012 緊急会議

 順調な滑り出しを見せたヨーグルトと粉末調味料の販売。

 しかし、販売開始からほどなくしてヨーグルトの売り上げが下がり始めた。


 ひとたび下がるとその後は急降下だ。

 日に日に売り上げが落ちていき、あっという間に半減した。

 この事態を重く見たライデンは、緊急招集を行った。

 

「よく集まってくれたな諸君!」


「諸君って言うけど、呼ばれたのは僕とマリアだけだよ」


 酒場の隅でテーブルを囲む三人。


「二人は我が町の幹部だからな! 本当はロンも呼びたかったが、爺さんは町の拡大に忙しいからな!」


 エルディは現在、怒濤の勢いで住居の数を増やしている最中だった。諸々の商売によって財政が潤ったことで、ライデンが町の拡大に乗り出していたのだ。ロンは魔法を巧みに操り、住居建設の支援に明け暮れている。


「ではさっそく本題だ。ヨーグルトの売り上げがどういうわけか落ちている。商業ギルドによるとこの数日は廃棄分が出ているそうだ。原因を考えてほしい!」


「それなら簡単だよ」


 テオがすまし顔で言ってのけた。


「同業者が増えているんだ」


「同業者だと?」


「都市部にはヨーグルトの製造・販売を専門とするヨーグルト屋が急増している。皆、そっちで買うんだ」


「ウチよりもいいのか?」


「そりゃヨーグルト屋は現地製造だからね。ウチのヨーグルトは都市部まで輸出するからコストが嵩み、それだけ値段も上がる。それに鮮度も落ちるでしょ?」


「つまりヨーグルト屋さんで買ったほうが安くて美味しいってこと?」とマリア。


「その通り!」


「どうにかなんねぇのかよー、色々な味付きのヨーグルトを販売するとかさ!」


「そういうのも既に行われているからねー。ヨーグルトでこれ以上の販路拡大を目論むのは諦めたほうがいいんじゃないかな」


 ライデンは「マジかぁ!」とテーブルに突っ伏した。


「粉末調味料はどうなの? 野菜パウダーとか、一味唐辛子とか」


 尋ねたのはマリアだ。


「そっちは問題ないぜ! 相変わらず売れまくりだ! むしろ足りないくらいで増産を急いでいる! そのために各所から暇人を集めているわけだしな!」


「なんで粉末調味料は真似されないの? 作り方は簡単なのに」


 マリアの疑問は当然だった。

 もちろこれには理由がある。テオは右人差し指を立てた。


「粉末調味料を作るための材料――つまり野菜の供給が追いついていないからさ」


「野菜不足なの?」


「アルバニア王国は魔法を使ったスピード栽培が禁止されているからね。作物の栽培は一年がかりの大仕事なんだ。にもかかわらず、食料自給率は平均で65%しかない。四割近くを近隣の国から輸入している現状だから、野菜を粉末にする余裕なんかないんだ」


「なるほど。じゃあホライズン公国は? 公国でも販売しているよね?」


「ホライズン公国では人手不足で農家がいないんだ。ライデンは冒険者時代のコネがあるから、そこら中から暇な冒険者を集めてきて農作業をさせているけど、普通はそんなことできないからね。魔法によるスピード栽培ができたところで、それを収穫したり加工したりできる人がいないんじゃ商品にならない」


「「なるほど」」


「だから僕の意見としては、ヨーグルトは諦めて野菜や果物を使った加工品を増やすほうがいいと思うよ。粉末調味料は今後もしばらく伸び続けるけど、いつ人気に陰りが見えるか分からないから、第二・第三の柱が欲しいところだね」


「テオは賢いなぁ」


 感心するマリア。


「だろぉ!」


 何故かライデンがドヤ顔で答えた。


「じゃ、僕はこの辺で失礼するよ。こう見えて忙しいからさ」


 テオはテーブルに置いてあるリンゴジュースを一気飲みし、颯爽と去っていった。


「そんなわけでだ! ヨーグルトの代わりとなる新商品を開発してくれ!」


 テオがいなくなった途端、ライデンは言った。


「そう言われてもそんなすぐに閃かないよー」


「かぁ! やっぱりきついか!」


 マリアはニッと笑った。


「なんちゃって!」


「ぬ!?」


「実は賢者の書にも面白い技術が載っていたの!」


「技術?」


「レシピとは少し違うんだけどね」


「なんだそれは?」


「その前に質問! 冒険者だった頃、ダンジョンで何日も過ごすことってあったよね?」


「ああ、あったよ。長い時は数ヶ月はこもっていた」


「その時、食事ってどうしていたの?」


「基本は保存食だ。干し肉やドライフルーツのことだな。水はロンが魔法で生成した物を飲んでいた。爺さんの魔法水はマズいんだよな。加齢臭が混ざってる感じがして」


「酷ッ!」


 はっはっは、と笑うライデン。


「もちろん水がマズいってのは嘘だ。で、それがどうした?」


「新しい商品は保存食にしたらどうかなって思うの」


「ドライフルーツでも作ろうってか?」


「ううん、もっとすごいものだよ!」


「もっとすごい……?」


「まぁね」


 マリアは「ふっふっふ」と笑った。


「魔物が消滅しても、食事に困っている場所ってあるよね。山奥の村とかさ。そういう場所だったり、都市部でも手軽に食事を済ませたい人だったり、そんな層に人気が出ると思う!」


 ライデンは「おお!」と声を上げた。


「たしかに美味い保存食は需要がある! それで、その画期的な保存食の技術ってなんだ!?」


「ふふふ、それは――」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る