Case2-2 ノバレス・バクトロ

 あ。あとさ、勘違いしないでほしいんだけど、僕は別に自分の記憶を誰かに知って欲しいとか、そういう趣味はないからね? こうやって、文章を書いてってはいるけど、好き好んでやってないよ?


 これは、僕の推測だけど、あ~、この文章自体が、脳の海馬かいばみたいなものなんじゃないかな。僕がしたいかどうかは関係無く、文章ができあがっていくんだよ。

 記憶って、自分が覚えておきたいとか、忘れたいとかそんなの関係無く脳に記録されるでしょ? 忘れるときも気がついたら忘れてる訳で。だから、ちょっと言い方悪いかもしれないけど、僕からすれば君たちが僕の記憶を勝手に読んでるんだよ。そんな感じ。

 第一、誰かに知ってもらったところで、僕にはもうあんまり意味ないっていうかさ。


 話、戻そうか。この時僕はちょうど自分のラボにいたんだ。そう研究室。僕は研究員なんだ。なんとなくわかってたでしょ?


 あ! そうそう、話はここからなんだけど、

 まあその、自慢じゃないけど、実は僕、N-GETエヌゲットの研究員なんだ。へへへ


 へへ へへ……


 ……


 え? ちょっと待ってよ? 君もしかしてN-GETも知らない? 

 嘘だろ!? 君ちょっとものを知らなさすぎるんじゃないか!? 情報サイトとか見たりしないわけ?

 ……正直信じられないよ。

 もしかして、敢えて知らない自分はかっこいいとか思ってない? ほんとに?

 ……

 N-GETっていうのは…

 …あのさ、多分知らない人あんまりいないと思うからね?

 N-GETっていうのは、New Generation Energy Technology R&D organizationの略で、次世代型エナジー技術総合研究開発機構のこと。聞いたことない?


 日本が…君の国がね? 世界のエネルギー産業でトップになる為に作られた国立の! 研究機関。今国がいっちばん力を入れてる組織なんだよ。

 所属してる研究者だってみんな名のある方達だし、

 研究所長は春氏浦はるしうらさんだからね? 春氏浦芽々菜はるしうら めめな


 ……


 ……


 ……


 え 知らないの!?


 ……


 ……いや、うん、もういいよ。

 ともかく、そういうすごい所に僕は所属してるってこと。恐れ多いけどね。

 それで僕が…はぁ 疲れたな…それで僕が自分のラボで何をやってたかっていうと、

 ……荷物まとめてた。

 ……

 うん…。荷物まとめてたんだ。退職するから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る