借りパク聖女

 やあ、僕の名前はヘレシー!

 小さい頃に呼び出した守護獣のおかげで召喚師としての素質を認められた僕は、昨日からあの有名なヴァリエール召喚師学園に入学する事になったんだ!


 今はついさっき契約した召喚獣とお話しする時間だよ! 召喚獣と仲良くできるかは召喚師としてはもちろん、今後の学園生活でも最重要になってくる事項だから召喚直後のコミュニケーションは特に大切なんだ!

 僕以外の人達は召喚場の反対側に集まっているよ! ティアラの女の子はレティーシアと何か話していて、護衛の人達は武器に手を掛けながらこっちを見ているね! なんだか警戒されているみたいだけど、召喚前に一瞬だけ繋がっちゃったハッピーの知り合い達の雰囲気に驚いちゃったのかな? 彼女達は全然怖い存在じゃないし、そもそも今回契約した子とは無関係だから心配する必要は無いよ!


「それで、ハイドラさんは海の深い所から来たんだよね?」

「は、はい。……あの、すみません、『ハイドラ』って呼び捨てにして貰ってもいいですか?」

「え? うん。じゃあハイドラで」

「っ……ありがとうございます」


 僕の召喚に応じてくれたのはハイドラさん……じゃなくてハイドラ! ちょっと種族が分からないんだけど、取り敢えず海の生き物らしいよ!

 ヌルヌルしてるのに不思議と床を濡らさない触手とか、人間の基準では露出多めに見える服装とか、まさに涼しげで海が似合うよね!


「君って地上にいても大丈夫なの? 息苦しかったり乾燥しちゃったりしない? もちろんずっと召喚したままにする訳じゃないんだけど、授業でしばらく出たままになってもらう事があるかも知れないからさ。あ、もし駄目でも水槽とか用意するから気にしないでね」

「ありがとうございます。でも心配はいりません。呼吸はできますし、水だって喚び出せるので好きな時に好きなように使っていただけると嬉しいです!」

「へー……なるほど?」


 呼び出されて嬉しいってどういう感覚なんだろうね? 召喚獣には召喚獣の価値観があるって事なんだろうけど、ちょっと人間には難しいかな!


螫峨@縺�〒縺吶h嬉しいですよ……?窶ヲ窶ヲ�溘蛻�分かりやすく言えば、°繧翫d縺吶自分の淵源に¥險縺医もう一つ∬�蛻��次元が豺オ貅舌↓繧ゅ≧創造されて荳縺、荳也いくような阜縺悟卸騾�縲感覚でしょうか……


 あ、うん…………よく分かったよ! ありがとう!


「あと、僕の守護獣……護衛役として契約してもらってる召喚獣がもうひとりいて、ハイドラがある程度この環境に慣れてから紹介しようと思ってるんだけど……君って血とか内臓とか見るの大丈夫なひと? 彼女、結構個性的な見た目をしてるんだよね」

「あ、先輩がいらっしゃるんですね……。よく分かりませんけど、そのくらいなら普段の食事で見る事も多いので平気だと思いますよ。それに、私自身こんな体ですし……」

「それならよかった。彼女はハッピーっていってね、小さい頃から一緒にいる家族みたいな間柄なんだ。とても良い子だからきっとすぐに仲良くなれると思うよ」

「ヘレシーさんのご家族……? わ、私、認めてもらえるように頑張りますね……!」

「いや、そんなに気負わなくても大丈夫だから……」


 胸の前でグッと拳を握って何かを決意している姿はとっても可愛らしいんだけど、僕に名前を呼び捨てさせておきながら自分は敬称付きで呼んでくるのはどうなんだろうね? 別に召喚師と召喚獣って主従関係じゃないんだけど……。


「色々と訊いてばかりで申し訳ないんだけど、もう少し質問してもいいかな? 久しぶりの召喚だから勝手が分からなくてさ」

「はい、もちろんです! 全て嘘偽りなくお答えします!」

「そっちも気になる事があれば何でも質問してくれて良いからね」

「はい……え、何でも……?」


 僕とハイドラはまず陸棲と水棲っていうところから違うから、互いの常識や価値観を理解し合うためにも認識のすり合わせは入念にしておきたいよね!

 あんまり個人的な事情に踏み込むのも良くないと思うんだけど、その辺りの塩梅は召喚師として腕前が問われるところだよ!


「ちょっと答え難い質問かも知れないんだけど……その足って僕が触れても大丈夫なやつ? 意識して距離を保たないとうっかり触っちゃいそうでさ」

「大丈夫なやつです。いっぱい触って下さい。どうぞ」

「じゃあちょっとだけ……おー」


 にゅっと伸びてきた足に触れてみたけど、これはなんというか……面白いね!

 クニュクニュと柔らかくて滑らかだけど、ずっしりとした質量も感じられる不思議な触り心地だよ! 一本だけで人間を圧倒できる力強さでありながら、全身を投げ出して預けたくなる大木のような安心感! ゆっくり撫でると僅かに手が沈み込んでいく感覚が気持ちいいね!


「あ、ありがとうございます……!」

「ありが──え、なんでそっちが感謝してるの……?」


 なんか拝まれてるんだけど何これ……? 宗教的な話?

 流石に初対面でする話じゃない気がするから、早く次の質問に移ろう!


「えーっと、この足って何本あるの?」

「えへへ……あ、すみません……こほん。基本的にはこの九本ですが、もっと増やせますよ。何本が良いですか?」

「……いや、今のところ特に希望は無いかな……」


 増えるんだ……海の生き物ってそうなの? 彼女が特殊なだけ?

 体の部位が増えたりするのってハッピー達だけの特性かと思っていたけど、海中も含めた世界規模で見ると意外と一般的な能力なのかも知れないね!

 生活圏が大きく違う相手と話していると新しい発見が沢山あってすごく勉強になるなぁ。ハッピーの居た空間もこことは全然違う場所だったから、彼女の話を聞いて子供ながらにワクワクしていたのを思い出したよ!

 ハッピーは僕と契約する直前くらいからの記憶しか無いらしいけど、それでも当時の常識を打ち破るのに十分な情報量だったね!


縺ゅ�譎ゅあの時は、�遘√r隱咲衍縺ァ縺私達を認知できない阪↑縺�ュ医�筈の相手から逶ク謇九→諢乗晉鮪騾話し掛けられたので壹〒縺阪◆縺ョ縺ァ譛ャ本当に驚きました……


 懐かしいね! しばらくハッピーの知り合いに同族だと疑われていたのは良い思い出だよ! 


「あの、私からも質問していいでしょうか……?」

「もちろん。注意した方がいい貴族とか、無視しないと面倒な貴族とか色々教えられるよ!」

「ヘレシーさんから見て、私の姿……どう思いますか……?」

「姿……?」


 ハイドラの外見は……人間からしたらちょっと服装が大胆なようにも見えるけど、それ以外は文句の付けようがないくらい完成したスタイルだと思うな! 服の事だって文化の違いだろうし、人間の目線から言うことは何もないよ!

 とはいえ何も言わなくても不安になるだろうから、ここは思った事をそのまま伝えておこう!


「とっても美人さんだよね。最初に見た時はビックリしちゃったよ」

「へっ……? あ、あの……好きです……じゃなかった、ありがとうございます。でも、質問の意図はそうじゃなくって……」


 なんか違うみたい!

 というか彼女、さっきからたまに変なこと口走ってない? 足を九本も動かすなんて相当頭が良くないと出来ないと思うから、頭が良すぎて逆に思考がこんがらがったりするのかも? 筆記テスト最下位の僕には無縁の話だね! 


「……その、私の足をどう思いますか? 冷静になって、落ち着いて考えて、気味が悪くありませんか?」

「? 第一印象を取り払って、ってこと?」

「醜く、ありませんか? 嫌じゃ、ありませんか……?」

「……」


 ……。




 ???????????

 ちゃんと床に接地してるし、皮も剥がれてないし、肉も溶けてないし、体液も滲み出てないし、決まった場所に付いてるし、ハッピーと違って九本しかないのに?

 というか全体像からしても擬態したハッピーよりも更に人間に近いんだから、ハイドラの外見を気味悪がる人がいるとしたら人類を滅亡させるくらいしないと落ち着いて生活できないと思うよ! 僕はそんな怪しい教団みたいな目標は掲げてないからね!

 確認のためにもう一度ハイドラの足に触ってみるけど……うん、剥き身の筋肉が手に吸い付いてこない分、ハッピーより撫でやすいかな!


「つるりとしていて見た目にも綺麗だし、感触も柔らかくて気持ちいいと思うよ。君がいてくれたら枕と布団が返ってこなくても大丈夫かもね」

「っ……ほ、本当に……?」

「うん。何をするにしても器用に人一倍出来そうだし、側にいてくれるだけで安心感があるよ。その上こんなに可愛いんだから契約者の僕も鼻が高いってもんだね」

「か、可愛い……!?」


 お肌も白くてスベスベだよね! 人間も深海に転送させたら肌が若返ったりするのかな? そういう商売をしたらお小遣いが稼げるかも知れないね!

 お店を開いたら美容に特に関心のあるお貴族サマに人気が出るかも! 王都中の貴族を深海に転送したら感謝される事間違い無しだね!


「あまり外見ばかり褒めるのも良くないかも知れないけど、顔立ちはすごく整ってて美人系だし、表情がよく変わって可愛らしいよね。内面も全く心配してないし、召喚に応じてくれたのが君で本当に良かったと思うよ」

「ぅ、あう……その、分かりました。すみません、もうそのくらいで勘弁して頂けると……」

「後は……その少し前髪が反ってるところも可愛らしいよね。寝癖かな? でも全然気にしなくていいよ! 急に呼び出したのはこっちだし、女の子のそういうところも魅力的で良いと思うから!」

「え、嘘……!? し、失礼します……っ!」

「あれ?」


 ハイドラが黒い水溜まりに入って戻ってこなくなっちゃったよ! 初対面の相手に寝癖を指摘するのは配慮に欠けてたかな! ごめんね!

 まぁ召喚獣として契約してる以上は何度でも呼び出せるんだけど一旦そっとしておこうかな! 今は少し時間を置いた方がお互いにとって良い気がするよ! 信仰先んじて畑凍る(急いては事を仕損じる)っていう言葉もあるしね!


「化……何…………なって……?」

「……の眷属…………邪教……………」

「今すぐ………するべき………………ご決断を……!」


 話し相手がいなくなって召喚場の反対側を見てみると、ティアラの女の子と護衛の人達が歓談している様子が確認できるね! そこから少し離れた位置にクラスメイトも集まってるよ!

 どうやら授業の途中で召喚獣に逃げられたのは僕だけみたい! 先生にもバッチリ見られちゃってるし、これは成績に響くかも知れないね!

 この学園って退学とかあったりするのかな? 成績が悪くなるのは全く構わないんだけど、召喚師の資格は欲しいから退学になるのは避けたいところだよ! 無資格で召喚獣をいっぱい出すと村長さんの首が飛んじゃうからね!


「違…………彼………い夢…………守………温かな………私達………………」


 レティーシアがこっちを見ながらティアラの女の子に何かを語ってるんだけど、なんだか内容が不穏な気がするから止めに行こうかな! コン子さんの神聖な雰囲気も相まって迷える子羊に教えを説くお伽話の聖女様みたいになっちゃってるよ!

 布団と枕を借りパクした本人とは思えない厳かで堂々とした立ち振る舞いには感動すら覚えるね!


縺ゅ�蟄あの人、舌∝励�遶区セ志は立派ですけど縺ァ縺吶¢縺認識が少しゥ隱崎ュ倥′蟆代@ズレてますね……繧コ繝ャ縺。繧顕現しても�▲縺ヲ縺セ縺�いいですか?


 絶対だめ!!

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