たに表示された文言をみて。

 考え込んでいたのは束の間と思ったが、この子には随分と長く思えたか。


 不安げに手を繋いで小首をかしげながら見上げ、たずねてくる子にたいし、なんと応えるべきか。

 悩みつつ、出てきた答えを口にする。


「…あー、どっちかってぇと、親父とっつぁんってぇよりは、おれは……おじいちゃんだな。おれは」

【…じーじ?】

「おう、そーだ。じーじだぞー」

【…じーじ! じーじ!】


 意味が分かっているかは定かではないが、相手がその呼び方を気に入って歓んでいることを理解すると。


「わはははは! じーじだ、じーじ。今日からお前さんの、じーじだぞ。…ヨロシクな」


 にかっとした笑みを向けながら、いとおしげに頭をぽんぽんと撫でると、満面に負けず劣らずな、にかっとした笑顔がこっちを向いていた。


 何時かは、そんな風に呼ばれ無くなるかも、しれないと思うが。今この時からだけの、じーじと孫の関係でも良いか。続く限りは、続いてほしい。


 嬉しそうに連呼してくる子にたいし、優しげに答えると、唐突に生じた縁あっての

初孫を、高い高ーいとばかりに抱き上げてくるくると回る。馴れていない真似をしたからか、目が回り、ふらつく足元であるが、見下ろせば。さっきまでの戸惑い顔から、打って代わって嬉しげな笑顔が見えた。新たな関係を繋いだ二人で手を繋いで背丈の違いで若干、歩きづらいが共に帰路をいく。




 捕虜収容所から、元敵対兵士に社会復帰を促すため。身元保証人として名乗りを上げ、社会性と信頼関係を築く一環として接しているだけのつもりだったが、欲が出た。

 こんな風に、思わぬ家族が増えることも良いもんだと。あとは、神さんにどう伝えりゃいいもんかな?

 笑って、嬉しげに受け入れてくれそうだが。…いや、怒って帰ってくるのかな? 自分もそこにいたかったとか。イキナリ、こんだけ人数が増えるとなると、部下を連れて帰った時もそうだったしな。かみさんの雷は、桑原クワバラ。

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