第11話

 夢を見た。

天の川の川岸を走る銀河鉄道の夢。

 「卒業おめでとう。ユイ。」

 お母さんの声に似た少女が祝ってくれた。

 「ありがとうございます…。」

 「私のことはレイでいいわよ。ユイ。」

 少女はレイと言った。

お母さんと同じ名前。

 「レイさん。ありがとうございます。」

 「レイでいいわよ。ユイ。」

 それを最後に霧の中に消えた。


 移動中の車で目を覚ます。

 「おはよう。お姉ちゃん。」

 「うぐぅ。」

 乃亜の抱きつき攻撃。

これまでの分のが一気にのしかかってきた。

 「乃亜そのくらいにしておけ。」

 「ぶぅー。」

 兄をおかげでなんとか解放された。

 「おはよう。ユイ。」

 「兄よ。おはよう。」

 トンネルを抜けて日の光が車内を満たす。

山々と海に囲まれた東北の地。

僕のお母さん。

《岩波レイ》の生まれ故郷。

《岩波市》。


 風力発電の風車が並ぶ山々。

そこにひとつも風車のない山のところに一つの屋敷がある。

お母さんの家であり、今のお母さんの実家でもある。

 「おかえりなさい。皆々様。」

 屋敷の家政婦さんたちが出迎える。

代々この家に使えてきた人達で、僕も幼い頃からお世話になってる。

 「荷物はこちらに。」 

 「お願いします。」

 「ユイ様。これは大きくなられましたね。」

 「お陰様で。」

 「立ち姿もレイ様にそっくりで……。」

 「ありがとう。」

 感極まった泣いているのを僕は抱きしめた。


 家政婦さんたちに紹介された道の駅。

かつては旧国鉄の駅舎だったのだが、時代と共に廃れ。

今では住民の要望もあって道の駅として改装されている。

 僕はその裏手側。

観光用に駅舎の名残を残した駅と線路がある。

線路の向こうには川が流れていて、鳥を始めとする動物たちの憩いの場になっている。

…………。

 線路の向こう。川の上にレイと同じ姿の少女がいた。

 「……っ。」

なにかを避けるように鳥が羽ばたき、動物たちは山奥へ散っていった。

 「今のは一体…?。」

 なにかに引っ張られて休憩用の木製の長椅子に向かう。

 《銀河鉄道:天の川線【まほろば】》。

 と書かれた古い乗車パスが置いてあった。

なんでこんなものがあるのだろうか?。

誰かの落し物だろうかと名前がないか探した。

 《名前:ユイ》。

 どうやら落し主は私らしい。

確証はないけど直感がそう言っている。

 「ユイ。そろそろ帰るよ。」

 乃亜に呼ばれて、微かに残る違和感を置いて僕は家族の元へ帰った。


 翌日。

僕はセーラー服を着ている。白と青の一般的なセーラー服。

 「よくお似合いです。」

 「そう…?。」

 「えぇ。懐かしいですね。昔レイ様にもよく着付けてました。あら、ごめんなさい。」

 「いいよ。もっと聞かせて。お母さんのこと。」

 「はい。では―。」

 家政婦さんが話してくれた。

子供頃はやんちゃでよく山奥を駆け回った話。

中学生になって急に清楚なお嬢様になった話。

高校生になって急に料理の勉強をしだした話。

何故か将来娘ができることをわっているような話。

娘の名前が既に決まってる話。

 そして遺言で遺言で僕の誕生日までここにいる間は自分の制服を着て欲しいとお願いされ、思い出の場所を回って欲しいとお願いされた話。


 玄関を出て直ぐに、サイドカー付きのバイクに乗った兄がヘルメットを持って待っていた。

 「行くんだろ?。」

 「どうして…。」

 「お前の考えてることなんて直ぐにわかるぞ。お兄ちゃん舐めるな。」

 「ありがとうバガ兄。」 

 「ふっ。おいこら!。」

 わしゃわしゃと兄がせっかく整えた髪を解した。

 「この方が似合ってるぞ。」

 「バカ。」そう言ってヘルメットを被ってサイドカーに座る。


 最初に行くのはお母さんが通ってた。小中学校の旧校舎。

門をくぐってバイクを止める。

 「俺はここで待ってる。」

 兄に見届けられ僕は校舎へ向かう。

校舎の前に2人の老夫婦が立っている。

夫人の方が先に気づいて、2人とも慌てて僕の方に走ってきた。

 「レイちゃん。」

 「レイ。」

 第一声がそれだった。

「すまんすまん。」と謝ったものの、おそらくお母さんの遺影が強かったのだろう。

2人とも年甲斐なく泣いている。

 「お母さんの話。聞かせて貰えませんか?。」

 「あぁ、いいとも。レイにもお願いされたしのう。」

 「そうね。」

 「お母さんに…?。」

 2人は昨夜夢でお母さんにあって、僕に自分の話するようお願いされたらしい。

 2人にお母さんの使ってた教室に案内されて、お母さんの使ってた机、椅子に座った。

机を撫でた。

これがお母さんの使ってた机。

 2人の思い出話は僕にお母さんの新しい一面を見せてくれた。

川で遊んで迷惑をかけた話。

同年代の男の子たちをからかった話。

ここを出る前にお守りを渡した話。

 ふと机のもの入れを漁る。

中からひとつの切符が出てきた。

《学校→神社》と書かれた切符。


 兄にお願いして神社に向かった。

鳥居を抜けると1人の巫女さんが待っていた。

 「待っていましたよ。ユイさん。」

 同年代ぐらいだろうか?。

長い黒髪と程よい背丈が紅白の巫女装束と調和していて綺麗だった。

 「さぁこちらへ。」

 巫女に案内されて祠の前に着く。

切符に誘導されて、祠に置いた。

……。

祈ると切符が《神社→海》へと変化した。

 「海…。」

 学校であった老夫婦の話を思い出す。

なにかあるとよく海岸で黄昏ていたらしい。

そこへ迎え。と切符が言っているようだった。


 海へ着いた。

懐かしい海。

よくお母さんに連れていって貰ったっけ。

 「レイ…?。」

 お母さんと同年代ぐらい女性が僕に話しかけた。

 「ごめんなさい。人違いでした。」

 「あってますよ。はじめまして。お母さん、レイの一人娘のユイです。」

 「あら。あらあら。隼人とは上手くいったのね。」

 隼人とは、お父さんの名前だ。

 「ごめんなさいね。レイが亡くなった時に来れなくて。」

 「大丈夫ですよ。今日来てくれましたから。」

 「そういうところもレイそっくりなのね。嬉しいわ。」

 「ありがとうございます。良かったらお母さん話…聞かせて貰えませんか?。」

 「私で良ければ。」

 彼女は話してくれた。

高校生の時のお母さんのこと。

受験の時助けられたこと。

よく恋愛相談されたこと。

そして最後を看取れなかったこと。


 《海→屋敷の別館》と記された場所へ向かった。

家政婦さんたちの話ではお母さんはよくここで消息をたっていたらしい。

ドアを開けようとするが開かない。

…………。

まあ開くはずないだろうと切符をドアに挿す。

 ガチャァ…。

開きおった。

 「お邪魔しま〜す。」

 誰もいないだろうけど言ってしまう。

中は殺風景かと思ったけど。

天の川銀河の絵。

銀河鉄道の写真。

僕を案内した切符と同じものがいっぱい銀河の絵に切符の座標と紐付けされた状態で額の中に入っていた。

 ふとひとつの机を見る。

いろいろな光源の入った小瓶たち。

そこにひとつの本が置いてあった。

 《『銀河鉄道の夜』著:宮沢賢治》。

1人の少年が友人と共に銀河鉄道に乗って、色々な場所、人に会って行く旅物語。

 なんでこんな本が?。

中を開くと本に記された場所が線で引かれている。

 もうひとつ、ノートを見つけた。

それは線の引かれた場所へ行った記録。

レイの銀河鉄道旅録だった。

 「ユイ。そろそろご夕飯ですよ。」

 家政婦さんが呼んでいる。

もう戻らなきゃ。



⬛︎⬛︎⬛︎



 目が覚めた。

どうやら夕食を食べた後に部屋で寝落ちしたらしい。

せっかくのセーラー服が少しシワになってる。

ごめん。お母さん。

…………プゥォー。

 汽笛。それも汽車の。

窓の外を見る。

夜空に走る1本の線。 

ここがお母さんの部屋だったこともあって、都合良く双眼鏡があった。

 僕は見た。

ノートに模写された銀河鉄道と同じ汽車だった。

急いでパスを持って外に出る。

 階段を降りると駅舎に着いた。

道の駅になってるはずの駅舎に。

中に入るとちょうど汽車が到着した。

形状はC61形蒸気機関車に酷似した白銀の汽車。

車両前面と側面の円盤状の看板には。

《銀河鉄道 まほろば》

と書かれていた。


 しばらく車両にそって歩いていると、ドアが開いた。

横開きの自動ドア。

外見に似つかわしくない近未来的なドア。

そのドアから全身を覆い隠すジャケットと手袋、ジャケットと同じ横幅の帽子。大きい革靴。

車掌だろうか。

 「切符。もしくは乗車パスをご提示ください。」

 「えっ…。」

 「切符かパスを。」

 「は……はい。」

 私はスカートのポケットから先日見つけたパスを渡した。

 「ふむ…ふむ…。問題ありませんね。ようこそ銀河鉄道『まほろば』へ。」

 「どうも。」

 車掌に案内されて客車の中へ。

「おーい。」と手を振る見知った声の主。

 「お知り合いですか?。」

 「えっ…まあそんなところです。」

 僕は声の主がいる座席へ向かった。

やっぱりレイだ。

 「ユイ〜。久しぶり〜。」

 「お久しぶりです…。」

 僕はこの前会ってたけどね。

 「おお〜。セーラー服だ〜。私と同じ。うちと同じ学校?。」

 「違います。お母さんが昔着てたものです。」

 「ごめんね。」

 「いいですよ。」

 レイの対面に座る。

こう見ると髪の長さと瞳の色以外は僕にそっくりだ。ちなみにレイの瞳は明るめの紫色。

 「では良い旅を。」そう言い残して車掌はこの車両から退室した。


 駅舎のブザーがなる。

次に汽車の汽笛。

ガゴンと重たい音と共に、大蛇のような大きな巨体は前へと進んだ。

ガンガンと進んでいくのが、勢いが乗ってくると落ち着いて速度が上がる。

汽車は次第に坂を上り始めて、宙へと駆けた。

 客車の窓開いた僕は下方にある街を見ている。

さっきまでいろいろと回った街を僕ははるか上空から眺めている。

 「凄い。本当に宇宙に向かって走ってる。」

 「凄いでしょ〜。私も最初びっくりしたの。」

 成層圏を抜け。

月を横切って、銀河鉄道は宙を走る。

この冒険が何を意味するのか。

この旅の終着駅はどこか。


 僕はレイと一緒に色々な星を回った。

水晶でできた星。

氷で覆われた移動する星。

燃えるような真っ赤な星。

美しく輝く青白い星。

星を貫く槍を回す極点の星。

全てを飲み込む黒い星。

 気がついたら僕の荷物はそれらの一部を入れた瓶でいっぱいになった。

 「お土産でいっぱいだね。」

 「うんそうだね。」

 あの別館にあった小瓶たちと同じのを僕は持っていた。

 「そろそろ着くよ。」

 「どこに?。」

 「私の一番のお気に入りの場所。」

 そこはひとつの小島とそれ以外は海でできた星。

こんな星があるんだ。

宇宙の広さは恐ろしい。

僕はそんなビー玉のような星に降り立った。


 ここは星の海岸。

ついさっき来た海岸と似た海岸。

 「私ここの海好きなんだ。」

 ローファーと靴下を脱いで浅く入り、水を蹴りながら進むレイ。

懐かしい記憶と被る。


―――――――――――――――――――――


 「おい危ないぞ。」

 「大丈夫よ。ほらユイも。あなたも。」

 「だぁ〜。」

 「こら2人とも。」


―――――――――――――――――――――


 ……。でもこの記憶は僕のじゃない。

ユイ本来の記憶だ。

 パシャッ。

 「ユイ。何悲しい顔してるの?。もっと楽しまないと。」

 レイめ。

 「こいつ。うりゃっ。」

 「きゃぁっ。やったわね。えいっ。」

 かけにかかれ、かかりあい。

終わった頃には制服のこと気にせずにお互いにずぶ濡れになっていた。

 「はぁ…はぁ…。やるわね。」

 「はぁ…はぁ…。そっちこそ。」

 そこからはお互いに笑いあった。

こんなに楽しいのに、幸せなのに、罪悪感感じないのは久しぶりだった。


 レイのお気に入りの星を離れて、気がつけば終着駅だ。

そこは水晶の雌しべがある綺麗なお花畑の星。

光の粒子が花から宙へ上がっていく。

 「レイここは?…ぐっ!?。」

 なにかにぶつかった。

その拍子に僕は尻もちをついてしまった。

 「そうかそうだったんだ。」

 「レイ…?。」

 レイが振り向き手を差し出す。

僕は手を取って立ち上がる。

 「あなただったんだね。」

 「えっ……?。」

 「私を救ってくれたのは。」

 あぁ。思い出した。

僕は前世で1人の少女を救った。

強風が吹き荒れる日だった。

もうとっさの出来事。

崩れる鉄骨の足場から少女を救った。

それがレイだったなんて。

 「でもそれだけじゃない。私の…。私の娘も。ユイも。」

 「えっ…。」

 どういうこと。僕はユイを救った覚えがない。

 「ありがとう。」

 「ちょっと意味がわからない。」

 どういうことだ。

頭が混乱している。

 「それはね―。」

 それは凄く単純だった。

本来ユイは死産だったらしい。

だけど、僕の魂が、僕が転生したことで、ユイはこの世界で生まれて生きることを保証された。

そう…だったんだ。

僕が奪った訳じゃないんだ。

その安心感が、つい嬉しくてレイに抱かれて泣いてしまった。

 「ごめんね。あなたに辛い思いさせて。」

 嬉しかった。

僕はしっかりレイの娘だって。その事実が本当に嬉しくて。

 「本当はあなたが大きくなったら言う予定だっただけどね。私バカね。あなたを。あの人を残していってしまったのだから。」

涙を拭う。

 「だから改めてお礼を言うね。」

 うん。

 「私を救ってくれて。」

 前世の僕が。

 「私の娘を救ってくれて。」

 転生した僕が。

 「そして今まで大切に生きてくれて。」

 うん。

 「今あなたを抱けて。受け止められて。」

 「僕もだよ。またお母さんに会えてて。」

 思い出は辛い記憶。


―――――――――――――――――――――


 医者と看護師が慌ただしく病室を駆け回ってる。

 「お母さん。」

 僕は必死に呼んだ。

叫んだ。

それで少しでも助かる可能性があるなら。

 「…ゅ…ぃ…。」

 「お母さん。」

 弱々しく握られた手。

 「ユイ…。ごめんなさい…。私…あなたに……。」

 「お母さん。」 

  次第に指先から冷たくなっていく手。

 「ユイ…。あなたは幸せに生きていくのよ。大丈夫。あなたには素敵な友達がいっぱいできるのだから。」

 「何言ってるのお母さん。」

 かすれていく声。光を失っていく瞳。

 「大好きよ。ユイ。」

 「お母さん。ねえお母さん。」

 ピーピーと電子的な鐘の音が静かな病室に響きわたる。

 「お母さん。起きてよ。ねえお母さん。起きてよ。また眠ったの。お母さん。いい子にしてるから。お母さん。起きて。お母さん…。起きてよ…ねえ…お母さん…。起きてよ!!。」

 そこからの記憶はなかった。

後日お父さんがきた。

私はどうしたのだろうか。

たぶん怒ったのだろう。

行き場を失った怒りをお父さんのせいにして、気づつけて。

私悪い子だ。

悪い子だからお母さんは起きないんだ。

ごめんなさいねお母さん。悪い子で。


―――――――――――――――――――――


 その罪悪感で僕は覚醒した。

本来前世の覚醒は起きないという。

僕の場合はお母さんを失った悲しみとお父さんを追い詰めた罪悪感で限界になって、僕が目覚めることでなんとか命を繋いだらしい。

 「ごめんなさい。あなたに必要のない後悔させて。これじゃ母親失格だね。」

 「そんなことない。」

 そんなことないんだ。

 「確かにそういうこともあった。だけど、お母さんの言う通り。友達もできた。大切な人も。好きな人も。」

 「好きな人?。」

 少しが恥ずかしい。

恥ずかしいけど全部話した。

 「ふふ素敵な人ね。安心した。ちょっと予想外だったけど。でも好きになったからには大切にしなさいよ。」

 「はい。」

 汽笛が鳴り響く。 

 「時間みたいね。」

 「そうだね。」

 夜明けが始まる。

 「もう少しここにいたかった。」

 「夢は覚めるもの。大丈夫。まだ朝まで時間があるわ。それまでいっぱい話し合いましょ。」

 僕達は汽車に乗り込んで、本来の居場所に帰った。


 僕は駅舎に帰ってきた。

お別れの時間だ。

 「ユイ。ありがとう。」 

 「こちらこそありがとう。レイ。」

 お互いに抱き合った。

もう忘れない様に。

 「最後に渡すものがあった。」

 レイはセーラー服の下からひとつのペンダントを取り出して首から解いた。

彗星と星々が描いてあるロケットのペンダント。

 「ちょっと後ろ向いてて。」

 ペンダントを僕にかける。

 「よし。良いわよ。」

 ペンダントを手に取って中身を開く。

中には僕とレイの写真。

そしてもうひとつは切符。

ここのやつだ。

行先の書いてない切符。

 「じゃあね。ユイ。」

 「お母さ―。」

 口を口が塞ぎ。

レイが僕を包み込んで。

深いキスをしながら頭を撫でた。

 「元気でね。」

 「うん…。」

 汽笛がなる。

目覚ましの様に。

 「妹。一花によろしくね。」

 「うん。」

 汽車がゆっくり前進する。

 「あっ…。」

 僕は追いかけた。

 「お母さん。僕、幸せに生きるから。」

 少しづつ遠ざかっていく。

 「お母さんが後悔しない様にいっぱい。」

 ホームの限界まできた。

でも最後に言いたかった。

これだけは最後に言いたかった。

 「お母さん。」

 聞こえなくてもいい。

届かなくてもいい。

でもこれだけは。

 「大好き。」

 笑顔で見送れたたかな…。

今度はちゃんと私の意思で。

 僕はホームを出た。

ちょっと名残惜しいけど。

きっとすぐそばで見持っているから…。



⬛︎⬛︎⬛︎



目が覚める。

 「むぅ…。」

 ここは知ってる。

レイ…お母さんの部屋だ。

どうやらベッドで寝ていたらしい。

 「ユイ様。朝食のお時間ですよ。」

 「はーい。」

 階段を降りる。

家政婦さんが出迎えてる。

 「おはようございます。あらら。もうこんなにシワになって。」

 「ごめんなさい。つい寝てしまって。」

 「大丈夫です。これくらいよくありましたから。」

 そう言って変えのスカートを取りに行った。


 リビングへ向かった。

 「おはよう。ユイ。」

 「おはよう。」

 「おはよう。お姉ちゃん。」

 「おはよう。」

 皆が出迎えた。

僕は埋まってる長い辺ではなく短い辺の方に座った。

 「ユイ…。それ…。」

 気がついた一花お母さんがペンダントに触る。

 「貰ったんです。レイ…お母さんに。夢の中で。」

 「そう。あなたが持ってたのね。」

 嬉しそうに指で撫でる。

一花お母さんの話によるとペンダントをプレゼントした翌日に無くしたと言っていたらしい。

ごめんって謝ったのだろう。

光景が目に浮かぶ。

一花お母さんが僕の後ろにたって、腕で優しく抱いた。

 「お姉様。」

 僕は腕を優しく撫でた。

もう会えないと思ってたから。


 それから数日がたって、僕は帰ることになった。

部屋に飾ってあるお母さんの写真。

 「行ってきます。レイ。お母さん。」

 汽笛が聞こえた気がした。

慌てて窓を見るけれど。

そこに汽車の姿はなかった。

 「ユイ様ー。」

 僕は部屋から出た。

行ってきます。私の。僕の。大好きなお母さん。



⬛︎⬛︎⬛︎





⬛︎⬛︎⬛︎



 レイの部屋の片隅。

そこには二三重に鍵がかかった箱があった。

その箱を開けるとひとつのビデオテープが入っている。

ビデオカメラに使う小さいヤツ。

 『10年後のユイへ』。

 と書かれたビデオテープ。


⬛︎⬛︎⬛︎……。


 「これでいいのかな。」

 映し出されるは陽の光が差し込む窓際の病室のベッド。

簡素な服装に身を包み、髪を短く切ったレイ。

 「こんなカメラ初めて触ったよ。」

……。

 「改めてなにか言おうとすると緊張するね。」

 …………。

 「ユイ……。あなたはこれから後悔したり苦しんだりすると思う。」

 …………。

 「それこそ。目覚めたことを後悔するような。」

 …………。

 「でも大丈夫とは言わない。」

 …………。

「けどこれだけは忘れないで。」

 …………。

 「ユイが好きに生きて。前世とか、転生とか、そんなの気にしなくていい。君はここにいる。ここに生きてる。私はもう長くないけど。でもそばにいるから。ずっと見守っているから。」

 ……ドタドタドタ……。

 『お母さん。』

 「ユイ。もう。」

 『お母さん何やってるの?。』

 「ん。未来のお手紙だよ-。」

 『ふーん。ビデオレターってやつ。』

 「よく知ってるね。ユイ大好き。」

 『えへへー。私もお母さん大好き。』

 「ユイが将来大きくなったら一緒に見ようね。」

 『うん。それまでいい子にしてる。』

 「約束よ。」

 『約束!。』

 …………⬛︎⬛︎⬛︎………………。

「ごめんね…。約束果たせなくて。」

 …………。

 「そう。もうわかってたの。」

 …………。

 「あの日からずっと。」

 …………。

 「ユイ。ごめんなさい。約束を果たせなくて。一緒にこれを見れなくて。」

 …………。

 「ふふ…。んっ。ユイ、ペンダントは大事にしてる?。私のかわいいかわいい妹からの贈り物なんだから。なにかあったら許しませんからね。」

 …………。

 「ユイ。誕生日おめでとう。大好き。」

 …………⬛︎⬛︎⬛︎……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎…………。

 プツン……。

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