第13話 遅めの昼は海鮮丼

「キュウ。キュキュウ」


 か、わ、い、いっ!!

 めっちゃくちゃ可愛い!!


 スライムは一瞬で俺に懐くと、俺から離れようとしない。

 抱いているとほんのり温かくて、ぷにょんとした感覚がたまらなく気持ちいい!


 ああ、俺、スライムが大好きだっ!

 もう一度言おう。

 スライムがー、大好きだっ!

 森にいるスライム全部と契約したい! ああスライムに囲まれて、全身でぷにょぷにょを感じたい。



「お主、バカなことを考えておるじゃろ」


 あっはっはっ。正解! まあそれくらいは顔に出ていたかもね。


「直接契約できる魔獣は、種族ごとに一体だけじゃぞ」

「ええええっ! こんなに可愛いのに?!」

「どういう意味じゃ」


 ああそんな!


「キュウウウー」

「ああ、ごめん。ごめん。そうじゃないんだよ。キュウがいてくれたら他にはいらないよ」


 スライムに悲しい顔をされると、俺まで悲しくなるよ。


「なんじゃ。キュウと名付けたのか」

「は?」

「キュウーー!」


 おっほ! 喜んでる! 喜んでる!

 そうか。名前を貰えて嬉しいのか。よしよし。お前は今日からキュウだ。うん。可愛いな。


「鳴き声のまんまとは。安易じゃな」


 うるさい! キュウは可愛いキュウなんだ。

 

「これからは俺がずっと一緒だからな」


 老婆は心底軽蔑するような目で俺を見た。


「何か勘違いしておるようじゃが、魔獣と契約するのは、己の盾にするためじゃぞ。お主がそやつの面倒をみてどうする」

「はああっ!?」


 盾? 身代わりってこと? そんな可哀想なこと、できるかよ!


「可哀想だと思うなら、そやつを他の魔物に負けないくらい強く育てるしかないぞ」

「育てる? 俺がキュウを?」

「キュウー! キュキュウ!」


 キュウ。……お前。強くなりたいんだな。よっし。


「キュウはどうすれば強くなるんですか?」

「簡単なことじゃ。強い魔物を倒させればよい。契約すれば、主人と一心同体だからの。魔獣自身の魔力が低くても、お主の魔力を借りることができる。だから、そうそう死ぬことはない」


 そうか。ところでお前、今ってどれくらい強いんだ?


「契約魔獣のレベルって――」

「ステータスを見れば分かるじゃろ。バカ者が」


 そうか。俺と繋がってるんだもんね。

 むふふふ。


 キュウを「高い高―い」と持ち上げると、嬉しそうに「キュッキュウー!」と応えた。

 そんなキュウに向かって叫ぶ。


「ステータスオープン」


 おっほ! 出た! キュウのステータスが表示されている。


<キュウのステータス>

Lv:5

魔力:120/320

体力:38/45

属性:水

スキル:感知、水球、氷刃


「ほお。レベル5か。まだそんなもんじゃったか」


 キュウが老婆に鼻で笑われた気がして、ちょっとムカつく。


「ちょ、ちょっと。のぞかないでくださいよ」

「ふん。ケチな奴じゃ」


 でも、本当に体力がちょっとしかない。なんか心配だなあ。お前、よく生きてたなあ。


「弱い魔物を探してやらないと危険だなあ」

「バカ者! お主が手伝ってやれば、あっという間に上がるじゃろ」


 そうか! アドルフたちに手伝ってもらったようにやればいいのか。



 キュルルルー。



 キュウが不思議そうな表情で俺を見た。

 あっは。に、似てたかな? 俺の腹の鳴る音が鳴き声に……。


「そういや、お主、飯を食っておらんかったの」


 いや、そうなんだけど。どうしよう。困ったな。老婆に見られる訳にはいかないし。


「何か持っておるのか? それとも買いに行くのか?」


 いや、だから。


「それとも、お主のその変わったスキルを使うのか?」

「ええっ?! どうして……」

「お主ごときのステータス。このワシに見られぬとでも思ったか?」

「ええっと……」


 老婆はあっけらかんとしている。焦っている俺の方が変な感じだ。

 まあ、キュウを連れてきてくれたし。悪い人には見えないし。

 なんてったって、腹が空いているし。


 ……ま、いっか。


「ちょっと変わったスキルなんで。あんまり人に見せたくないんですけど」


 他言無用って遠回しに言ってみたけど、通じたかな?


「ふん。生意気を言いおって。どれ、見せてみろ」


 なんか、俺の師匠みたいな物言いなんだよね、このお婆さん。


「じゃ、じゃあ。ステータスオープン」


 さてさて。何を注文しようかなー。

 さっきまでは牛丼の口だったけど。こうしてメニューを見ていると目移りしちゃうんだよな。


 ああやっぱ、久しぶりに寿司かな。うん。寿司だな。ん? ちょっと待てよ。海鮮丼にするか。ああイクラを大量にこぼしてくれ!

 よっし! これに決めた。ポチッと。


「お、おぅっと」


 立ったまま注文してしまい、もうちょっとで落とすところだった。


「なんじゃそりゃ?!」


 老婆の目が爛々と輝いていて怖い。そうだった。そもそもたかり癖のある奴なのに。こんなの見せた日には――。

 やべっ。一生たかられるんじゃない?


「よく見えなんだ。もう一回じゃ」

「は?」

「早くするのじゃ」

「いや」

「ええい」

「お、お、お、こ、こら、ちょっ。なんで」


 老婆は飛び上がって、俺のステータス画面を触ろうとしている。他人のアイテムを使えたりするものなの?


「キュウ! キュウ!」


 俺が老婆と遊んでいると思ったのか、キュウまで俺のステータス画面めがけてピョンピョンと飛ぶ始末。

 もうー!!


「分かった。分かりました! はい。これでいいんでしょう」


 仕方がないので、さっきやめた寿司十二貫を注文することにした。


「いきますよ。注意してくださいね」

「おう!」


 ボテンと出てきたところを、老婆が速攻で受け止める。

 うわっ。それにしても、すごい反射神経。


「ほおー! こりゃ便利じゃのう!」


 ……あ。嫌な予感。

 老婆の両目が虹みたいにアーチ型になってる!


「あ、あのー。お婆さん」

「心配はいらん。誰にも言いたくないんじゃったな。黙っておいてやるから、その代わりにこれからはワシの分も頼むぞ」


 やっぱりーっ!


「ほら、早く食わんか。スライムのレベルを上げるんじゃろ」


 そう言う老婆はちゃっかり寿司を食べ始めている。さっき食べたばっかりなのに。よく入るなー。


 ああ、それにしても一生の不覚。ここは耐えて部屋に戻るべきだった。くそー!


「キュウー。キュウー」


 キュウが拗ねるような顔つきで俺の胸あたりにぶつかってくる。


 そうか。早くレベルを上げたいんだね。そうか。そうか。やる気満々だな。

 先々のことはいったん置いておいて、まずは飯を食ってキュウのレベルを上げてやろう。うん。そうしよう。

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