魔王討伐ももうすぐだ!

 トリの街にお別れをして、第四の街フォスへとやってきた。

 雪国という雰囲気の街で、あまり人がいる気配はない。

 まあ、この世界では魔王城の近くなのだから、住みたいやつなんて少ないよな。

 魔王城の近く。いよいよ俺達の冒険も終わりに近づいているな。

 さて、魔王を倒したら何をしようか。さすがに気が早いか?


 魔王城の敵はみんな強いし、慎重に進んでいくべきだよな。

 俺はともかく、仲間たちの負担が大きくなってしまう。


「もうすぐ魔王城ですね。それでも、ゆっくりと進んでいきましょう。急いでも仕方ないです」


「そうだな。命あっての物種だ。逃げるべき時には逃げないとな」


「うん。せっかく魔王討伐が見えてきたんだ。油断なんてしていられないよね」


「わたしもみんなを守ります~。もっともっと、強くなるんです~」


 しっかり準備をしないとな。幸い、魔王を倒すまでにはしっかりと導線が引かれている。

 ちゃんと初見でも倒せるようなゲーム作りがされているのだ。

 よく分からない殺しがないのはありがたいよな。まあ、俺は初回プレイでは全滅したが。

 とはいえ、しっかりと対策するつもりだ。俺は安全ではあるが、みんなは命がけなんだから。


「はい。しっかり強くなりましょう。十分に準備をしましょう」


「ああ。クリスこそ、無理はするなよ。アタシ達だってちゃんとやるから」


「そうだね。クリスくんに頼るだけの私達じゃないよ」


「わたしも頑張ります~。みんなの力で魔王に勝ちましょう~」


 魔王イーラの居城である、イーラ魔王城が魔王討伐の最後の壁だ。

 しっかりと高難度なので、油断は禁物。

 それでも、俺がいて逃げることすらできないほどじゃない。

 みんなが十分に強くなれるように、頑張ってサポートしよう。


「それじゃあ、まずはミリアさん達と合流しましょうか。宿ですよね」


 そして俺達はミリアとエリカのもとへと向かう。

 フォスは人も少ないし、店も少ない。たどり着いた宿だって、これまで泊まってきたものよりずいぶんと質素だ。

 やはり、魔王の脅威を目前にしながら普段通りの生活を送れる人間は少ないのだろうな。

 あるいは、発展する前にモンスターに打ち壊されでもしたのだろうか。

 トリには大きな門があったからな。フォスにはろくな防御設備がない。


 まあ、理由なんて何でも良い。モンスターが宿を襲撃してきたら困るが、それだけだ。

 ミリアとエリカさえ無事でいてくれるのならば、他は気にすることじゃない。

 いま思ったのだが、二人にはプログの街で待っていてもらったほうが良かったか?

 そうでもないか。エリカの占いがあれば、最悪の事態は避けられるはずだ。心配のし過ぎも良くない。


 宿に入っていくと、すぐにミリアとエリカが出迎えてくれた。

 一度訪れた街には転移のアイテムでたどり着けるのは便利なのだが、よくフォスまで来たことがあったな。


「ようこそ。この街でも、皆さんのサポートをさせてもらいますね」


「はい。ところで、エリカさん。占いではエリカさん達に危険はないんですよね?」


「はいです。私達の安全は確保されているので、安心して冒険に向かってくださいです」


 なら、いつも通りに冒険を楽しめるな。街が襲われてミリア達に何かあったら、後悔では済まないからな。

 俺が冒険に精を出していられるのも、ミリア達がいてくれるからなんだから。大切な相手なんだから。


「なら良かった。皆さんに何かあったら、ボクは悲しいなんて言葉じゃ言い表せませんから」


「心配してくれて、ありがとうございます。クリスさんのためにも、私達は身の安全を確保しますから」


「よろしくお願いします。魔王を倒した後には、ミリアさん達といっぱい遊びたいです」


「クリスさんの期待には、必ず応えてみせますです。私達が、クリスさんの帰る場所です」


 帰る場所か。いいな。前世ではあまり気にしていなかったが、帰りを待ってくれる人の存在はとても力になる。

 本当にこの世界に転生できて良かった。ゲームを楽しむだけじゃない。人との関わりも楽しいんだ。


「ミリアさん達と過ごすためにも、慎重に魔王城を攻略していかなくてはいけませんね」


「アタシ達だってクリスの力になる。そして、クリスの幸福を守ってみせる」


「そうだね。ここまで来て負ける訳にはいかないよ。絶対に、魔王を倒してみせるよ」


「わたしは、皆さんのどんな傷でも癒やしてみせます~」


 頼りになる仲間たちもいて、とにかく最高だ。

 だからこそ、絶対にみんなを失わなくて済むように全力を尽くす。

 俺にできることは全てやって、必ず魔王を討ち果たしてみせる。

 それから先の未来で、みんなと仲良く過ごすためにな。


「皆さん、頑張っていきましょう。急がず焦らず、確実に成長していきましょうね」


「ああ。クリスの足を引っ張らないようにしないとな」


「私達が成長すれば、クリスくんも楽ができるからね」


「はい~。クリスさんの出番なんてないくらいに~」


「ボクはお役御免ですか? それは困っちゃいますね」


「クリスさん。役に立とうなんて考えなくてもいいんです。無事に帰ってきてくれるのならば、それだけで」


「ですです。あなたを犠牲にした平和になんて、何の意味もないです」


 ああ、みんなが俺との未来を望んでくれている。

 だからこそ、全力で頑張っていこう。俺が最強の『肉壁三号』になったのは、きっとみんなを守るためだから。

 よし、これからも全身全霊だ! 魔王なんて一捻りにしてやるぞ!



――――――



 魔王城の近くにある街、フォスにたどり着いたソル達。

 そこで、クリスの様子がいつもと違うことに気づく。

 普段は自分ならば大丈夫だという雰囲気を出しているクリスが、今回は慎重なのだ。

 おそらくは、魔王討伐を目の前にして緊張しているのだろう。


 クリスが不安になるほどの敵に対して、自分達はどれほど戦えるだろうか。ソル達は誰もが未来を恐れていた。

 結局のところ、クリスがいなければ魔王討伐などできないのが自分達だ。

 どれだけ足を引っ張り続けてしまうのだろうか。そんな考えばかりが思い浮かんでいた。


 クリスの力になりたいと、誰もが考えている。なのに、どこまでも遠いとしか思えない。

 ソル達は皆が強い強い無力感に襲われていた。

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