第2話 ロジータ10歳、今、底に到着したところ


 とりあえず、私は『フライ』の魔法を解除しました。この魔法は、前世の記憶を元にしています。

 ストンッと降り立った場所は、真っ暗な洞窟の竪穴の底。猫獣人の目のおかげか、周囲はけっこう広いようで、出口らしい場所が見当たらないことはわかります。

 そもそも、ここは、ダンジョンのどの階層にあたるのか。上を見上げても、光一つなく真っ暗で、どこから落ちてきたのかもわかりません。


「はぁ……」


 思わず、大きなため息が出ます。

 涙は止まりましたが、顔はぐしょぐしょ。私は、地面に落ちているお気に入りのキャスケットを拾ってかぶりなおすと、お姉さんたちに取り上げられたはずの斜め掛けのバッグ(亡き母から譲り受けたマジックバッグ)から、大判のハンカチを取り出して顔を拭いました。


 今回ポーターでついていったパーティは、地元でも有望株で有名なDランクのパーティでした。たぶん、あと1回か2回、クエストをクリアすれば、Cランクになるはずです。

 そのパーティのリーダーから直々にポーターの指名をもらって、浮かれていたのは認めます。でも、それって、穴に突き落とされるほどのことなんですかね?

 そりゃ、自分で言うのもなんですが、10歳のわりに背もあるし、そこそこのメリハリボディになっちゃってますけど。むしろ、目立たないようにと、大きめなキャスケットに、ダボダボな上着、太めのズボン、長めのハーフコートと、体型を目立たないようにしてましたけど!

 顔が可愛いって言われたって、それって、親からもらったもんだし。

 年誤魔化して、化粧して、媚びてんじゃないわよ、と言われたって、こっちとしてはすっぴんなんですけど! って言っても信じやしないし!

 その上で、私のマジックバッグを取り上げて、突き飛ばすとか、最低ですよね?


 まぁ、このマジックバッグは、すでに亡くなった母と同じ血脈である私にしか使えない使用者限定の物ですし、盗まれても、私の手元に自動で戻ってくるんでいいんですけど。


「……あ。あの人達の食料とか、荷物一式、入ったままだ」


 ポーターとして雇われたのは、このマジックバッグがあるからで、当然、彼らの荷物を預かっていたし、ダンジョン内で倒した魔物たちからのドロップ品も預かってました。


「あーあ。あの人たち、ちゃんと戻れるんだろうか」


 再び、上を見上げます。

 私が落とされたのは、確か、地下14階だったはず。入口に戻れる転移陣は10階ごとにあるので、そこまで戻るなり、進むなりすれば、なんとかなるのかもしれません。あ、進む場合はボス部屋があるから、戻るしかないのかも。


「まぁ、自業自得だよね」


 私はとりあえず、ここで休憩しておこうと思いました。

 私の視界の範囲には魔物の姿も見えないし、当然気配もないので、ここはいわゆるセーフティーエリアなんじゃないか、と思ったのです。


「さて、『私』のインベントリは使えるかな」


 目の前の真っ暗な空間に、音もなく、半透明な『A4』サイズの『画面』が現れました。


「ふむふむ……ちゃんと残ってるし、使えそうね。よかった」


 その『画面』には、インベントリの中に入っている物が一覧となっています。

 ホッとした私はインベントリから、『野営道具一式』からテントを選びました。

 ……これは、前世の『私』の遺産とでも言えばいいのでしょうか。助かりましたけどね。


            + + + + + + + +


 ロジータの身長は150cmくらい。

 ちなみに、パーティのお姉さんたちは人族だったけれど、高身長の女性たちでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る