第45話 勇者パーティ再結成

「みんな、“もっているものをすてて”!」


 続けて聞こえてきたお願いに、全員が従ってしまう。


「お前ら、なんでここに……」


「テメェの考えなんざお見通しだっつぅの」


「なんで私たちになんの相談もしないのよ、バカ」


 柊彩の目線の先にいたのは、バッドエンド、ソフィ、紫安、紗凪、そして奏音。

 ついてかつて魔王を倒した勇者一行全員が、同じ場所に集結していた。


「な、なにをやっている!お前たち、早く撃て!」


「だから、“うごいたらダメ”!」


 お願いの効力が切れた教皇が命令を下すが、再び奏音がそれを止める。

 それに抗うことができるのはたった二人だけ。

 一人は柊彩、そしてもう一人は──


「大丈夫だったか?すまない、心配をかけて」


「い、いえ。ありがとうございます……」


 日聖の拘束を解いたその男、朱鷺田廻斗。


「柊彩、彼女を頼む」


「勇者様……」


「アシスタントが勝手にいなくなるんじゃねーよ」


 柊彩は笑って言いながら、日聖を抱きしめる。


「お前は俺の仲間なんだ、俺の前から消えるなんて許さねーぞ」


「はい……すみません……」


 日聖は柊彩の服を掴み、静かに泣き始めた。


「まったく、全部一人で背負おうとしてるんじゃねーよ」


「それは柊彩も同じ」


「イテッ」


 紗凪が横から柊彩の脇腹を突く。


「そうだよおにいちゃん!なんでいなくなろうとしたの!」


「僕たち仲間なんだから、こういうことはみんなでやらないとねー」


「私たちは柊彩一人にやらせたりしない」


 結局紗凪たちは全部わかっていたのだ。

 柊彩が自分たちに黙って一人で全てを片付け、日聖と共にこの国を去ろうとしていたことを。


「柊彩、全員で逃げるぞ」


 それはもちろん廻斗も同じ。

 ただ日聖が自分の身を犠牲にしようとしたのは、全員予想外だった。

 そのため一旦は敵側を演じて時間を稼ぎ、確実に日聖を助け出すタイミングが来るのを待っていたのだ。


「……ははっ、最初からこのつもりだったのか?だったら、お前ら全員バカだろ」


「そうね、バカよ」


「んでリーダーのテメェが1番のバカってわけだ」


 仲間たちには考えが全部見透かされていた。

 そのことを知った柊彩は思わず足から力が抜けそうになった。

 だが本番はここから。

 日聖の救出に成功した今、目指すは全員でのこの国からの脱出。


 ただその前にまず、この場にいる者たちをなんとかしなければならない。


「ここは俺がやる、お前たちは入り口で待っていろ」


「わかった、頼むぞ廻斗」


 柊彩たちを大広間の入り口に向かわせる、廻斗は再び大広間の中央に戻る。


「朱鷺田廻斗、どういうつもりだ!第二の勇者として幸村柊彩を処刑するのではなかったのか⁉︎」


「もうくだらん演技は終わりだ。勇者は後にも先にもただ一人。俺は昔も今も勇者の仲間、朱鷺田廻斗だ」


「なんだと⁉︎」


「実に滑稽だった。俺が勇者の仲間と知らず、悪事に加担すると信じて疑わぬその姿はな」


「ぐっ……!こ、殺せ!そこにいる全員、即刻射殺しろ!」


 強行の命令が下ると、360°全方位から100を超える銃声が鳴り響く。

 だが廻斗はわずかに体勢を変えたかと思うと微動だにしなかった。


「何発でも撃ってみろ、俺には当たらんがな」


 廻斗の言う通り、どれだけ撃たれようとも1発も当たる気配はない。

 ほぼ大きな動きはないというのに、その場で少し動くだけで全ての銃弾を避けている。


 さらに少しして、一人、また一人と銃を持つ隊員が倒れ始めた。


「あれも特異体質、ですよね」


「ああ、廻斗のヤツは下手すりゃ俺より強ぇかもしれねぇ」


「ずっと一緒に戦ってきた俺は一番よく知っている。アイツの持つ『時間停止』は間違いなく最強だ」


 


 柊彩と廻斗は2人とも赤子の頃に魔王軍の侵攻で親を失い、同じ孤児院で育ってきた。

 だが5歳となったある日、その孤児院すらも襲われ、そこにいた子どもたちは散り散りになってしまった。


 ただ子どもだけでは逃げられる距離に限界があり、当然すぐに魔物に見つかってしまう。

 2人で逃げていた柊彩と廻斗も魔物に追い詰められ、殺されようというその瞬間であった、柊彩が女神の『加護』の力に目覚めたのは。


 その力によって2人は窮地を脱し、生き延びることができた。

 だがその時偶然にも廻斗も特異体質に目覚めてしまった。


 死の間際に瀕した廻斗の脳はその極限状態から戻ることはなくなり、常に走馬灯を見続けているような状態になってしまったのだ。

 

「アイツには常にこの世界全てが死の間際と同じように、スローモーションのように見えるんだ」


 廻斗は普段から他人より10倍以上の時間を認識している。

 さらに集中することでより世界は緩やかに見えるようになり、極限の集中状態に達すると認知上の時間を止めることができる。


「集中している間は世界が止まって見える。だからどこにいれば銃弾に当たらないかもわかるんだ」


 ひたすら避けつつ、時には柊彩と同じように幾つかの銃弾をキャッチし、それを指で弾いて命中させる。

 それを繰り返すことにより、素手のまま100人の銃を持った隊員を全滅させてしまった。


「な、ななな……なにが起きたんだ……」


「安心しろ、殺してはいない。しばらく動けなくはしたがな」


「お前も殺す気はねーから安心しろ。ま、これまでの発言が配信に載ってるけどな」


 柊彩はカメラの先を教皇に向け、その顔を配信に載せる。


〈さっきからどうなってるんだ?〉

〈日本ってもしかして終わってね?〉


「さあ次はどうする。少なくとも聖女様の暗殺計画を立ててたことはバレちまったぜ」


「もう一つ教えてやる。今まで日本各地で起きていた事件も国と聖教会の仕業だ。その真の目的は──」


「黙れェッ!」


 教皇が拳銃を撃つが、当然二人に当たるわけがない。


「全員アイツらを殺せ!必ずだ、これ以上なにもさせるな!」


「おっと、その前に逃げるぜ!」


「そうだな」


 柊彩と廻斗は大広間の入り口に向かって走り出す。


「お前ら!俺は日聖を連れてこの国を出る!もしお前らが良いんなら一緒に着いてきてくれ!」


「わたしはいくよ!」


「あたりめぇだ」


「楽しくなってきたじゃない」


「またみんなで旅ができるねー」


「柊彩、私はもう貴方の側を離れない」


「共に行こう、俺がどんな障壁をも取り除いてみせる」


 全員の答えは決まっていた。

 それを聞いた柊彩はこの上ない笑みを浮かべ、それから日聖に手を伸ばす。


「あとはお前だけだ」


「本当にいいんですか?私なんかのために」


 日聖のその言葉に、全員が笑って頷く。


「……ありがとうございます。そして、これからよろしくお願いします……!」


 日聖は柊彩の手に自分の手を重ねる。

 柊彩はそれをしっかりと握りしめ、それから大声で言った。


「よし、それじゃあここから逃げるぞ!」


 こうして柊彩たちの最大の逃走劇が幕を上げた。

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