第2話

 前世の記憶が覚醒したのは5歳くらいの頃だった。

ただ何気なく見た全身が写る縦長の鏡。

 (僕ってこんな身体だったっけ…?)

 そんなささやかな疑問がフラッシュバックのように断片的に再生された。

唐突な復元。

断片的とはいえ数十年の記憶がこの新しい身体に耐えられるわけがなく、しばらく寝込んでしまった。


 しばらくして改めて自分の身体を見る。

半透明のように、発光するように、透き通る青白い髪。

人形のような綺麗な白桃色の瞳。

そして整った可愛い顔。

本当に自分の身体なのか疑問視してしまう。

 この頃の僕には今世の5年の記憶と前世の数十年の記憶がまだ独立していた。

ゆっくり、だが確実に、具材が全て溶け込んでいくスープのように融合していくのは年月が経つどこに感じていった。


 10歳の頃にはもうだいたいの記憶が溶け込んで、最初は慣れなかった女の子の身体もだいぶ板に付いてきた。

とはいえ、やはり意識と身体の齟齬は相変わらずあって。

覚醒直後は長いストレートな髪型も今は短く切っている。

私服はパンツスタイルとスカートスタイルは半々ぐらい。

少女としての感性と男性だったことの意識が不均衡な状態を繰り返し。

そのせいか、病弱な身体になって、学校もよく休むようになり、友達もおらず、基本的に家での生活になってしまっていた。


 中学に上がる頃には齟齬も落ち着き。体調も回復していった。

家族は両親と上に兄1人、下に妹1人という環境。

 兄こと春樹ことハル兄(この頃の呼び名)はしばらくの病弱生活でだいぶ過保護になってしまっていた。

うん。過保護。何をするにも付き添ってくるくらいには過保護。どうしてこうなった…。

 妹こと《岩波乃亜》。

病弱生活で家にいることが多かった僕とよく遊んでいたのかよく懐いてきて。

どこに行くにも後ろをついて行った。可愛い。

 中学校の制服は白のジャンパースカートに白のブラウス。あとは好みでタイツなど。

冬服はこれに白のボレロ。

スカート丈はアニメの制服かというくらい短かった。だいたい長くても太ももの半分くらい。僕のは太ももの1/3くらい。この世界ではこれで良いらしい。まあほかの学生服を見てもどこも似たり寄ったりなので今更な部分もあるのだけど。

 学校はとある大学に併設されてる中高一貫の付属校であり、ハル兄やソフィアも同じところに通っている。

 ある程度は回復したとはいえそれでも体調を崩しやいのは相変わらずであり、付いた名が【保健室の天使様】…。

そうなるかぁ。


 そんなこんなで中3のクリスマス…。

パーティから抜け出したソフィアに会い。

家に上げてささやかな二人だけのクリスマスパーティをして。

 そして今、ハル兄こと兄を原告としたちょっとした身内裁判が始まっている。


 まあ結論から言えば相互の誤解だったのだが。

密かに誕生日パーティを計画していた兄と、ソフィアを慕う榛名が意気投合してやったもののあまりの密会の多さと、変な面白おかしい尾ひれが付く伝言ゲームの噂で双方に認識に齟齬が起きて今に至ったわけで。


 そして今。うちにいるのです。美人で綺麗で可憐で可愛い、けど終始無表情なソフィアちゃんが。我が家に。

一応僕の家の説明を。この家は「そろそろ高校生になるので1人暮しできるようになりたいのでお願いします。」と過保護な兄と両親に説得して、今年の冬休みからこの家に住むことになった。本当はもっとアパートとかマンションとかの生活を想像してたのだけどまさか一軒家とは…。良い家に生まれたよな…僕。


 それから数日が経ち。世間はクリスマスから年末年始の雰囲気に突入している今。我が家ではソフィアちゃんが料理を担当してくれることになりました。それどころか家事全般。

なので今はリビングでテレビにインターネットで繋がった配信サイトの動画を観ながら、ソファーで足を肘掛に乗せながら横になってます。

なにこれヒモじゃん。絶賛ヒモ生活じゃん。なんなのこれ。

料理を手伝おうとしても「手を怪我したり、火傷をすると危ないので待っていてください」と言われるし。洗濯しようとしても「少し下着の扱いが雑なので私がやります。」ってなんか少し頬を赤らめながらいうし。

なにこれ。


 そんなこんなでソフィアの作った料理で年末年始を過ごして、ついに初詣です。

僕はずっと楽しみにしていたのです。ソフィアちゃんの着物姿。

顔が良いのは無論、高身長でスタイルも良いので絶対似合うだろうな~。

そんなこんな考え事しながらしていると玄関で待っていると。

着物を着た彼女が来た。

……。

語彙が飛んだ。

言葉も飛んだ。

良い。良すぎる。なんなのこの娘。

高身長なのはもちろんのこと、少しスレンダーな体格に程よくベストマッチしている。良い。

それに比べて僕は…。

ソフィアは紺と蒼の落ち着いた着物に対して僕は、明るい水色の着物。しかもフリフリのスカートの付いているやつ。恥ずい。

 「どうですか…?」

 思わず聞いてしまった。

 「似合ってますよ。」

 少し安心した。ん?微笑みながら言ってるけど…。性癖が鼻から出てるよ。何興奮してるのこの娘。

 あれ〜。こんな娘だったけ…。

思えば、クリスマスの夜にベットで一緒に寝た時に胸で優しく抱き抱えた時に、なんか吸い込むような幻聴が聞こえてたし。洗濯の時もなんか落ち着いていたけど妙に興奮してるような感じだったし…。まさかよね。

僕はこの疑問と直感を後々に後悔することになるのだが…。


 初詣も終わり。冬休みも終わり。

いよいよ学校だ。高等部の制服は白のブレザーに白のブラウス、そして白のスカート。スカート丈はこちらも例にもれず短い。

けど…やはりソフィアちゃんが着ると絵になる。

中等部と高等部の交流会でも見たことがあるけど。立ち姿がそれだけで絵になる。イベントCGのように…。

 「では行きましょうか。」

 その言葉を合図に僕はソフィアはあとをついて行った…。




―――――




 色々決着がついて今、私はユイちゃんの家にいます。

誤解だったとはいえ大事になってしまったのは本当に申し訳ございません。

結果としてユイちゃんと同居できるようになったのでヨシ。

 とはいったもののユイちゃんの私生活はだらしないのは初日でわかりました。

食事はレトルトや冷凍食品ばかりだし。洗濯は雑だし。いくら可愛いくても私許しません。

 「という訳で家事は私がやらせていただきます。」

 「……。そう…。」

 少し困り顔なのが可愛いー!ではなくユイちゃんは私が守ります。


 そして数日がたって、わかったこと。

ユイちゃんが可愛いのはもちろんなこと。積極的にお手伝いをしようとしていること。可愛い。好き。

でも危ないですからね。包丁で手を切ったり。火で火傷をしたり。何より柔らくてもっちりした白い肌が怪我するようなことは私が耐えられません…。

洗濯も下着。特にブラを雑に扱うのは駄目です。可愛い女の子でしょあなたは!

……。

でも本当はユイちゃんの匂いを嗅ぎたいのです。変態ですみません。

それにしても……。デカいですね。ブラ。

あの時はスポーツパンツにタイツ。パーカーでしたから分かりませんでしたけど。こんなに大きくものを持っていたとは…。

…。はっ!?あの夜にユイちゃんに抱かれた時に顔に感じた胸感触はやはり…。着痩せするタイプなのですね。

なら納得です。

 「…手伝いましょうか…?」

 ひょっこりとドアの隙間からユイちゃんが声をかけてます。可愛い。

 「大丈夫ですよ。ソファーでゆっくりしていてください。」

 「……。そう…。」

少ししゅんとした顔でドアを閉じるユイちゃん。可愛い。でもごめんなさい。こんな変態な醜態を晒す訳にはいかないのですよ。うん。


 そうこうしているうちに初詣の日です。

年末年始は年越しそばを食べるユイちゃんがハムスターように越しの効いたそばを、頬を膨らませながら食べるのがもう最高に可愛い。写真に納めたい。

 朝はおせちを食べていよいよ最寄りの神社に行きます。

 お父様とお母様と一緒に選んだ着物に着替えて玄関に行くところです。

ユイちゃんはどういう着物着ているのでしょう。

大人っぽいやつでしょうか?それとも子供っぽいやつ。

そうこう妄想しているうちに目的地に着いた私は…。尊…。

何この可愛い生き物。

子供っぽいは子供っぽい水色のスカートの付いた着物。だがしかし。ユイちゃんの小動物的低身長と、帯の締め付けで強調される私より数倍は大きい胸部。神様ありがとうございます。

 「どうですか…?」

 そんな少ししょぼくれた表情で目線を逸らしながら言わないで。可愛いから。

 「大丈夫ですよ。」

 だって可愛いもん。

 なんか少しモジモジして落ち着いてなさそうだけどなんでだろうか?

…まあそのうちわかるでしょう

 「行きましょうか。」

 「うん。」

 うん。って何。ちょっと照れてるの可愛い。


 しばらく歩き。山中にある神社に行く。

 ユイちゃんはしばらく腰からしたを気にて、度々スカートを押さえながら歩いている。

 神社は山中にあるため、当然階段もある。

ユイちゃんは少しというかかなり焦ってる様子。

階段を登る。

ユイちゃんはスカートを押さえながら登っている。可愛い。

でも妙に頬が、いや顔全体が少し赤い。

なんでろう。

今日は着物だしな…。まさか!

結論づけるには少し早いと思い。階段を登り終わったら聞こう。うん。

 階段を登り終わり。交通の邪魔にならないように木々が多い物陰に行く。

 「少し失礼します。」

 私はユイちゃんの身体を着物を上から触る。まさぐってません。あくまで確認です。あくまで。

 「んっ…//。」

 ユイちゃんから情緒を刺激するような声が出る。

oh.......。確認のために胸や腰を触っている。これは確認であって、決してあわよくばとは考えてないです。絶対に。

 「ん…//。」

 これ以上は私の理性が持ちそうにないので手を離しました。セクハラじゃないよ!?

 「ユイ…あなた…。」

 聞かずとも本当はわかっていた。

 「んっ...///。そう…です…よ…//。」

 やっぱり。この娘…。はいてないしつけてない。

なんですと。

 「着物は初めてだったので…。」

 確かに定番と言えば定番なアレだけれども!!

ちょっと予想外だったなー。普通の着物ならまだしものよ。スカート付いてるのよそれ。

どうりでさっきからずっとモジモジと脚擦り合わせてるわけだよ。

でも可愛いから良いか。

 「手。繋いで行きましょうか。」

 「うん……。」

 はい。恥ずかしそうに手握るの可愛い。

まああんな羞恥をね。確認とらされちゃったらね。でも心配しないで。私が守るから。


 それから参拝をして帰り。特にこれといった会話もなく就寝…できないな私。今でもユイちゃんの身体の感触が脳に焼き付いている。

柔らかった胸とおしり…。ユイちゃん…こんな変態な私を許してください。


 長く短い冬休みも終わり。これからいよいよ学校生活の再開です。

朝食を食べ終えて、制服に着替えて玄関でユイちゃんの到着を待つ。高等部はブレザーの制服。中等部はジャンパースカートの制服で。どちらも白を主体に、各所青いラインの入っている。

 「おまたせしました。」

 そんなユイちゃんの可愛い声とともに私はユイちゃんを見る。

透き通るような青白い短い髪と白桃色の瞳が白を主体とした制服によくあっていて…。好き。

そこで私は今一度一目惚れをした。


 「では行きましょうか。」

 「うん。」

 私はユイちゃんの手を優しく引いて、学校へ向かった。

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