魔法使いの火力は最高!

 何度もダンジョンアタックを続けて、みんなのステータスも上がってきた。

 そこで、今日はボスに挑む予定だ。ナダラカウルフという名のボス。

 詳細は出会った時に考えるとして、心構えだけはしておきたいよな。

 俺がいれば絶対に勝てる相手とはいえ、みんなにケガをさせたくはないからな。


「今日はボスに挑みます。エリカさんに、一応占ってもらいましたよ」


「結果としては、命の危機は考えなくていいです。油断すれば話は別ですが。頑張ってくださいです」


「との事なので、行きましょう。魔王討伐に向けての一歩です」


「分かった。いい加減、ひとつくらいはダンジョンを攻略しておきたいよな」


「私はもっとのんびりしていても良いけど。まあ、仕方ないよね」


「納得していないなら、無理についてくる必要はありませんよ。命がかかっているんですから」


「ううん、大丈夫。クリスくんの力になりたいんだ」


「セッテがいれば心強いな。魔法があるだけで、戦力がぜんぜん違うからな」


「では、行ってらっしゃいです。あまり話していると、日が暮れちゃうですよ」


「じゃあ、行ってきますね」


 そして俺達はナダラカ平原へと向かっていく。

 道中の敵にはもう慣れたもので、手早く倒していけている。

 俺達の成長を感じるよな。ソル達のステータスが伸びたこともそうだが、俺も立ち回りがうまくなった気がする。

 セッテの射線を意識しつつ敵の動きを妨害したり、ソルの攻撃が当たりやすいように誘導したり。

 現実ならではの動きができるようになってきて、成長を実感できている。


「うん、うまい具合に成長できていますよね。これなら、きっとボスにも勝てます」


「ああ。アタシ達だって、ただ守られるだけじゃないんだからな」


「そうだね。クリスくんの負担は減らせているはずだよ」


 どうせダメージなんて受けないんだから、別に気にしなくてもいいのに。

 それでも、ソルたちの優しさは本当に嬉しいから、否定するつもりはない。

 俺だって2人の力になれているといいが。大切な仲間なんだからな。


「ふふ、頼りにしています。いい仲間と出会えて、ボクは幸せです」


「なら、順調にボスにも勝てるといいね」


「そうだな。いい調子で進めていきたいものだ」


 そのままナダラカ平原を進んでいき、ナダラカウルフを目の前にしている。

 黒くて大きいオオカミといった感じで、威圧感がすごい。

 流石にハイゴブリンとは格が違うというのが、見た目からも分かるんだよな。

 ナダラカウルフは大きくて牙が鋭くて、角まで生えている。まさにボスという感じだ。


 こちらの方を向いたので、戦闘態勢に入る。まずは、ヘイト稼ぎだ!


「アピールタイム。こっちに来てくださいね」


 挑発スキルを使ったことで、ナダラカウルフがこちらに攻撃してくる。

 だが、まだ始まりだ。お前の弱点はよく知っているんだよなぁ!


「これでどうですか? トレードカース」


 自分にデバフがかかる代わりに、敵にもデバフを与えるスキルを使う。

 ナダラカウルフはデバフの効果が増幅されるという特性がある。

 なので、実質的にはバフを使ったようなものだ。弱体化の量の差で、俺のほうが更に強くなったのだから。

 原作的には、いいかげん搦め手を覚えろというボスなのだろうな。

 だから、ここまで露骨にデバフに弱い。とりあえず高火力スキルを使うプレイヤーをここで殺してくるんだ。


「デバフがかかったのなら、こちらのものだ! ハイスラッシュ!」


「私は詠唱すればいいんだよね。いくよ」


 セッテが上級魔法を唱えていく。さあ、後はいつものように、セッテが魔法を放つまでに確殺ラインまで削り切るだけだ。

 簡単だな。俺には攻撃が通らないから、適当に相手の技を受けていくだけでいい。

 回避する必要すらないのは、楽なものだ。バフをかけるスキルなんて、『肉壁三号』にはほとんどないからな。防御を強化する機会は少ない。


 徹底した自己犠牲ビルドだが、だからこそ遊んでいて面白かった。

 HPを減らして、デバフを受けて、それが火力に変わっていく感覚は新鮮だった。

 まだまだ『肉壁三号』の本領は発揮しきれていないが、みんなのおかげで新しい楽しみもある。

 みんなと一緒に『肉壁三号』の全力を味わい尽くす瞬間が楽しみだ。


 ナダラカウルフは噛み付いてきたり、前足で攻撃してきたりする。

 どれもスキルで、いちおう名前がついている。グレートバイトとウルフキックだったかな。

 両方とも単なる火力スキルだが、デバフの効果でまるで威力が出ない。

 万が一ソルやセッテに攻撃が当たっても大丈夫なのは、安心できる要素だな。


「何をしても無駄です。ボクには通じませんよ」


「だからといって、クリスに攻撃するんじゃない! ハイスラッシュ!」


 ソルの優しさが心にしみる。まあ、ソルが危険になる方が困るので、やり過ぎられると迷惑だが。

 でも、以前の失敗から明確に引き際というか、危険なラインを見極められるようになったよな。

 しっかりと頼りになる感じで、ありがたい。実際、俺が駆け出しなら尊敬できたと思う。


 ソルの強さを確認しながら、セッテの詠唱までの時間を稼いでいく。

 ナダラカウルフは炎が弱点で、セッテはメガファイアを唱えてくれている。あと少しみたいだ。

 俺はセッテの詠唱を待ちながら、適当に敵の攻撃を受けていく。回避を考えなくていいのは、簡単でありがたいことだ。

 せっかくだから回避を練習してもいいかもしれないが、失敗してソル達に攻撃が当たりでもしたら最悪だからな。もっと弱い敵で練習しよう。


「行くよ、メガファイア!」


「ならアタシも! フルスラッシュ!」


 なるほど、考えたな。最大火力を一気に集中することで、そのまま落としてしまおうというわけか。

 ソルはMPを節約しているし、フルスラッシュの威力が高くなるだけのMPはあるはず。

 だから、万が一メガファイアで足りなくても、フルスラッシュのおかげで倒せるだろう。

 ソルがMPを全部使い切るのはリスキーだが、最悪MPポーションがあるからな。


 結果的には何も問題がなかったようで、ナダラカウルフはそのまま倒れていった。

 これで、ナダラカ平原の攻略は完了だな。うんうん。


「やりましたね、みなさん。これでボスを倒せましたよ」


「ああ。アタシ達のパーティとしての活躍だな」


「私も力になれたみたいで、良かったよ」


「セッテさんのおかげですよ。上級魔法の大火力のおかげで、ずいぶん簡単でしたから」


「ああ、自信を持っていいよ。アタシだけでは火力が足りなかったからな」


「なら、良かった。クリスくん。私にできることがあったら、何でも言ってね」


「分かりました。これからも頼りにさせてもらいますね」


 俺達は達成感に包まれながら、和やかな会話とともに帰っていった。

 セッテが加入してくれて、本当に良かった。パーティとしての完成度も、もっと上げていきたいな。

 俺1人だけで最強よりも、みんなで最強の方が良いからな。よし、もっと頑張っていこう!



――――――



 セッテは魔法使いとして、仲間の大切さを理解しているつもりだった。

 魔法には詠唱のための時間が必要である以上、周りのサポートが重要なのだと。

 だが、自分が呪文を唱えている間、何もできないことは想像を遥かに超える苦痛だった。


 ただ棒立ちしているのと変わらない自分を守るために、クリスは自らの身体を盾にする。

 あまつさえ、セッテの火力だけでは不十分だからと、自分ごと敵にデバフをかけていく。

 明確に足を引っ張っているという感覚が苦しくて、つらくて、それでもクリスのために呪文を唱え続ける。

 自分が詠唱している間、ずっとクリスは敵の攻撃を受け続けていた。


 クリスに自分のおかげで倒せたと笑顔を向けられる。それでもセッテの頭の中からは、クリスが自分をかばい続ける姿が消えなかった。


「私が魔法使いだから、守られるしか無いんだ。分かっていたはずなのに。クリスくんの代わりができたら、どれだけ楽なんだろうね……」

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