魔王討伐の前段階だ!

 イーラ魔王城へのダンジョンアタックを繰り返し、みんなのステータスを上昇させることに成功した。

 ザコ敵は安定して倒せるようになってきたので、そろそろ次のステップへと進みたい。

 そこで、中ボスであるヴァンパイアに挑むつもりだ。顔色が悪く、マントをまとったイメージ通りの存在。

 だが、イーラと同じようなスキル、動きを持っている。ただステータスだけが下位互換。


 魔王イーラに挑むための試金石として、しっかりと使える相手だ。

 いま挑んでおいて損はないよな。十分勝てるだけのステータスは、みんな持っているのだから。


「今日は強敵に挑みましょう。そろそろ勝てるはずです」


「分かった。なら、行くか」


「私達も、ずいぶん強くなったからね」


「絶対に皆さんで勝ちましょうね~」


 やる気は十分みたいだ。なら、問題ないだろう。

 そのままイーラ魔王城に向かい、中ボスのところまで進んでいく。

 道中のザコ敵で俺のHPを減らしていく、いつもの流れもこなしておいた。

 さあ、後はヴァンパイアを倒すだけだ。みんななら、絶対に勝てる。


 ヴァンパイアは物理攻撃、魔法攻撃、バフ、デバフ、状態異常スキルと幅広い攻撃をおこなってくる。

 『セブンクエスト』の集大成的ボスだ。魔王イーラは同じようなスキルで、もっと強い。

 使い回しもあるのだろうが、イーラに挑むための準備としての側面もあるのだろう。

 ヴァンパイアを知らずに初見でイーラと戦って勝てるやつは、そうはいないだろうからな。

 ちゃんと強い敵に挑ませるための備えをさせる。そのための中ボスのはずだ。


「じゃあ、行きましょうか。イヴェイドエンド。アピールタイム。トレードカース。ペインディヴァウアー」


 いつもの流れに、敵と自分にデバフをかけるスキルを組み込む。

 俺と敵のステータスが同時に下がり、ソル達の攻撃が通りやすくなる。

 そこで、俺はいろいろとサポートに回る余裕ができるというわけだ。

 敵は色々なからめ手を使ってくるからな。対策が必要だ。


「アタシも続くぞ! パワーチャージ。メガスラッシュ!」


「私もだね。クイックスペル。ダブルマジック。メガファイア!」


「行きますよ~。コンティニューヒール~」


 ソルとセッテはいつもの流れで攻撃して、ユミナは念のために継続回復をかける。

 うん、悪くない立ち回りだ。パターン化できているというのは強いな。


 ヴァンパイアはまず剣を振り下ろしてくる。よけておけば良い。

 次いで、魔法を放ってくる。全体魔法だ。アピールタイムだけでは無意味な攻撃。

 ソルとセッテ、ユミナもダメージを受けていく。

 コンティニューヒールの効果もあるが、まだ足りない。


「回復しますね~。オールヒール~。ハイヒール~」


「サクリファイスヒール」


 ユミナの全体回復魔法で俺のHPも回復してしまったため、即座にユミナにサクリファイスヒールをかけて俺のHPをもう一度減らす。

 一度のサクリファイスヒールでHPを削りきれるのならば、問題はない。むしろ良いコンビネーションかもしれない。


 今度は敵が状態異常スキルを使ってくる。毒と麻痺、火傷を同時に受けていくみんな。

 麻痺があるから、俺のやるべきことは決まっている。


「ポートコンディション。ユミナさん、ソルさんとセッテさんを」


 ユミナの状態異常を受け取っておいて、彼女を動けるようにする。


「キュア。キュア~」


 そしてソルとセッテの状態異常を回復してもらえば、あとはいつも通りだ。


「攻撃しますよ。ポリューションアタック。ペインディヴァウアー」


 状態異常を受けているほど、攻撃の威力が上昇するバフをかける。

 後はいつもどおりに剣を振り下ろしていくだけ。

 やはり、『肉壁三号』のビルドは強いな。デメリットをメリットに変換できるのは、相当便利だ。


「アタシも! スラッシュ! ハイスラッシュ! メガスラッシュ!」


 ソルはヴァンパイアに何度も切りつけていく。さすがにアピールタイムだけではヘイト稼ぎが足りないのか、ソルに向かって剣で反撃される。

 だが、ソルは敵の剣を避け、また切りつけていく。


「アピールタイム。こっちに来てください」


 重ねがけしてみると、今度はヴァンパイアの攻撃がこちらに飛んできた。

 だが、後ろに味方はいないから好きなように避けられる。

 俺がこれまでずっと練習してきた成果が発揮できて、とても楽しい。


「ファイア! ファイア! ハイファイア!」


「わたしも~。メガホーリー」


 セッテとユミナが魔法をぶつけていく。

 今度は炎の初級魔法と光の上級魔法のコンボだ。

 俺が攻撃を引き付けているおかげで、セッテ達は一方的に攻撃できている。


 それからも同じような動きを何度も繰り返し、やがてヴァンパイアは弱っていく。


「さあ、これでおしまいです。ペインディヴァウアー」


「アタシも! 持っていけ、最後のMP! メガスラッシュ!」


「続くよ。メガファイア!」


「わたしもです~。メガホーリー」


 それぞれの全力をぶつけていって、ヴァンパイアは倒れた。ソル達はMPを使い切るほどの戦いだが、十分に安定して勝てた。

 イーラはもう少し賢いAIだったとはいえ、基本は同じだ。

 だから、魔王討伐のための準備はおおよそ整ったと考えていいだろうな。もう少し、ステータスは上げたいが。


「レベルが上がったぞ。やはり、魔王は違うな」


「……? 今回倒したのは中ボスですよ?」


「そうなの? なら、魔王はもっと強いのかな」


「ヴァンパイアと同じようなスキルを使ってきますね」


「でしたら、魔王にも勝てるはずです~」


「そうですね。勝つための条件はほとんどそろっているはずです」


 後は魔王を倒してしまえば、俺達の冒険はおしまいだ。さびしくなるな。

 でも、だからといってみんなとお別れにはならないはずだ。

 魔王を倒したその先を楽しむために。魔王なんて軽く倒さないとな!



――――――



 ソル達はイーラ魔王城で、クリスに言われた通りの強敵と出会う。

 これまでの敵とは違い、ユミナの回復も大活躍するほどだった。

 にもかかわらず、魔王ではないのだという。


 MPが尽きるほどの激戦だったにも関わらず、本命ではない。

 一瞬のぬか喜びがあったせいで、ソル達はどん底に叩き落されたような気分だった。

 いつものように、宿で語り合うソル達。


「結局、アタシ達ではクリスの役には立てないのかな。もっと強い相手に、どうやって活躍すれば良いんだ」


「ステータスを上げて、スキルも覚える。それしかないよ」


「ですね~。急いだところで、クリスくんの負担が増えるだけです~」


「ああ。そうだな。二人は知らないかもしれないが、アタシは先走って余計な迷惑をかけたからな」


「なら、同じ間違いは繰り返せないよね」


「そうだな。結局、クリスに頼り続けるわけか。ステータスを上げる戦いにも、クリスの協力は必要だからな」


「でも~。クリスさんと魔王を倒せば、その後はクリスさんは自由ですから」


 ユミナの言葉など言い訳でしかないと、ユミナ自身すらも理解していた。

 だが、未来の希望にすがりでもしなければ、立っていられない。

 ソル達は皆、自分達の弱さを憎み続けていた。

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