第三章 動き出した悪意

第30話 牙を剥いた脅威

「あ、来たぞ!」


「ホントだ!おーい!」


「おはよー、みんな」


 聖誕祭当日。

 日本で最も賑わう都内にて、柊彩たちは集まっていた。


「今日もあちーな」


「お、嬢ちゃんもなかなか似合ってるじゃねぇか」


「当たり前よ、アタシが選んだもの」


 日聖もこの場に来ているのだが、宣言通り変装も兼ねてソフィ流のファッションになっていた。

 眼帯に包帯にヘッドフォン、さらには帽子とマスクまで身につければバレる心配はほとんどないだろう。


「ただ、この格好すごく暑いです」


「そりゃしゃーねーな。それより始めるぞ」


 そう言って柊彩は浮遊型のカメラを用意し、手元のスマホで配信開始のボタンを押す。

 せっかくの聖誕祭の様子を記録保存も兼ねて、全員のコラボという形で配信することにしたのだ。


「どうも、ヒロです!今日は聖誕祭に来てます、そして後ろにはみんないます!」


〈メンツが豪華すぎる!〉

〈かにゃソフィ見れただけで満足〉

〈やっぱ人多いな〉

〈今どこいるんだ?〉


「おい、特定はやめろ!来るな!」


 全員が初めて揃ったということもあり、配信は最初から盛り上がっていた。

 さらに背後からは常に人の賑わう声が聞こえており、祭りの熱気が雰囲気をさらに高めていく。


「さすが日本最大の祭り!ほら!」


 柊彩は一度ぐるりと全体を写す。

 見渡す範囲は人で埋め尽くされており、遠くにはたくさんの屋台が並んでいる。

 さらにはあちこちから様々な楽団の演奏も響いており、それだけでこのお祭りがとんでもなく大きいことがわかる。


「よっしゃ、それじゃ早速いくぞ!」


「わたし、わたがしたべたい!」


「おう、後でいこーな」


〈今すぐ行け〉

〈◯すぞ〉

〈可愛い〉

〈早く買いに行ってこい〉


「過激派多すぎだろ!物騒だな!」


 コレだけ周りが盛り上がっていれば、自然とテンションが上がるのも仕方ないだろう。

 とんでもなく暑いにもかかわらず、柊彩たちはいつもより弾んだ足取りで街を行く。


「おいヒロ、射的対決しようぜ!」


「いい度胸してんじゃねーか、俺が勝つに決まってんだろ」


「いいや、アタシよ」


〈スポンサーまで参加してて草〉

〈コイツらめちゃめちゃ仲良いな〉

〈普段から配信外はこんな感じなのか?〉


 みんなで集まっているのもあるだろう、途中からは配信のことを忘れて勝手に盛り上がり始めている。

 日聖も配信には映らないものの、常にカメラの外では誰かと喋っており、各々がこの聖誕祭をこの上なく楽しんでいた。


「聖誕祭は初めてなんですけど、こんなに楽しいお祭りなんですね」


「こんな騒げるなんて時代も変わったよな。ほら、見ろよ」


 バッドエンドはそう言ってカメラに向かって何かを話している柊彩を指差す。

 その顔は今までに見たことがないくらい笑っていた。


「珍しいぜ、アイツがあんな笑ってるの」


「確かに、私も初めて見たかもしれません」


「柊彩くんはいつも何か一人で抱え込んでたりするからねー、今日くらいはそれも忘れてるといいなー」


「おいジャン!こっち来い!この珍味ってやつ食ってみろよ」


「ふふん、任せてよ。完璧なリポートを見せてあげるからねー」


「面白そうなことしてんじゃねぇか、俺も混ぜろ!」


 柊彩に肩車されている奏音。

 その隣で笑っているソフィと、後ろから突っ込むバッドエンド。

 そんな彼らの中心では激辛珍味を頬張って悶える紫安の姿があった。


 きっと彼らは今初めて、勇者だとか一切関係なく一人の少年少女としてこの瞬間を楽しんでいるのだ。

 日聖はその光景に微笑みながら目を瞑り、胸の前で両手を組む。


 これからも彼らに幸の多からんことを。
















 そんな聖女の祈りは、残酷にも女神には届かなかった。
















 突如として響く爆発音、人々の悲鳴。


「またか⁉︎」


〈ヤバい、近くで何かあった!〉

〈西の方がとんでもないこのなってるぞ!〉

〈またか?大丈夫なのか?〉


 せめて今日この日だけは何事もなく終わってほしい。

 そう思っていた柊彩であったが、残念ながらその願いは叶わなかったらしい。


 やはりこの国で何かが起きているのは間違いない、そして聖誕祭を狙ったのだ。

 ひとまず配信を切ろうと例の如くスマホに手を伸ばした時であった。


 そのコメント欄に一つ、信じがたいことが書いてあった。


 柊彩はこれもまたいつもの事件だと思った、何者かが何らかの意図を持って起こした事件、この国に混乱を巻き起こそうとするもの。

 だがそうであればどれほど良かったものか、これは最悪の予想をさらに上回る災厄。


 この悲鳴は人に向けられたものではない、それよりももっと凶悪で、人類を滅びの寸前まで追いやった脅威に対するもの。


〈魔物が現れた、助けてくれ!〉


 魔王討伐と人類の勝利を祝う聖誕祭において、人類の脅威である魔物が再び現れたのであった。

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