第44話 老ドラゴンとの出会い
――死ななかった。
ビュンと激しい風で頬を切られたように感じただけ。
どうやらタツが猛スピードで避けたらしい。
「キュッキュウ! たっちゃん、すごいでしゅ!」
……確かに。俺もそう思ったけど声にならない。
どこか、ちゃんとした地面の上に足がついて安全を確認しないと、しゃべれそうにない。
「ふむ。どういうことじゃ? あのドラゴンは、なぜワシらを狙うんじゃ?」
そりゃ、悪の限りを尽くした悪いドラゴンだからですよ。
あれかな。ゲームでよくある、倒すことができなかったから封印しました的な?
「よし。今度は近くに寄って、お前の顔を見せるんじゃ。同類じゃと気づいておらんのかもしれんな」
……へ?
……近づく?
いやいやいやいやいや。ダメでしょ。危険すぎるでしょ。
「はいっ」
こらーっ! タツ! なんでそう、シモーネさんの言うことを聞いちゃうのー!
「やめなさい」って言いたいのに、声が出ない。声が出ないうちにタツがバカみたいに真っ正面から檻に向かって飛んでいく。
……もうやだ。やだやだやだやだー!!
タツがビュンと突進する勢いで突っ込むと、檻の中のドラゴンが大きな口を開けた。
ほらーっ!!
「いったいどういうことだ!?」
なんですって?
よく見ると、シワシワに干からびたドラゴンが、大きな鉤爪で檻をつかんで叫んでいる。
ええと。タツに向かって言ってんの?
「う、生まれたのか? どうやって……。どこにいたのだ!?」
なんだか感動の再会っぽいんですけど。
「降りて話したほうがよさそうじゃな」
シモーネさんがそう言うと、タツは黙って檻の前に着地した。
タツから降りた俺が一息ついていると、シモーネさんがトコトコと檻の方へ歩いていった。
シモーネさんを見た巨大な老ドラゴンは、檻の間から鉤爪を伸ばし、彼女を引き裂こうと暴れた。
「よくも――。よくも我が家族をー!! 何をしに戻ってきたのだっ! 生まれたばかりのものを魔術で服従させたのかっ!」
こ、こっわ。おじいちゃんドラゴンこっわ。
「誤解があるようじゃが、ワシは今日初めてここに来たんじゃぞ。何やら魔術で酷い目にあったようじゃが、ワシとは無関係じゃ」
「お前のような魔術師ふぜいが何を言おうが――」
「ワシはー!」
シモーネさんは、枝で地面をバンと叩くと、腰に手を当てて高らかに名乗った。
「よく聞け。ワシは、大賢者シモーネ様じゃ。そんじょそこらの魔術師とは格が違うんじゃ。一緒にしてもらっては困る!」
「は?」
「は?」ってなりますよねー。そうですよねー。こんな状況で見得を切ったって、喝采される訳がないですよね。
「はあん?」
ドラゴンと話の途中なのに、俺が心の中でつぶやいたことによく気がつきましたね。こっわ。
俺が枝で叩かれなかったのはタツが口をはさんでくれたお陰だ。
「ち、違います。ボクのご主人様はこっちです」
「キュウ!」
シモーネさんの後ろに控えるよう立っていたタツが、勇気を出してそう言った。
「お、お前――。レッドドラゴンが――レッドドラゴンなのに、スライムの従魔になったのか?」
なるほどね。
いつの間にかキュウが元の大きさに戻っていて、反射的に俺は抱っこしていた。
そのキュウが、うにゅって出した両腕を腰の辺りにつけて、「えっへん」というポーズをしている。
「ち、違います! キュウさんはなんというか、先輩というか、お兄さんというか、なんと言ったらいいのか。と、とにかく違うんです。僕のご主人様はこちらの方です」
檻の中のドラゴンの金色の瞳がギョロリと動いて、目が合った。
ひぇっ。
檻に入っててくれてよかったー。
「そっちか」
はい、こっちです。
「いったいどういうことなのだ? どうやって契約を? お前たちは何をしに来たのだ」
タツは「どうしましょう?」と言いたげに、俺の顔色をうかがっている。
えーと。なんというかですねー。いっぱい聞かれたんですけど、どう答えたらいいのか。
俺が言い淀んでいると、シモーネさんがふんぞりかえって偉そうに言った。
「まあ、まずは檻から出てもらわんとな。その方、囚われておるようじゃな。ま、これしきの魔術なんぞ、ワシの力をもってすれば解くことは容易い。だが今は、魔力が足りんのでな」
ええっと?
シモーネさんは結局、いかにも出来そうな態度で、出来ないって威張ってる?
「あのー。『足りん』って。全盛期ならなんてことはなかったけど、今はもう、魔力が枯渇して出来ないっていうことですか? じゃあ――」
「相当痛い目をみんと分からんらしいな。お主、手足がちぎれても文句を言うなよ」
「いやいやいやいやいや。そんな。俺がどうかしてました。大賢者様バンザーイ!」
シモーネさんの目が吊り上がったのを見て、俺がブルブルと震えていると、タツがシモーネさんの前に立ちはだかった。
「ま、待ってください。ご主人様とボクとで檻を破ってみますから。まずはこの方を檻からお出ししないと」
タツ。いいやつだなー、お前。
それにシモーネさん相手にひるまないなんて。強くなったなー。
「キュウも協力するでしゅ」
タツとキュウが加勢してくれたお陰で、シモーネさんも「檻から出す」という目標に意識を切り替えてくれた。
「そうじゃな。ワシらが力を合わせればなんとかなるじゃろ。よし。お主、ちょっと檻に触れてみろ」
「は? ええーっ! なんかあったらどうするんです? 危ないでしょー!」
「やかましいんじゃ」
シモーネさんが枝で俺を小突いた。
あっと思った時にはすでに手遅れ。俺は檻に激突していた。
「どうじゃ? 何か感じるか?」
ええ。そりゃあもう、痛みを感じますよ!
「痛いに決まってるじゃないですか! 俺の命をなんだと思ってるんです!」
「バカかお主は。それよりも檻に流れている力を感じるんじゃ」
バカバカってもう。
……あ。でも確かになんか感じる。
パチパチじゃなくて、ビリビリでもないな。うーん。なんていうか――。
「ピキピキしてますね」
「はあ? なんじゃそりゃ。お主……本当にバカじゃったのか」
「なんですってー」
「ああそうか。お主は属性を持っておらんかったの。大抵のやつは生まれた時に決まっておるもんじゃが。じゃがそれは、言い換えると、全部の属性を持つ可能性があるということじゃぞ。順番に試してみるか」
試す? 何を? どうやって?
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