Case3-26 少女

 研究所玄関外すぐのロータリーでは、ざわついた人々の声の中で、複数飛び交う男性の声が目立っていた。おじさんと同じ制服を着た民間会社の警備員達が、ほんの数名で大人数の研究所職員達をなんとか誘導しているのだ。

 たった今外に出ることができた少女は、すーちゃんと共に誘導に従って隣接する駐車場へと向かおうとしていた。そこが一時の避難場所と研究所では定められている。

 空はすっかり暗い。季節は春を迎えているとはいえ、上着を休憩室に置きっぱで来た少女は少しばかり肌寒さを感じた。


「瀬田主任!」


 はきはきとした男声の呼びかけに、すーちゃんが振り向く。


「届いた発注パーツ持ってきたんですけど! 一旦主任の車の中に入れれませんか?」


 若めな男性職員が走ってこちらへとやってきた。


「発注パーツ!? 持って出てきたの!?」

「だって今日届いたばっかですよ?」

「いやいや理由にならないって! 避難だよこれ!?」

「でもなんかあったらヤじゃないですか?」

「いやだから、そういう話じゃないでしょ。え? 全部?」

「はい! 中村達と!」

「何してんの……。えぇ…、ありがとうだけどさ~」


 お仕事のお話だ。少女は大人しくしていた。というよりも、母がこちらへ避難していないか辺りの人の顔を見回していた。


「あっちに全部まとめて置いてるんですよ。一旦中身だけ確認してくれません?」

「ねぇ今誘導中」

「僕ら運びながら行くんで! 運びながら確認おねがいします!」

「あーーーもうわかった」


 と、すーちゃんは心底投げやりな様子で返事をした。


「レナちゃんごめん。ちょっと着いてきてくれる?」


 すぐに「わかった」の返事をしようとしたが、少女は少し留まった。そして、別の答えを返すことを選んだ。


「待ってる」

「え?」

「お母さん出てくるかもしれないからここで待ってていい?」


 すーちゃんの、瞳が揺れる――。

 少女はじっと返事を待った。じっと、切実に。

 やがてすーちゃんはその場に屈むと、少女と同じ目線になり、ようやくしっかりと目を合わせて答えた。


「……いいよ。絶対ここから動かないでね。ここで待ってて。もーちゃん来たら、私も来るからって一緒に待ってて。ね、お願いね」


 少女は頷いた。「待ってる」


「絶対ね」


 もう一度しっかりと頷く少女。

 ちなみに、もーちゃんとはすーちゃんが呼んでいる母のことである。

 すーちゃんは立ち上がり、男性職員と共にその場を後にした。

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